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ルーメン 暁のダンジョン

135.瞬殺されたギルマスと愉快な仲間達

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 ギルドに駆け込んだルカがビブスを引き摺ったまま2階への階段に向かうとカウンターの中から男が飛び出して来てルカの前に立ち塞がった。

「おい、ギルマスに何でことをするんだ! その汚い手を離せ。誰かコイツを捕まえてくれ!」

 ギルドに飛び込んで来たルカの鬼気迫る雰囲気に戸惑って様子を伺っていた冒険者達の中から数人が歩き出し、ギルマスを捕まえたままのルカの周りを取り囲んだ。少し遅れてギルドについたミリアが人混みに紛れこっそりと2階に上がって行ったのを目の端にとらえたルカはギルマスを男の前に投げ出した。

「お前らもコイツとグルって事で合ってるか?」

「何のことだ? その方はルーメンの「あー、知ってる。領主様の甥でクズのギルマス。多分冒険者としての実力もクソだな」」

 冒険者達が剣や杖を構えジリジリとルカに近づいて来た。

「コイツを捕まえろ! 金なら幾らでもくれてやる」

 冒険者の後ろに逃げ込んだギルマスが叫ぶとルカを囲む輪がジリジリと狭まっていった。

「お前らじゃどうにもできんと思うぜ? ギルマスを助けたい奴は同罪だと見做す。それでよけりゃかかって来い」

 1人の冒険者が切り掛かったのを皮切りに大乱闘がはじまった。



 その頃ミリアはテスタロッサの無事を確認しギルマス達の虚偽報告の顛末を話していた。

「つまり、《白銀の嵐》とここにいる奴らは自分達の保身のためにダンジョンに行こうとしてたわけね。ジェルソミーノと一緒に行きたがったのは嘘がバレないように始末するつもりだったのかしら?」

「私達がここに来た時揉めていたのは本部に応援を頼んだギルマスと仲間割れしてたのかもしれませんね」

 ミリアがワンドを構えて拘束されたままの冒険者達に向き直った。

「あなた達が20階層のボスを見たんですね」

 ミリアの言葉を無視して横を向いていた冒険者の1人がヘラヘラと笑い出した。

「だったらどうだってんだ? こんな事してタダで済むと思ってるのかよ。もうじきスタンピードが起こりそうだってのに報告がどうとか言ってる場合じゃねえんじゃねえか? スタンピードが起きたら俺様達の力が必要になるんだぜ? ご機嫌取っとくほうが利口ってもんだ。お前らもそう思うだろ?」

 傲慢な台詞を吐いた男が周りを見回すと全員がニヤニヤと笑っていた。


「ミリアの拘束も解けないくせに随分と大口を叩くんだな」

 転移して来たセオドラの声がミリア達の背後から聞こえてくると男達に緊張の色が走った。

「私はギルド本部長のセオドラ・ミルタウン。君達が知っている事を話してもらおうか」

「・・」

「時間が経てばそれだけ罪は重くなる。ギルド追放では済まされないかもしれんぞ? スタンピードが起こったとしたらそれはお前達の虚偽報告のせいだ。となると被害を受けた町や国はお前達をどうすると思う?」

「・・見たこともない魔物だったんだ。ちっこいくせに魔法が全然効かないし全身炎に包まれてて近づけない。なのに奴は遠距離攻撃を仕掛けて来て逃げ出すのが精一杯だったんだ!」

「そうだ、ちっこい火の玉が飛んできたと思ったらバチバチって弾けるんだ。閃光弾みたいに光って目をやられてるうちに大火傷を喰らった」

「見た目はどんなだったの?」

「ガリガリの身体と牛みたいな尻尾。頭だけデカくてとんがった耳とギョロ目にめちゃめちゃでかい鼻。凄え不気味な笑い方で、逃げるしかなかったんだ」

「もしかしてだけど、スコップ持ってたとか」

「ああ、アンタ知ってるのか? そのスコップをニヤニヤ笑いながら振り回して火の玉を飛ばして来やがった」

「最悪。もしかしてウコバクかも」

 2階に上がって来たルカがミリアの呟きを耳にして盛大な溜息をついた。

「おいおい、またかよ。・・そう言やぁ次ん時はセオドラが担当したいって言ってたよなぁ」



「下はどうなった?」

「取り敢えず真面そうな奴等に頼んで地下の牢屋に放り込んどいた。そいつらに頼んでコイツらも牢に入れとくか」

 テスタロッサが1階に降りて冒険者に声をかけてくる間にミリア達は部屋の隅で話し合いをはじめた。

「ウコバクって?」

「ウコバクはベルゼブブの配下の下級悪魔で、ベルゼブブの命により地獄の釜の炎が絶えないように油を注ぎ続けているの」

 小さな身体に巨大な頭を持つウコバクは尖った耳とまん丸のギョロ目、異様に大きな鼻という独特な姿をしている。痩せこけた貧弱な身体には牛の尾のような細い尻尾が生え全身が炎に包まれており、熱した油を乗せたスコップのような武器を携えている。

「気象の変化はどういう意味だろう?」

「分からない。ラスボスなら兎も角、ウコバクが20階層のボスって言うのも不自然な気がするし」

「奴等にもう少し話を聞いたほうが良さそうだがスタンピードが気にかかる」

「なら、俺達はダンジョンに潜ったほうが良さそうだな。下で真面そうな冒険者を捕まえてちょっくら行ってくるか」

「ルカ、お前らいつも悪魔相手にそんなに無防備で行くのか?」

「いや、いつもはミリアが作戦を立て終わってから行くけど今回は大したことなさそうだしな」

 セオドラが首を傾げるとルカが後ろを指差した。

「さっき仔犬と仔猫がついて来てた。って事はベルフェゴールやマモンの時とは状況が違うって事だろ?」

『兄者、久しぶりに楽しめそうだな』

『ふん』

「ってこと。さて奴等の尋問はセオドラに任せる。なんかわかったら知らせてくれ」

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