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ルーメン 暁のダンジョン
130.ジェルソミーノへの緊急依頼
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「お二人共、本部の方の前で恥ずかしくないんですか? ルカさんはヘルメースさんの冗談を真に受けない事。ヘルメースさんは今後一切ルカさんを揶揄うのは禁止。いいですね!」
「「はい・・」」
ミリアの前でしょぼんと項垂れたルカとヘルメースはずぶ濡れのまま顔を見合わせ睨み合った。
「ミリアさん、最強」
エレノアが小さく呟くと一瞬動きを止めた全員が爆笑し、真っ赤な顔のミリアがルカとヘルメースを睨みつけた。ルカとヘルメースの攻防がミリアの攻撃で終わる光景を見慣れている使用人達もずぶ濡れで縮こまる神と主人に笑いを堪えきれずにいた。
「さてと、問題は侯爵か。ルカとエレノア様の父親だし国への報告をどうするかだな。わかってると思うが報告の仕方によったら軽微な罰で済ませることもできる」
「奴の事は本部と国に任せる。エレノアもそれで良いって言ってるしな」
エレノアがルカの言葉に頷いた。
「はい、公正な裁きをお願いしたいと思います」
「ダーハルの現在の国王はとても聡明な方だが貴族の乱行に厳しい方だとも聞いている。侯爵が領地の立て直しでヘマをしたんなら情状酌量の余地があるが、今回の件をそのまま報告すれば私利私欲と取られて降爵や領地の没収もあり得るぞ」
「爵位も領地もエレノアが継ぐから出来るだけ苦労をさせたくはないがこのままって訳にいかねえ事は分かってる」
「爵位と領地はお兄様が継いで下さいませ。お兄様が継がないと仰るなら爵位も領地も返上をお願いします。わたくしは平民になってお仕事をする予定ですの」
突然のカミングアウトにルカが目を丸くした。
「お前が・・仕事?」
「はい、幸いな事にある国の冒険者ギルドの受付嬢として雇って頂けましたの。今回の件が落ち着き次第お仕事をはじめる予定です」
「ちびすけ、お前だな! ヴァンと一緒にちょいちょいいなくなってると思ったらそんな事やってやがったのか」
「お兄様、ミリアさんに抗議するのはおやめ下さい。わたくしの方からお願いしましたの」
平民になり機を織って暮らしたいと言うエレノアだったが、外の世界を全く知らない彼女が1人で暮らして行くのは無理だと思ったミリアがギルドの受付嬢の仕事を斡旋した。ハーミットのギルドに出向きソフィアに事の次第を打ち明けると二つ返事でOKが貰えた。
「但しルカの許可を取る事。これだけは譲れないわよ。ルカの事だから妹の事心配してるはずだからキチンと話し合ってね」
「冒険者が爵位持ちとかあり得んだろ? 領地の管理とか・・」
「セオドラ様は伯爵でありながら冒険者をされておられたと聞いていますし今はギルドで働いておられます。今までも領地の差配は全てジョージがやっていたのですから問題があるとは思えません」
ルカがジョージを見遣ると何時もの無表情で見返してきた。
「エレノア様のご希望であればこれからも老体に鞭打つ所存でございます。坊っちゃまには定期的にお戻り頂く必要はあるかと存じますが、お仲間の転移魔法に助けて頂けるならば造作も無いことかと」
ぶすっと不満げな顔で黙り込んだルカにセオドラが追い討ちをかけた。
「俺もはじめは不安だったが何とかなるもんだって。それよりジェルソミーノに緊急依頼がある」
「なあ、今・・それどころじゃなくね?」
ルカが髪をぐしゃぐしゃと掻き乱しながらセオドラを横目で睨みつけた。
「ここにくるのが遅くなった理由を説明したい」
ルカから本部に連絡がきた直後、ルーメンのギルドからスタンピードの可能性があると連絡が来た。ルーメンはアスカリオル帝国の西に位置する小国で数年前にダンジョンが発見されるまでは農業主体のかなり貧しい国だった。
発見されたダンジョンはまだ20階層までしか攻略されていない難易度Aランクのダンジョンで各国から有力な冒険者が集まっている。
「暁のダンジョンか? あそこは発見されてからまだそれほど経ってねえだろ?」
「ああ、たった数年でスタンピードを起こすのは前例がないがここのところ生態系の変化が著しくて冒険者がかなりやられてるそうだ」
「確か炎系の魔物が多くて攻略が進まないんだっけな?」
「いや、はじめはそうだったんだが今年の初めに20階層のボスが討伐された後から定期的に地形が変わってその都度出現する魔物も変化するようになった」
「何だそれ、そんなダンジョン聞いた事ねえぜ?」
「Aランクパーティーを中心に招集をかけているがスタンピードが起きたら彼等だけじゃ太刀打ちできんだろう。現に幾つかのパーティーが戻ってきていない」
「ディエチミーラの奴等はなんて言ってるんだ?」
「・・」
セオドラが眉を顰めてミリアをチラリと見た。
「・・ディエチミーラには連絡がつかない。ローランドの森に入ると連絡がきた後から通信具が反応しない」
真っ青になったカノンが硬直しているミリアに抱きついた。
「にいちゃんは?・・」
「ローランドの森か・・あそこなら通信障害の可能性もなくはない」
「ああ、ディエチミーラは森の奥の洞窟を目指すと言っていたから直ぐに偵察隊を送った。そんな状況だから今はジェルソミーノだけが頼みの綱なんだ」
「依頼内容は?」
「暁のダンジョンの調査。異常の原因がわかればそれに越した事はないが、スタンピードの可能性とそれが起こるならその時期が知りたい」
