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アルスター侯爵家
122.裏切り者
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「縄も・・縄も外してくれ! 頼む」
「侯爵様は随分不快な匂いなのにわたくしに側によれと?」
「仕方がないだろう? 昨夜からこの状態なんだ。我慢できるわけがない!」
粗相を指摘された侯爵は青褪めていた顔を赤らめ目を背けた。
「わたくしに対して随分な物言いですこと」
風上に回ろうと侯爵の後ろに回り込んだベルフェゴールが侯爵の背中に書かれた文字を見て怒りを爆発させた。
「貴様、ワシを愚弄する気か!!」
ベルフェゴールの動きに合わせてモゾモゾと向きを変えようとしていた侯爵が固まった。
「あの、申し訳ないが・・一体何にお怒りなのでしょうか?」
侯爵の背中には大きな文字で、
《 奉納?? 》
と、書かれていた。
「ぱっ、パレス殿?」
般若のような顔をしたベルフェゴールが右手を侯爵に向けると同時にミリアが屋敷の近くから【フレイムランス】を放ち、不意をつかれたベルフェゴールが後ろに吹き飛んだ。
舞い上がる土埃の中から現れたベルフェゴールは顎の尖った醜い顔に捻れた二本の角が生え、顎に縮れた無精髭を蓄えた醜悪な姿を晒していた。苛立たしそうに地面を叩く尾が地面を抉り芝と土塊を撒き散らしている。
ミリアとルカがベルフェゴールの前に転移で現れるとベルフェゴールは雄叫びをあげ周りの土と芝を舞い上げた。
土埃と同時に不潔な臭気が辺りに漂い対峙しているミリアとルカは思わず息を止めた。
「こんなに離れてるのに、結界って臭いは遮断してくれないんだね」
左手で鼻と口を押さえたミリアが思わず不満を漏らした。
「ここまで凄いと無理なんだろうな」
ミリアとルカが呑気に会話している後ろではジョージが侯爵を屋敷の方へズルズルと引き摺っていた。
「なんのつもりだ!」
「話し合いがしたくてお越し頂きました。宿では色々危険があるかなって」
「人間がワシに話し合い? ふんっ」
ニヤリと笑ったベルフェゴールが右手を横に出すと掌から黒い霧が噴き出し巨大な槍に変わった。
「結界を張っておるようじゃがワシの槍が防げるとでも?」
「大天使ミカエル様のような力を持っていない私達が大悪魔のベルフェゴールに勝てるなんて思ってないけど、ここで『怠惰』の名に相応しい暮らしをしてもらっては困るの。
だから、パンデモニウムに戻ってもらう予定」
ミリアの言葉が終わるとほぼ同時にベルフェゴールが槍を投げつけた。ミリアが【ライトジェイル】でベルフェゴールの足を止めると同時に結界にヒビが入り槍が突き刺さった。
「あっぶねー」
ルカが結界を張り直しミリアが【ライトカッター】を連発すると、霧に変わった槍がベルフェゴールの手に戻りミリアの攻撃を受け流した。
ミリアはコンポジット・ボウに矢を番え光魔法を纏わせてベルフェゴールに打ち続けた。悠々と矢を撃ち落としたベルフェゴールが高笑いを浮かべた。
「たかがこれしきの攻撃でワシに歯向かう・・」
【ジャッジメント・レイ】
「ぐえっ」
ベルフェゴールが後退り槍が黒い霧になり霧散した。矢を打っている間に詠唱を済ませたミリアの攻撃が初めてベルフェゴールにダメージを与えた。
怒り狂うベルフェゴールが全身に力を溜め両手に槍を作り出した。ベルフェゴールの周りには黒い霧がたち登りベルフェゴールを守っている。
ミリアが矢を打ちながら【ライトエリア】を放つと同時にベルフェゴールの槍が投げつけられ一本目の槍で結界にヒビが入り二本目の槍がミリアの腹を掠めた。
「くそ!」
