✖️✖️の薬を作ったら牢に入れられました。ここで薬を作れ？ それは嫌かなー。って事でさよならします

アルスター侯爵家

113.カリストー陥落

　ミリアは無言で顔を顰めるカリストーを見て自分の予想に確信を持った。

「へーラーって酷いと思います。私もチャンスがあったら仕返ししたい！　って思うと思います」

「子供のくせにわかったような口を聞くな！　私は・・奴に騙され獣の姿にされた。アルテミス様の元を追われ・・息子からも」

「おまけに北の空に永遠に縛り付けられた」

「その通りだ。私のした事はそこまで酷いのか？　そこまでされねばならぬほど？」

「悪いのはゼウスです！　生殖の方法が人間と同じなら去勢しちゃえばいいんです。チョキンって」

　呆気に取られたカリストーとギョッとして目を剥いたルカに気付かないミリアは、うんうんと一人頷き、

「使い物にならなくなる薬の方が良いかも・・うーん、うん。作れるかも」

　と、呟いていた。


「ぷっ、其方は変わった奴だな。其方が言っておるお方は最高神なのだが」

　毒気を抜かれたカリストーの微笑みは最高神に愛されたのは当然だと思えるほどの極上の美しさだった。

「それでも悪いことをしたらお仕置きですよ。何度も繰り返すんだしガツンとやらなきゃ」

　ミリアが拳を握りしめて振り下ろすと、ルカの小さな笑い声が聞こえてきた。

「そこの男、用心せねば去勢とやらをされるそうだぞ？」

　拍子抜けしたカリストーが苦笑しながらルカを揶揄った。

「覚えときます。ちびすけは薬師なんで変な薬を飲まされないようにしないと」

「さて、我は帰らねば。マイアが待っておる」

　亡くなった左腕を庇いながらカリストーが立ち上がった。

「あの、暫くの間姿を隠すとかして貰えたりしませんか？　ベルフェゴールをやっつけたいんですけど、カリストーさんとヘルメースさんが側にいると困ると言うか」

　カリストーは思ったよりも背が高くミリアは胸の辺りまでしかなかった。カリストーは腰をかがめミリアと目線を合わせた。

「愚かな事を考えるでない、人の子がベルフェゴールを殺るなど・・夢物語にしかならん」

「パンデモニウムに帰ってくれれば十分なんで、その方向で頑張ってみようと思ってます」

「しかし、いや。でも・・マイアをここに置いていくわけにはいかぬ」

「それで、提案なんですけどうちにいらっしゃいませんか？」

「「はあ？」」

「うちと言ってもルカさんのとこに泊めてもらってるだけなんですけど、一人くらいならお願い出来ると思うんです。
ただその時はお互いに害を与えないって言う魔法契約をしたいと思うんですが」

　ミリアが自信満々な顔でルカを見ると苦笑いしながら頷いた。

「運が悪いと雑魚寝になるかもしれませんが、マイアさんと一緒に帰れるまでとか如何でしょうか？」

「マイアはすんなり話を聞きそうだが、ヘルメースはたちが悪いぞ」

　カリストーとミリアが先程まで敵同士だったと思えないような親しげな雰囲気で話している。

（ちびすけが狙いは腕一本つった時からこんな事になると思ったぜ）


「大丈夫、ルカさんがいますから」

（はあ？　俺が？）

「ふむ、その男ならヘルメースの鼻を折る事も出来るやもしれん」

　狼狽えているルカの心情に気付かないミリアはキラキラとした目でルカを見つめ、カリストーはそんな二人を見比べてふふっと小さく笑った。

「人の言葉では尻に敷かれると言うのであろう？」

　居心地の悪くなったルカは逃げ出し洞穴の熊の処理に向かった。


　魔法契約を済ませたミリアとカリストーが洞穴の前にやってきた。

「はあ、熊の胆嚢が・・良い薬の材料になったのに」

「ちびすけ、人間諦めが肝心だ」

「くっ！」

「其方は変わった名だな。名は体を表すというが・・」

「ミリアです！　名前、ミリアです」

　ミリアはキッとルカを睨むと少し背伸びした。

「それでも・・ミリ」

「ぶはっ！」

「ルーカーさーん、笑わない！　お二人が大きいだけですから。これから伸びるかもしれませんしね」

　カリストーとルカの間に立つミリアは確かにとても小さかった。

「どうやってその家に行くのだ？　夜まで待つのか？」

「いえ、迎えが来てくれると思い・・」

　ミリアの声が終わる前にヴァンが転移してきた。

「これは・・なんと、フェンリルではないか！」

「友達のヴァンです。彼が家まで転移してくれます。宜しくねヴァン」

『やれやれ、此奴は我を馬車と思うておる』

　溜息をつきながらヴァンが３人を侯爵家の離れに転移させてくれた。


「ミリアちゃん、お帰り！」

　ソファに座っていたカノンが飛びついてきたが、ミリアの横に立っているカリストーをチラチラと覗いていた。

「ただ今。カリストーさんも一緒に来てもらったの。カノンも仲良くしてね」

「初めまして、カノンです」
「アタシはディー、宜しくねー」

　枝の先からキラキラと光を振り撒きながらディーがミリアの肩に座った。

「ハーフエルフとドリアードか。ミリアの側は想像以上に面白そうじゃな」

（増えた？　やっぱりニュンペーが増えたのか？）

　ルカの顔色が青褪めた。


「あの、エレノアさん。カリストーさんに来て頂いたのですが構いませんか？」

　キョトンと首を傾げていたエレノアがパッと明るい顔になった。

「まあ、初めまして。わたくし侯爵家長女でルカ兄様の妹のエレノアと申します。どうぞ宜しくお願い致します」

　優雅にカーテシーをするエレノアを見ながらカリストーがソワソワと挙動不審になった。

「このような形なりで申し訳ない」

　カリストーはミリアのマントを羽織っただけの姿。必要な場所は隠れているというものの膝から下は剥き出しで靴も履いていない。

「そうだった！　エレノアさん、カリストーさんの着られる服をお借りできませんか？」

「探して参ります。少々お待ちいただけますかしら？」

　エレノアがメイドにお茶の準備を指示して部屋にドレスや靴を探しに行った。



「では、カリストーさんの腕を治しちゃいましょう。早い方がダメージ少ないから。ルカさんはもう見ちゃ駄目ですよ」