「ちびすけ、どうする?」
ルカが珍しく真剣な顔でミリアを見つめると気を取り直したミリアが大きく息を吸って返事をした。
「ここはエレノアさん達にお任せして直ぐに出発しましょう」
「「はい・・」」
ミリアの前でしょぼんと項垂れたルカとヘルメースはずぶ濡れのまま顔を見合わせ睨み合った。
「ミリアさん、最強」
エレノアが小さく呟くと一瞬動きを止めた全員が爆笑し、真っ赤な顔のミリアがルカとヘルメースを睨みつけた。ルカとヘルメースの攻防がミリアの攻撃で終わる光景を見慣れている使用人達もずぶ濡れで縮こまる神と主人に笑いを堪えきれずにいた。
「さてと、問題は侯爵か。ルカとエレノア様の父親だし国への報告をどうするかだな。わかってると思うが報告の仕方によったら軽微な罰で済ませることもできる」
「奴の事は本部と国に任せる。エレノアもそれで良いって言ってるしな」
エレノアがルカの言葉に頷いた。
「はい、公正な裁きをお願いしたいと思います」
「ダーハルの現在の国王はとても聡明な方だが貴族の乱行に厳しい方だとも聞いている。侯爵が領地の立て直しでヘマをしたんなら情状酌量の余地があるが、今回の件をそのまま報告すれば私利私欲と取られて降爵や領地の没収もあり得るぞ」
「爵位も領地もエレノアが継ぐから出来るだけ苦労をさせたくはないがこのままって訳にいかねえ事は分かってる」
「爵位と領地はお兄様が継いで下さいませ。お兄様が継がないと仰るなら爵位も領地も返上をお願いします。わたくしは平民になってお仕事をする予定ですの」
突然のカミングアウトにルカが目を丸くした。
「お前が・・仕事?」
「はい、幸いな事にある国の冒険者ギルドの受付嬢として雇って頂けましたの。今回の件が落ち着き次第お仕事をはじめる予定です」
「ちびすけ、お前だな! ヴァンと一緒にちょいちょいいなくなってると思ったらそんな事やってやがったのか」
「お兄様、ミリアさんに抗議するのはおやめ下さい。わたくしの方からお願いしましたの」
平民になり機を織って暮らしたいと言うエレノアだったが、外の世界を全く知らない彼女が1人で暮らして行くのは無理だと思ったミリアがギルドの受付嬢の仕事を斡旋した。ハーミットのギルドに出向きソフィアに事の次第を打ち明けると二つ返事でOKが貰えた。
「但しルカの許可を取る事。これだけは譲れないわよ。ルカの事だから妹の事心配してるはずだからキチンと話し合ってね」
「冒険者が爵位持ちとかあり得んだろ? 領地の管理とか・・」
「セオドラ様は伯爵でありながら冒険者をされておられたと聞いていますし今はギルドで働いておられます。今までも領地の差配は全てジョージがやっていたのですから問題があるとは思えません」
ルカがジョージを見遣ると何時もの無表情で見返してきた。
「エレノア様のご希望であればこれからも老体に鞭打つ所存でございます。坊っちゃまには定期的にお戻り頂く必要はあるかと存じますが、お仲間の転移魔法に助けて頂けるならば造作も無いことかと」
ぶすっと不満げな顔で黙り込んだルカにセオドラが追い討ちをかけた。
「俺もはじめは不安だったが何とかなるもんだって。それよりジェルソミーノに緊急依頼がある」
「なあ、今・・それどころじゃなくね?」
ルカが髪をぐしゃぐしゃと掻き乱しながらセオドラを横目で睨みつけた。
「ここにくるのが遅くなった理由を説明したい」
ルカから本部に連絡がきた直後、ルーメンのギルドからスタンピードの可能性があると連絡が来た。ルーメンはアスカリオル帝国の西に位置する小国で数年前にダンジョンが発見されるまでは農業主体のかなり貧しい国だった。
発見されたダンジョンはまだ20階層までしか攻略されていない難易度Aランクのダンジョンで各国から有力な冒険者が集まっている。
「暁のダンジョンか? あそこは発見されてからまだそれほど経ってねえだろ?」
「ああ、たった数年でスタンピードを起こすのは前例がないがここのところ生態系の変化が著しくて冒険者がかなりやられてるそうだ」
「確か炎系の魔物が多くて攻略が進まないんだっけな?」
「いや、はじめはそうだったんだが今年の初めに20階層のボスが討伐された後から定期的に地形が変わってその都度出現する魔物も変化するようになった」
「何だそれ、そんなダンジョン聞いた事ねえぜ?」
「Aランクパーティーを中心に招集をかけているがスタンピードが起きたら彼等だけじゃ太刀打ちできんだろう。現に幾つかのパーティーが戻ってきていない」
「ディエチミーラの奴等はなんて言ってるんだ?」
「・・」
セオドラが眉を顰めてミリアをチラリと見た。
「・・ディエチミーラには連絡がつかない。ローランドの森に入ると連絡がきた後から通信具が反応しない」
真っ青になったカノンが硬直しているミリアに抱きついた。
「にいちゃんは?・・」
「ローランドの森か・・あそこなら通信障害の可能性もなくはない」
「ああ、ディエチミーラは森の奥の洞窟を目指すと言っていたから直ぐに偵察隊を送った。そんな状況だから今はジェルソミーノだけが頼みの綱なんだ」
「依頼内容は?」
「暁のダンジョンの調査。異常の原因がわかればそれに越した事はないが、スタンピードの可能性とそれが起こるならその時期が知りたい」
「ちびすけ、どうする?」
ルカが珍しく真剣な顔でミリアを見つめると気を取り直したミリアが大きく息を吸って返事をした。
「ここはエレノアさん達にお任せして直ぐに出発しましょう」
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