【完結】双子だからって都合よく使われて犯罪者にされたので、ざまあしようとしたら国をあげての大騒ぎになりました

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13.進まない調査

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「お断りです。さあさあ、店はもうお終いなんで失礼しますよ」

 グイグイと背中を押されて店から追い出されたジェロームの目の前でピシャリとドアが閉まった。



 ジェロームは調査員にマーサの周囲を調べさせた。

「この間の作品は間違いないようだ。妻があの店に売ったと断定していいと思う。今後も売りにくるかどうかはわからないが調べて欲しい」

 考えてみれば彼女と結婚して半年で、会ったのはたった2回。いくら仕事が忙しいと言え結婚前はもう少し屋敷に帰っていた。

『あのお方はご当主様方が思っておられるような方じゃない』

(会いもしない話もしないで勝手にシャーロットの為人を決めつけていたな)



 毎週休みの日には屋敷に帰ってきて調査員から報告を聞くが大した進展はない。大騒ぎにしてしまっては帰ってきにくいだろうし、両親や妹が口を挟んできたら厄介だ。

(世間知らずのお嬢様がタチの悪い男に引っかかって⋯⋯そんな事になったら俺の責任だな。厳しすぎたのかも⋯⋯侍女と一緒なら外出を許可するとか、会いたい人がいれば呼んでいいと言ってやれば)

 少しずつ口数が減り寝酒の量が増えている事にジョージとアマンダだけが気付いていた。



 ジェロームは過去を調べ直すことに決め仕事で利用している調査会社に連絡を入れた。

(シャーロットの育成歴から収容所に入るまでの詳細が分かれば潜伏先の予測がつくかもしれんし、最悪昔の恋人を頼っている可能性もあるしな)


 王都での調査報告が簡単に集まったのは比較的最近の話だったことも理由の一つだがかなりの騒ぎになったことも関係しているのだろう。

 裁判記録に書かれていたシャーロットに対する教師やクラスメイトの評判は『成績は優秀だが地味で物静かで社交性に欠ける』 

 学園に友人はおらず常に一人で行動しており、教室の隅か図書室で本を読んでばかりで人と話しているのを見たことがない。不貞行動に走った理由は『退屈でつまらなかったから』

(それと、妹が羨ましかっただと?)


 調査員の報告には、幼い頃のシャーロットとテレーザは瓜二つだったが、年が進むにつれ見た目も性格も双子には見えないほど違っていったと書かれていた。

 妹のテレーザは社交的で幼い頃から母と一緒にお茶会に参加したり友人と出かけたりしており、クラスでもいつも中心にいて大勢の友人に囲まれていた。対するシャーロットは地味な見た目と陰気な性格で学園に通う以外はほぼ引きこもり状態。お茶会に出席しても挨拶のみで退席し誰とも交流しない。

 シャーロットの元婚約者エドワードとの婚約はシャーロットが10歳の時に決まったがあまり交流はなく、エドワードとテレーザが一緒にいるところばかり見かけられていた。

 不貞で有罪になった相手のカンバード侯爵とはある伯爵家で行われた仮面舞踏会で知り合いその夜から関係が続いていた。彼以外にもその当時シャーロットと交際していた男性は4人。全員がかなり歳上で金銭的な余裕のある人ばかりだった。

「公爵令嬢としては大人しく生活していたようです。学園では化粧もほとんどしていなくて、話しかけられると途端に逃げ出す小動物のようだったとクラスメイトの何人かが口をそろえて言っておられました。
それが大講堂で『不倫の末に女子収容所送りになると決まった。そのせいで婚約破棄をして妹と婚約し直す』と全生徒の前で発表があったので、暫くの間大騒ぎだったようですね」

(まるで別人だな。大人しく物静かな女性が外では何人もの男と交際⋯⋯)

