【完結】双子だからって都合よく使われて犯罪者にされたので、ざまあしようとしたら国をあげての大騒ぎになりました

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20.コーネリア伯爵邸に帰還

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「それと引き換えに何を望む?」

「シャーロット様の社交界デビューを」

 ジェロームは知らないがニヤリと笑ったデュークは長年付き従った錬金術師のそれとよく似ていた。




 その日の夜にはデュークの手配でシャーロットの仕事の代わりが見つかっており、女将のミリア達との話も済んでいた。

「デューク、この⋯⋯裏切り者!」

 シャーロットが地団駄踏んで悔しがる横でジェロームは溜飲を下げた。シャーロットの荷物はタニアの手で纏められてデュークに渡され済みで、宿の前にはコーネリア伯爵家の馬車が既に停まっている。

「夜遅い時間の移動ですのでお疲れになられるかと存じますが、明日はゆっくりと朝寝していただければと考えております」

「⋯⋯旦那さん、女将さん。ありがとうございました。裏切り者を始末した後、この街に帰ってこれたらと思います。
タニア、ありがとう。あの時の髪飾り大切にするわね」


 口ではあれこれ言っているがシャーロットはここにはもう帰って来れないかも知れないと思っているのだろう、差し出した手が震えているのが痛ましい。

「いつでも帰っておいでよ。実家に遊びに来るつもりで良いんだからね」

「結婚式、必ず来てよ。約束だからね」



 シャーロットが馬車に乗り込むと正面にジェロームが座り、もう一台の馬車にデュークとウルグス弁護士が乗った。タニア達は馬車が見えなくなるまで見送っていたがシャーロットは一度も後ろを振り返らず背筋を伸ばして座席に座っていた。

(振り返ったら泣いてしまいそう⋯⋯こんな人の前でなんて泣くもんですか!)

 震える手を膝の上で握りしめツンと顎を逸らした。


「賄賂は何だったのかしら? デュークは一筋縄ではいかないはずよ」

「うーん、何だろう。価値観の違いについて話し合ったからかな?」

 昨日の夜シャーロットがジェロームに言った言葉をそのまま返された。

(ムカつく! 大っ嫌いだわ!!)



 ガタゴトと揺れる馬車の中はランプの灯りがゆらゆらと揺れていた。無言で横を向いていたが早起きした疲れからシャーロットはついうとうと眠ってしまった。

(何だか良い匂い⋯⋯ゆらゆら揺れて気持ちいいかも)

 夢見心地のシャーロットがうっすらと目を開けると目の前に人の形をした黒い影が覆い被さっていた。

「きゃー!! いや⋯⋯来ないで。もう、もう⋯⋯もうやめてー」

 身体に触れる自分以外の体温とまるで拘束するように纏わりつく腕に怯えたシャーロットは必死に逃げようと暴れ叫んだ。

「おい、あっ、暴れるな! 落ちるって」


 寝ぼけていたシャーロットはジェロームが馬車から抱いて下ろしてくれたことに気付かず、闇に紛れた輪郭だけの顔に怯えて暴れてしまった。

「おい、落ち着けって⋯⋯ほら、大丈夫だから」

 大声に驚いて駆けつけた使用人達が地面に蹲ったシャーロットを見つけて溜め息をついた。

((また、この女⋯⋯帰ってきたのか))

 パニックに陥っているシャーロットには使用人達の不満そうな気配もわざとらしいため息も聞こえていない。

(もう、大丈夫。ここは大丈夫。はもういないんだから)

 地面に座り込んだままシャーロットは『もう大丈夫』だと呪文のように唱え続けた。




「こんな時間に一体どうされたのですか?」

 呆れたようなジョージの声が聞こえた途端ビクッと飛び上がったシャーロットは慌てて立ち上がり背筋を伸ばした。

「こんな時間に騒がせてごめんなさいね。前回と同じお部屋をお借りすれば良いのかしら? 準備ができていなければ別にどこでも構いませんけれど」

 使用人達の冷たい視線を浴びながら背筋を伸ばして胸を張り堂々と立っているが握りしめたシャーロットの両手が震えている。

(足も少し震えてないか?)

 すぐ隣に立っていたジェロームと真後ろのデュークだけが気付いた。

「みんな済まなかった。私が無理を言ってこんな時間の帰宅になってしまったんだ。みんなは部屋に戻って構わない。シャーロット、行こうか」

「執事のジョージと申します。お客様方は私がお部屋にご案内させていただきます」



 暗闇のおかげでシャーロットの顔色は分からないが多分真っ青になっているのではないだろうか?