傷を無視したミリアが再び【ジャッジメント・レイ】を放ちルカが結界を張り直しミリアの傷にエリクサーをかける。矢を切間なく打ち続けては【ジャッジメント・レイ】の繰り返しに、ベルフェゴールは槍を作り出し四方から攻めるが次第に体勢を立て直す暇がなくなってきた。
ルカの重ね掛けした結界はベルフェゴールの攻撃で毎回ヒヒが入るものの直ぐに新しい結界が張り直される。
狙いの外れた槍が後ろにそれドーンと大きな音が鳴り響いた。
「馬鹿な、何故それ程に魔力がもつのだ」
「まだまだ魔力は十分。矢も沢山あるしね! でも、こんな事していて良いのかしら? パンデモニウムにいるアスタロトは今頃何をしてる? 過去と未来を知りあらゆる学問に精通するアスタロトがそんなに長く大人しくしてるとは思えないの」
「アスタロトだと?」
「ルシファーの副官、今はベルフェゴールだけどアスタロトが狙ってるんでしょ?」
「彼奴などワシの敵ではないわい。あのお方はワシの事を信頼しておられる」
「そういえば、アスタロトはルシファーに裏切られたことはなかったはずよね・・一度裏切った人は次にも必ず裏切るって言うんだけど、悪魔は違うのかしら?」
「・・」
「私達の魔力が尽きるまで戦えばベルフェゴールは間違いなく勝てるけど、私達はエリクサーを大量に持ってるの。だからね魔力切れには絶対にならない。怪我ももちろん治せるし、死者蘇生もできるから二人いっぺんに殺らないと永遠に終わらないから。
随分とめんどくさい話よね」
矢を番えたままのミリアを睨みながら無言で立ち尽くすベルフェゴール。
「・・くそ!」
ベルフェゴールは黒い霧になって消えていった。
「えーっと、終わったのかしら?」
ミリアが首を傾げると今も険しい顔をしたルカはベルフェゴールがいた辺りを睨んでいた。
「フェニックスはどうする気なんだ? アイツ、手下を見捨てていきやがった」
「行ってみる?」
木箱を厩舎の外に出しミリアがワンドを構えルカが護符を剥ぐと、フェニックスは甲高い鳴き声をあげ宙を何度か旋回した後姿を消した。
「可哀想、きっとベルフェゴールの気配を探したんだわ」
「侯爵様は随分不快な匂いなのにわたくしに側によれと?」
「仕方がないだろう? 昨夜からこの状態なんだ。我慢できるわけがない!」
粗相を指摘された侯爵は青褪めていた顔を赤らめ目を背けた。
「わたくしに対して随分な物言いですこと」
風上に回ろうと侯爵の後ろに回り込んだベルフェゴールが侯爵の背中に書かれた文字を見て怒りを爆発させた。
「貴様、ワシを愚弄する気か!!」
ベルフェゴールの動きに合わせてモゾモゾと向きを変えようとしていた侯爵が固まった。
「あの、申し訳ないが・・一体何にお怒りなのでしょうか?」
侯爵の背中には大きな文字で、
《 奉納?? 》
と、書かれていた。
「ぱっ、パレス殿?」
般若のような顔をしたベルフェゴールが右手を侯爵に向けると同時にミリアが屋敷の近くから【フレイムランス】を放ち、不意をつかれたベルフェゴールが後ろに吹き飛んだ。
舞い上がる土埃の中から現れたベルフェゴールは顎の尖った醜い顔に捻れた二本の角が生え、顎に縮れた無精髭を蓄えた醜悪な姿を晒していた。苛立たしそうに地面を叩く尾が地面を抉り芝と土塊を撒き散らしている。
ミリアとルカがベルフェゴールの前に転移で現れるとベルフェゴールは雄叫びをあげ周りの土と芝を舞い上げた。
土埃と同時に不潔な臭気が辺りに漂い対峙しているミリアとルカは思わず息を止めた。
「こんなに離れてるのに、結界って臭いは遮断してくれないんだね」
左手で鼻と口を押さえたミリアが思わず不満を漏らした。
「ここまで凄いと無理なんだろうな」
ミリアとルカが呑気に会話している後ろではジョージが侯爵を屋敷の方へズルズルと引き摺っていた。
「なんのつもりだ!」
「話し合いがしたくてお越し頂きました。宿では色々危険があるかなって」
「人間がワシに話し合い? ふんっ」
