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ルーメン 暁のダンジョン
131.ケーラスのギルド
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「結構準備がいるな。ここじゃ物が揃わねえから帝国で集めるしかねえが、あっちはどうなってる?」
アスカリオル帝国は少し前に宰相や騎士団長などが処罰・解雇されたばかり。治安や物流などに大きな影響が出ている可能性もある。
「よっぽど変わった物じゃない限りギルド本部には必要な物資は揃っているはずだ。暁のダンジョンでスタンピードが起きれば帝国にも被害が及ぶ可能性があるから騎士団にも連絡を入れてある。直ぐに準備をはじめた筈だから移動にも問題はない」
「なら、ラシッドのおっさんが出張って来ないことだけを願ってりゃいいか」
「流石にそれはないだろう。うん、ないと・・良いな」
虚な目をしたルカの言葉にセオドラが顔を引き攣らせた。
「ところでヴァンの姿が見当たらないが?」
「ああ、仔猫が五月蝿すぎて逃げ出した。気が向きゃもどってくるだろうよ」
4日前白黒のぶち猫の姿で突然やって来たヨルムガンドはヴァンを追いかけ回した。
『暇すぎる! 兄者、遊んでくれ!』
姿を消して木立や山を逃げ回るヴァンをヨルムガンドは一日中とても楽しそうに追いかけ回していたが、ヴァンがとうとう痺れを切らして何処かへ転移してしまった。
『ミリア! 兄者がいなくなった。遊んでくれ』
「ヴァンの行き先はヨルムガンドでもわからないんですか?」
『本気で姿を隠した兄者には太刀打ちできん。なあ、勝負しょうぜ』
「じゃあ食堂の瓦礫を運び出して下さいね」
『・・俺様に荷運びさせるのか?』
「はい、ここにいるなら働かなくちゃ」
『神獣は働かない。俺様は今猫だしな』
ミリアは二本足で立って踏ん反り返ったヨルムガンドの横を通り過ぎながら、
「床掃除でも良いですよ。応接室の瓦礫は殆ど撤去できたみたいですし」
『ミリア・・俺様神獣だってば。遊ぼうよ』
ヨルムガンドは丸一日馬場で丸くなって拗ねていたが諦めたようで何処かへ帰って行きたまに顔を出すだけになった。
「ヴァンはヨルムガンドがいない時を狙って偶に帰ってくるだけなんです」
侯爵家の後始末はエレノアとジョージに任せて荷物を纏めセオドラ達が乗って来た馬車に乗り込んだのは、ミリア・ルカ・セオドラの3人。
「暁のダンジョンは元々炎系の魔物がメインだった。ディーとは相性が悪すぎる」
「そうだね、アタシはここでカノンと留守番してる。何かあってもカノン一人ならトレントの森に転移させられるもん」
「我もここでカノンの護衛をしよう。転移は使えぬが敵から守る事は出来る」
「そいつは助かる。ディーとカリストーがいてくれりゃ安心だ」
「俺はお前らと一緒に行ってやるよ。ダンジョンってのに一度行ってみるのも面白そうだ」
ヘルメースが自慢げに胸を叩いた。
「断る」
「はあ? ルカ・・お前なあ。俺がいたらダンジョンの魔物なんぞで右往左往する必要なんかないんだぞ?」
「私からもお断りします」
「ミリアもか? よく考えてみろ。お前ら2人より俺がいた方「ならお前は毎回手伝いに来るのか?」」
ルカがヘルメースの胸に指を突き立てた。
「スタンピードなんてこれが初めてでも最後でもない。一度神の力で解決したと知ったら次にスタンピードが起きた時も期待するやつが必ず出てくる。その度にお前は駆けつけるのか? 毎回呼び出しに応じるってんならついてきても良いぜ」
「ギルド本部としてもお断り致します。このような事態が起きた時、人は皆Sランクに期待します。ディエチミーラに連絡が取れない今、彼等の状況を無視して『奴等は何をやってるんだ』と抗議する者が大勢いるのです。ましてやSランク以上の力を持つ方が助けてくれたとなれば次を期待する輩が出るのは間違いありません」
「だったら人のふりをすりゃ」
「戦力不足の理由を問われるだけです。あの時のメンバーより1人足りない。ソイツはどこに行ったと騒ぐのが目に浮かびます」
「ヘルメース、駄々をこねるのは止めろ。我等が人間界の問題に関わるのは危険が大きすぎる」
殆ど休憩を取らず馬を変えながら2日でケーラスのギルドに到着した。
「はあ、ケツが痛え」
(身体強化嫌がるんだもん)
「情けない奴だ。ミリアに身体強化かけて貰えば良かったのに意地を張りやがって」
セオドラが笑いながらギルドに向かうとドアが開き厳つい大男が飛び出してきた。その後ろから出てきた冒険者達は防具を纏い武器を装備して既に出発の準備が済んでいるように思われた。
「セオドラ! ジェルソミーノの奴等はどうなった?」
「ルーメンから連絡は?」
「Aランクパーティーが勝手にダンジョンに行ったそうだ」
セオドラが眉間に皺を寄せて舌打ちをした。
「完全封鎖したんじゃなかったのか?」
「ルーメンを根城にしてた《白銀の嵐》がギルマスの指示を無視して勝手にダンジョンに入った。4日経つんだが帰って来ねえって他の奴らが騒いで殺気立ってる」