「大講堂で全生徒をわざわざ集めて婚約破棄か⋯⋯一昔前じゃあるまいし完全にアウトじゃないか」

「元のクラスメイトがまるで二重人格のようだと思ったと言っておられましたが、まさにそんな感じですね」

「二重人格か⋯⋯」

「裁判記録から言っても社交的で華やかな妹に対するコンプレックスとか、そう言う悩みから親切に声をかけてくる男性に惹かれたのかもしれませんね。母親もお茶会やパーティーなどでテレーザ様のことばかり褒めておられたそうですから」

(コンプレックスか。シャーロットの為人を知っているわけではないが、テレーザのような押し付けがましい女より大人しく本を読んでいる女性に好感を持つ男は多いと思うんだがなあ。
まあ、人の心は人それぞれだし⋯⋯もっと会う時間を増やして地味で物静かもいいと思うと話し合ってみるか)

 調査員の話を聞いて間違った方向に向けて決意を固めたジェロームだった。

(ただなぁ、16歳の根暗引きこもりの貴族令嬢が仮面舞踏会なんかの情報をどこで仕入れたのか全く分からんかったのが気にはなるが。でもまあ、刑は確定して既に収容所も出所しているんだし余計な情報はいらないか。
裁判前の調査もうちが請け負ったんだし、下手に突っ込んで『藪蛇』になったらうちの会社の評判に関わってくるよな)

 調査員の心の声が聞こえないジェロームはカンバート侯爵以外の4人の交際相手について調べるよう追加の依頼を出した。



 一方、領地の調査員は捜査に行き詰まっていた。マーサの店は調査員だとバレて出禁になってしまったが、それらしい人物の出入りがないにも関わらず新作が納品されたことがあった。
 細やかなデザインで丁寧に仕上げられた作品は商店街でも有名になりつつあり、買い物客が『これもこれも、初めて見た』と喜んでいるのが聞こえてきたのだ。

 マーサは隣町に住む妹夫婦とたまにやり取りしている程度でとても慎ましい暮らしぶりをしている。念の為妹夫婦も調べてみたが評判のいい宿屋を家族でやっていた。看板娘は近々幼馴染と結婚の予定で使用人は一人、客室の掃除や洗濯といった裏方を担当している。

(顔は確認できなかったが、お貴族様の夫人が他人の使ったオマルや風呂の掃除はやらんだろ。目立つ銀髪と紫眼で割と可愛い顔をしてりゃ、少なくとも裏方じゃなくて料理を運んでるはず)



 今日も収穫なしはヤバいなぁと思いながら調査員がマーサの店を離れようとした時⋯⋯。

(アレは伯爵家の使用人じゃなかったか?)


 顔色のあまり良くないアマンダがマーサの店に入って行った。

「あの、無礼を承知でお願いします。このレース編みを作った方にお会いしたいんです」

「うちはそういうの、注文ってのはやってないんだよ」

「これを作った方にどうしてもお会いして、もしその方が私の思う方なら謝らなくてはいけないんです」

「⋯⋯アンタにも事情はあるだろうけど、その人にだって何かしらの事情があるかもだしねぇ」

「では、アマンダが謝りたがっているとお伝え下さい。使用人として間違っていたと反省していると伝えていただけませんでしょうか?」

「一応伝えても良いけど⋯⋯本人かどうかもわかんないし、次に会うかどうかもわかんない相手なんだよ」

「それでも構いません。アマンダの名前に聞き覚えがあればご本人だと言うことですから」

「⋯⋯何で謝りたいのか聞いてもいいかね?」

「旦那様が、その。その女性の事をとても心配しておられて、このままでは体調を崩されてしまいそうで心配なんです」

「へぇー、良い使用人だねえ」

 褒められたと思ったアマンダは頬を赤く染めて俯いた。

「そんなに心配ならアンタがその女性の代わりに慰めてやんなよ。アンタの謝罪とやらの意味はよーく分かったからね」

「は? どう言う意味でしょうか。旦那様は素晴らしい雇い主ですがそれ以外の気持ちなど⋯⋯」

「アンタが心配なのは旦那様で、謝りたいのは旦那様に健康になって貰いたいから⋯⋯だろ? さあ、用事が済んだなら可哀想な旦那様のお世話でもしに帰って下さいな」

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