(一体何だったんだ? そんなに俺が嫌いだとか⋯⋯まるで化物でも見たみたいに暴れるなんて)

 意識していなくてもピンと伸ばした背筋と優雅な歩き方をするのは流石元公爵令嬢。前回と同じ部屋の前まで来るとシャーロットが小さく頭を下げた。

「先程は大変失礼致しました。では、これで失礼致します」

 シャーロットが人が一人通れるくらいにドアを開けて入りサッサと締めてしまったので、さっきのアレが何だったのか聞こうと思っていたジェロームは拍子抜けした。

(話もしたくない? それとも、その余裕がないとか。傲慢で自分勝手な令嬢だと思っていたがそれにしてはさっきのアレは何だったんだ)



 部屋の中に入ったシャーロットは急いで窓のカーテンを全開にした。震える手ではランプに火をちゃんと着ける自信がない。ここを出て行った時は夏の盛りだったが、夜はかなり涼しくなっている。

 ベッドから毛布を引っ張り出しバルコニーの椅子に座って空を見上げた。

(良かった。月が出てる)


 女子収容所に入ったばかりの頃、夜中に人の気配と苦しさで目が覚めるとベッドの上にのしかかっている女性に首を絞められていた事が何度もあった。

 その女性は収容所の生活に耐えられなくなり心が壊れ、新入りが来ると部屋に忍び込んで同じことを繰り返していた。

『ここの通過儀礼って奴だからねぇ。あの程度でビビってたらここじゃやってけないよ』

 鍵の無い4人部屋。ベッドの上段になった人はラッキーだが、下段になったら彼女が次の獲物を見つけるまで安眠はできない。

(私はずっと下段だったのよね)


 貴族らしさがどうしても抜けないシャーロットは虐めのターゲットになり、ベッドの上段が空いても移動は許されなかった。
 その服役囚がシャーロットの後から来た子に返り討ちにあい別の収容所に移動になるまで続いた。その時からシャーロットは小さな物音でも目が覚めてしまうようになり、あまり眠れなくなってしまった。


(ゴミの浮いた料理ならまだマシな方で、雑巾を絞った汚水に顔を突っ込まれた時は息が止まるかと思ったし。裸で真冬の外に放り出された時は死ぬかと思った。
洗濯係なのに石鹸を隠されたり干した直後に泥水をかけられたり。掃除担当の時雑巾がわりに私の服を使わされた後でそれを着させられた事もあったわ⋯⋯)

 休憩のない労働と罵詈雑言に暴力⋯⋯その捌け口は仲間はずれや虐め。

(アレに比べればここの使用人なんて可愛いもんだわ。デューク達がいる間は大人しくしてるだろうけどその後はどうなるのかしら。でも、黙って従うとは思わない方がいいわよ)


 空の端がうっすらと明るくなってくると、シャーロットは部屋に戻りベッドに潜り込んで朝寝を決め込んだ。




「いいご身分だよ。真夜中に人を叩き起こしておいて、まだ寝てるってさ」

「なら朝食はいらねえな。旦那様達の分だけで後はお前らが食っちまえよ」



 お昼過ぎに目を覚ましたシャーロットはクローゼットを開けて以前着ていたドレスを取り出して着替えを済ませた。

(流石に喉が乾いたわ)

 念の為何度かベルを鳴らしてみたが予想通り誰も来ないので、部屋を出て裏庭から井戸に向かった。

 釣瓶を掴んで水を汲み掌に少しずつ溜めながら水を飲んだ。その様子を洗濯を済ませたメイド達が遠くから眺めていたが、シャーロットが気付いた途端ゲラゲラと下品な笑い声を残し屋敷に戻って行った。


 その後は部屋でチクチクと針仕事に勤しんだ。夕方少し外が暗くなった頃ドアがノックされてアマンダが夕食だと声をかけてきた。

 以前と同じ廊下を歩き階段を降りて食堂へ行くとデュークやウルグス弁護士がジェロームと一緒にワインを楽しんでいた。

「やあ、先に楽しんでいるよ」

「どうぞ、お気遣いなく」

 シャーロットがジョージが引いた椅子に座ると料理が運ばれてきた。

 緊張しながらスープを口元に運ぶと案の定おかしな匂いがする。

(この臭いなら汚水が混ぜてある感じかしら? 思ったより早く仕掛けてきたわねぇ)


「久しぶりにこのお屋敷に伺って急なことでしたでしょうに、準備をして下さった料理長にご挨拶させて頂けますかしら?」

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