「はあ。だそうだ」
セオドラが振り返ると腰を伸ばし身体を解していたルカが肩をすくめ呆れたように溜息をついた。
アスカリオル帝国は少し前に宰相や騎士団長などが処罰・解雇されたばかり。治安や物流などに大きな影響が出ている可能性もある。
「よっぽど変わった物じゃない限りギルド本部には必要な物資は揃っているはずだ。暁のダンジョンでスタンピードが起きれば帝国にも被害が及ぶ可能性があるから騎士団にも連絡を入れてある。直ぐに準備をはじめた筈だから移動にも問題はない」
「なら、ラシッドのおっさんが出張って来ないことだけを願ってりゃいいか」
「流石にそれはないだろう。うん、ないと・・良いな」
虚な目をしたルカの言葉にセオドラが顔を引き攣らせた。
「ところでヴァンの姿が見当たらないが?」
「ああ、仔猫が五月蝿すぎて逃げ出した。気が向きゃもどってくるだろうよ」
4日前白黒のぶち猫の姿で突然やって来たヨルムガンドはヴァンを追いかけ回した。
『暇すぎる! 兄者、遊んでくれ!』
姿を消して木立や山を逃げ回るヴァンをヨルムガンドは一日中とても楽しそうに追いかけ回していたが、ヴァンがとうとう痺れを切らして何処かへ転移してしまった。
『ミリア! 兄者がいなくなった。遊んでくれ』
「ヴァンの行き先はヨルムガンドでもわからないんですか?」
『本気で姿を隠した兄者には太刀打ちできん。なあ、勝負しょうぜ』
「じゃあ食堂の瓦礫を運び出して下さいね」
『・・俺様に荷運びさせるのか?』
「はい、ここにいるなら働かなくちゃ」
『神獣は働かない。俺様は今猫だしな』
ミリアは二本足で立って踏ん反り返ったヨルムガンドの横を通り過ぎながら、
「床掃除でも良いですよ。応接室の瓦礫は殆ど撤去できたみたいですし」
『ミリア・・俺様神獣だってば。遊ぼうよ』
ヨルムガンドは丸一日馬場で丸くなって拗ねていたが諦めたようで何処かへ帰って行きたまに顔を出すだけになった。
「ヴァンはヨルムガンドがいない時を狙って偶に帰ってくるだけなんです」
侯爵家の後始末はエレノアとジョージに任せて荷物を纏めセオドラ達が乗って来た馬車に乗り込んだのは、ミリア・ルカ・セオドラの3人。
「暁のダンジョンは元々炎系の魔物がメインだった。ディーとは相性が悪すぎる」
「そうだね、アタシはここでカノンと留守番してる。何かあってもカノン一人ならトレントの森に転移させられるもん」
「我もここでカノンの護衛をしよう。転移は使えぬが敵から守る事は出来る」
「そいつは助かる。ディーとカリストーがいてくれりゃ安心だ」
「俺はお前らと一緒に行ってやるよ。ダンジョンってのに一度行ってみるのも面白そうだ」
ヘルメースが自慢げに胸を叩いた。
「断る」
「はあ? ルカ・・お前なあ。俺がいたらダンジョンの魔物なんぞで右往左往する必要なんかないんだぞ?」
「私からもお断りします」
「ミリアもか? よく考えてみろ。お前ら2人より俺がいた方「ならお前は毎回手伝いに来るのか?」」
ルカがヘルメースの胸に指を突き立てた。
「スタンピードなんてこれが初めてでも最後でもない。一度神の力で解決したと知ったら次にスタンピードが起きた時も期待するやつが必ず出てくる。その度にお前は駆けつけるのか? 毎回呼び出しに応じるってんならついてきても良いぜ」
「ギルド本部としてもお断り致します。このような事態が起きた時、人は皆Sランクに期待します。ディエチミーラに連絡が取れない今、彼等の状況を無視して『奴等は何をやってるんだ』と抗議する者が大勢いるのです。ましてやSランク以上の力を持つ方が助けてくれたとなれば次を期待する輩が出るのは間違いありません」
「だったら人のふりをすりゃ」
「戦力不足の理由を問われるだけです。あの時のメンバーより1人足りない。ソイツはどこに行ったと騒ぐのが目に浮かびます」
「ヘルメース、駄々をこねるのは止めろ。我等が人間界の問題に関わるのは危険が大きすぎる」
殆ど休憩を取らず馬を変えながら2日でケーラスのギルドに到着した。
「はあ、ケツが痛え」
(身体強化嫌がるんだもん)
「情けない奴だ。ミリアに身体強化かけて貰えば良かったのに意地を張りやがって」
セオドラが笑いながらギルドに向かうとドアが開き厳つい大男が飛び出してきた。その後ろから出てきた冒険者達は防具を纏い武器を装備して既に出発の準備が済んでいるように思われた。
「セオドラ! ジェルソミーノの奴等はどうなった?」
「ルーメンから連絡は?」
「Aランクパーティーが勝手にダンジョンに行ったそうだ」
セオドラが眉間に皺を寄せて舌打ちをした。
「完全封鎖したんじゃなかったのか?」
「ルーメンを根城にしてた《白銀の嵐》がギルマスの指示を無視して勝手にダンジョンに入った。4日経つんだが帰って来ねえって他の奴らが騒いで殺気立ってる」
「はあ。だそうだ」
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