【完結】双子だからって都合よく使われて犯罪者にされたので、ざまあしようとしたら国をあげての大騒ぎになりました

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18.掛け合いが良い感じに仕上がって

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 ジェロームの執務室を出たその足でシャーロットの元にやって来たディーン達は三階の一番広い部屋を借りシャーロットの仕事が終わるのを待っていた。

 夜遅い時間になってエプロンをしたままのシャーロットが漸く部屋に上がってきた。

「お待たせしてすみません」

「いえいえ、とんでもございません。お仕事お疲れ様でした」

 客のデュークがお茶の準備をしながらシャーロットを労った。

「ここに来てくださるとは思ってなくて本当に驚きました」

 厨房で手伝いをしていたシャーロットの耳に、低くてよく響くデュークの声が聞こえてきた時には驚きすぎて持っていた皿を落としそうになった。

「コーネリア伯爵に会ってこられたんですよね。どんな話をされたんでしょうか?」

「今回は大したお話はしておりません。ウルグス弁護士が代理人になった事をお伝えしたくらいでしょうか。
コーネリア伯爵はかなりお怒りのようでしたが、心配もしておいででした」

 簡単にまとめた話をウルグス弁護士から聞いたシャーロットは溜息をついた。

「やっぱり一度帰らないとダメそうですね」

「伯爵が離婚の届けを提出されたとしても難癖をつけて一時的にストップする事は可能です。それから現状のままだと、シャーロット様が白い結婚を申し立てた時『ずっと家出していたからだ』とこじつけられ話がこじれてしまう可能性があります」


 宿屋は繁盛していて給金も他所と比べると悪くないらしいので、シャーロットが辞めても代わりはすぐに見つかるから心配はいらないと言われている。

(嬉しいのか悲しいのか複雑だわ)

 迷惑をかけずに済むのは嬉しいが、シャーロットがいなくなっても困らないと言うのは少し寂しい。



「では、女将さん達と相談して何日に帰るのか決めます。長居はしたくないから伯爵家に何泊するのかも決めたいんですけど可能だと思われますか?」

「状況によるでしょうね。コーネリア伯爵もわたくし同様法律の専門家ですから、揚げ足を取られないよう一緒に行って見張って差し上げましょうか?
デュークはどうしますか?」

 ウルグス弁護士がデュークに顔を向けて意向を確認した。

「わたくしもシャーロット様が望んでくださるなら勿論お供致しますとも」

「じゃあ、明日の朝女将さ⋯⋯」


 トントンとドアがノックされてゲイルが顔を覗かせた。

「話し中すまんな。面倒なのが下にきて居座ってるがどうする?」

「え?」



 真夜中だと言うのにクラバットもきっちり締めたままのジェロームが部屋に入ってきた。

「⋯⋯夜分遅くご苦労様です?」

「何ヶ月も家出しておいて謝罪の言葉もないとはね」

「謝るのはとても簡単ですけれど、嘘をつくのはあまり好きではありませんの」

「私がどれだけ捜していたか知っているんだろう?」

「調査員があちこちに顔を出されていたようですから、探しておられるんだなぁとは思っておりました」

「だったら申し訳ないと思うものではないのか!?」

「えーっと、体面を傷つけられたと仰るなら申し訳ないと思わなくもないですが、元々屋敷に軟禁されていましたでしょう? と言うことは居なくなっても対外的な問題はないでしょうし、大切な使用人達の心も安らいだのではないかと思いまして。
お互いに何の問題もなかったという事ではないかと思いますけど」

 無表情が定番のシャーロットがまるで花が開くように艶やかな笑顔を見せると、初めてそれを見たジェロームが一瞬息を詰まらせた。

「⋯⋯き、貴族令嬢がどうやって暮らしているのか、心配するのが普通だろう?」

「この宿で裏方として働かせていただいておりましたから全然問題なかったですわ。宿のご亭主様達のお世辞でないのであれば、仕事ぶりに満足していただけていたようですし。ご当主様が予想しておられたようなを必要とせずに済んでおります」

 さらりと嫌味を付け加えたシャーロットの汚れたエプロンとあかぎれだらけの手を見たジェロームは『ちっ』と舌打ちした。

「ご存知のように女子収容所帰りですから掃除・洗濯・調理補助、何でもできましたから。薪割りだけはやるたびに叱られましたけど」

「薪割り? 女のくせに出来るわけないだろ!?」

「いえ、男の仕事を取るなと言われただけで品質に問題はなかったようです」

 表情の読めないアルカイックスマイルを浮かべたシャーロットはとても上手にジェロームを苛立たせる事に成功した。



 高位貴族生まれのジェロームには想像できない宿屋の仕事を飄々とした態度で説明するシャーロットには、落ち込んで疲れ果てた様子も現状に不満があるような仕草もなかった。

「くそっ、何で屋敷で見た時より生き生きしてるんだ?」

「うーん、何でしょう。価値観の違いとかかしら? 人生において何に重きを置くか⋯⋯とても興味深い議題ですわ」

 右手の人差し指を頬に当て首を傾げたシャーロットは間違いなくジェロームを小馬鹿にしている。

 シャーロットとジェロームのやりとりをデュークとウルグス弁護士がお茶を楽しみながらのほほんと見ていた。

(意外といいコンビかもしれませんなあ)

(確かに、似合っておられるような)

 デューク達二人が目で会話している事に気付かず口喧嘩するシャーロット達。


「帰るぞ」

「はい、夜道は危険ですのでどうぞお気をつけて」

「一緒に帰るに決まってるだろうが!?」


「わたくしは明日も朝から仕事ですの。外泊すると間に合わなくなってしまいますわ」

「コーネリア伯爵夫人が宿屋で働く必要はない! 必要な物は全て伯爵家で準備する」

「伯爵家では準備できないものもありますし、使用人が突然仕事を放棄していなくなれば雇い主は困るのではありませんか? 少なくともわたくしのような収容所帰りでもその程度にはこの宿で役に立っているつもりですの」

「くそ!⋯⋯なら、俺もここに泊まる。君が屋敷に帰る準備ができるまで部屋をとる」

「大変申し訳ございません。この時間からですとお部屋の準備が間に合いませんので、確か⋯⋯夜の9時以降は新規のお客様を受けない決まりだったように思います。宿の主人に聞いて参りますのでお待ち下さいませ」

 ペコリと頭を下げて部屋を抜け出したシャーロットはこれ幸いと自分の部屋に逃げ帰るつもりだった。



 いそいそと階段に向かうシャーロットの後ろにジェロームがぴたりと張り付いた。

「そんなに後ろにくっつかれるのは⋯⋯変質者のようですわね。それでしたら犯罪ですよ」

「逃げられないように。ここで見逃したら次に顔を合わせるのはいつになるかわからないからね」

「まあ、以前のパターンからですと2ヶ月後くらいでしょうか。あ、最初が一ヶ月で次にお会いしたのが二ヶ月後⋯⋯次は三ヶ月後に致しましょう」



 小声で嫌味の応酬をしていると下の階から重たい足音が聞こえてきた。

「夜遅くに騒いでもらっちゃ他の客の迷惑になるんでね、帰ってもらえますか?」

「妻が逃げ出さない保証がなければ帰る気はないね」

「はぁ、いずれ帰ります。きちんと仕事のことを女将さんたちと話し合ってから帰るつもりです。さっさと帰らないなら不法滞在か不法侵入で逮捕してもらうしかありませんね」

「俺は王宮の法務部に勤めてる。法律で言えばさっき宿の亭主に3階に上がる許可をもらった」

「帰れと言われて帰らないのは罪ではないのかしら?」

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