ニヤリと笑ったベルフェゴールが右手を横に出すと掌から黒い霧が噴き出し巨大な槍に変わった。
「結界を張っておるようじゃがワシの槍が防げるとでも?」
「大天使ミカエル様のような力を持っていない私達が大悪魔のベルフェゴールに勝てるなんて思ってないけど、ここで『怠惰』の名に相応しい暮らしをしてもらっては困るの。
だから、パンデモニウムに戻ってもらう予定」
ミリアの言葉が終わるとほぼ同時にベルフェゴールが槍を投げつけた。ミリアが【ライトジェイル】でベルフェゴールの足を止めると同時に結界にヒビが入り槍が突き刺さった。
「あっぶねー」
ルカが結界を張り直しミリアが【ライトカッター】を連発すると、霧に変わった槍がベルフェゴールの手に戻りミリアの攻撃を受け流した。
ミリアはコンポジット・ボウに矢を番え光魔法を纏わせてベルフェゴールに打ち続けた。悠々と矢を撃ち落としたベルフェゴールが高笑いを浮かべた。
「たかがこれしきの攻撃でワシに歯向かう・・」
【ジャッジメント・レイ】
「ぐえっ」
ベルフェゴールが後退り槍が黒い霧になり霧散した。矢を打っている間に詠唱を済ませたミリアの攻撃が初めてベルフェゴールにダメージを与えた。
怒り狂うベルフェゴールが全身に力を溜め両手に槍を作り出した。ベルフェゴールの周りには黒い霧がたち登りベルフェゴールを守っている。
ミリアが矢を打ちながら【ライトエリア】を放つと同時にベルフェゴールの槍が投げつけられ一本目の槍で結界にヒビが入り二本目の槍がミリアの腹を掠めた。
「くそ!」
傷を無視したミリアが再び【ジャッジメント・レイ】を放ちルカが結界を張り直しミリアの傷にエリクサーをかける。矢を切間なく打ち続けては【ジャッジメント・レイ】の繰り返しに、ベルフェゴールは槍を作り出し四方から攻めるが次第に体勢を立て直す暇がなくなってきた。
ルカの重ね掛けした結界はベルフェゴールの攻撃で毎回ヒヒが入るものの直ぐに新しい結界が張り直される。
狙いの外れた槍が後ろにそれドーンと大きな音が鳴り響いた。
「馬鹿な、何故それ程に魔力がもつのだ」
「まだまだ魔力は十分。矢も沢山あるしね! でも、こんな事していて良いのかしら? パンデモニウムにいるアスタロトは今頃何をしてる? 過去と未来を知りあらゆる学問に精通するアスタロトがそんなに長く大人しくしてるとは思えないの」
「アスタロトだと?」
「ルシファーの副官、今はベルフェゴールだけどアスタロトが狙ってるんでしょ?」
「彼奴などワシの敵ではないわい。あのお方はワシの事を信頼しておられる」
「そういえば、アスタロトはルシファーに裏切られたことはなかったはずよね・・一度裏切った人は次にも必ず裏切るって言うんだけど、悪魔は違うのかしら?」
「・・」
「私達の魔力が尽きるまで戦えばベルフェゴールは間違いなく勝てるけど、私達はエリクサーを大量に持ってるの。だからね魔力切れには絶対にならない。怪我ももちろん治せるし、死者蘇生もできるから二人いっぺんに殺らないと永遠に終わらないから。
随分とめんどくさい話よね」
矢を番えたままのミリアを睨みながら無言で立ち尽くすベルフェゴール。
「・・くそ!」
ベルフェゴールは黒い霧になって消えていった。
「えーっと、終わったのかしら?」
ミリアが首を傾げると今も険しい顔をしたルカはベルフェゴールがいた辺りを睨んでいた。
「フェニックスはどうする気なんだ? アイツ、手下を見捨てていきやがった」
「行ってみる?」
木箱を厩舎の外に出しミリアがワンドを構えルカが護符を剥ぐと、フェニックスは甲高い鳴き声をあげ宙を何度か旋回した後姿を消した。
「可哀想、きっとベルフェゴールの気配を探したんだわ」
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