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アルスター侯爵家
110.ジジイとジジイ
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「イーオー? 誰だそりゃ」
「昨夜ゼウス繋がりだって言ったでしょう? つまりそれはへーラー繋がりって事。へーラーは嫉妬深くて粘着質、ゼウスの愛人とその子供に極悪非道な罰を与えるの。執念深さは地の底まででも追いかけるって感じ。
カリストーの例が分かりやすいと思う。
嫉妬に狂って熊に変えて、さらにゼウスがカリストーを助ける為におおぐま座に変えたら休む暇さえ与えない。
そんなへーラーがマイアとヘルメースを見逃したはずがないわ。マイアやヘルメースの歴史にへーラーの仕打ちが出てこなかったからうっかりしてた」
最高位の女神であるへーラーは結婚と母性と貞節を司る。嫉妬深い性格でゼウスの浮気相手やその間の子供に対し執念深く追い詰め苛烈な罰を科しては様々な悲劇を引き起こした。
「それで?」
「しかもヘルメースは巨人アルゴスを殺してへーラーの邪魔をしたの。へーラーにしてみればゼウスの子供ってだけでも腹立たしいのにゼウスの愛人を助けたんだもの。彼女がどれほどの恨みを持って仕返ししたか想像するのも恐ろしいわ」
ゼウスは愛人のイーオーをへーラーの身から隠すために牝牛に変えた。その牝牛を奪い取ったへーラーは百眼の巨人アルゴスにイーオーを見張らせていたが、巨人アルゴスはゼウスの命令を受けてイーオーを取り戻しに来たヘルメースにより殺された。
この際、ヘルメースは葦笛の音を聞かせてアルゴスの目を全て眠らせて剣で首を刎ねたと言われている。ヘルメースの異名『アルゲイポンテース』は、『アルゴスを殺した者』という意味。
ヘーラーはアルゴスの死後、その目を取って自身の飼っているクジャクの尾羽根に飾った。それ以来クジャクは尾羽根に百の目を持つと言われるようになった。
「マイアにも参加したい気持ちがあったって事だわ。彼女は家に黄金や銀を溜め込んでるの。今回の資金提供者かも・・。
3人が恨みを持つへーラーは結婚を司っててベルフェゴールは結婚を忌み嫌ってる。もしかしたらレヴィアタンと何かあったのかもしれないけど、既婚者だけが狙われてるのはそのせいだわ」
「結婚否定派のベルフェゴールが大嫌いなへーラーへの仕返しに3人を唆した。ベルフェゴールは呑気に宿で『怠惰』を貪っているうちに既婚者達はそれぞれ勝手に『好色』に耽る・・」
ルカの想像を耳に入れながらミリアがパッと顔を上げた。
「あーっ! 嫌な事思いついちゃったかも」
ミリアが苦虫を噛み潰したような顔になりヴァンをチラッと見遣ったが、ヴァンはいつものように顔を横に向け知らん顔を決め込んだ。
「嫌なことってなんだ?」
「えっと、言霊あるからやめとく。それより今後の計画立てなくちゃね」
じっとミリアを凝視していたジョージがルカの方を向いて声をかけた。
「先程からお話に出てきている女神や悪魔の話についてお聞かせいただけないでしょうか?」
「ん? 気になるよな。ミリアの方が正しく説明出来るだろ? 頼む」
ミリアが一から全てを話し終えるとジョージが鼻を鳴らした。
「申し訳ありませんが、わたくしにはとても良くできた物語のように聞こえます」
「わたくしはミリアさんのお話を信じていますわ」
エレノアが身を乗り出して言い募った。
「エレノアが一発で信じてくれたのは嬉しいが、ジョージの反応の方が普通だと思う。ただ俺達はこの手の事件が今回で2回目なんだ。前回は悪魔マモンだった」
「悪魔繋がりならその前にデーウもいるよー。女神ならヘルがいるし神様はミスラとかー。天使ならラファエルとかウリエル? どれに会いたい?」
突然ふわっと姿を現して喋り出したディーを見たジョージが顔を引き攣らせて椅子から飛び上がった。
「じいちゃん、酷い。ディー結構傷ついたかも、一回消し炭にしちゃうよ?」
ディーが葉っぱのついた枝をジョージに突きつけるとルカが態とらしく大きな溜息をついた。
「ディー、消し炭はブームか?」
「その通り、すっごく分かりやすいでしょー。ミリアの得意技だし?」
「ディー、それは違う。もう暴走しないもん」
ミリアがますます小さくなって呟いた。
「よっ妖精ですか?」
ジョージがハンカチで汗を拭いながら小声で尋ねた。
「いや、こいつは木の精霊ドリアードだ」
「精霊・・ですか。物語や神話の中の生き物で、本当にいるとは思いませんでした」
『我も此処におる』
「えっ? 今の男性の声、どっどこから聞こえ・・」
ビクビクと辺りを見回したジョージの目がのっそりと起き上がったヴァンにとまった。少し離れた場所に移動したヴァンがジョージをじっと見つめると、ジョージはヴァンを注視したまま金縛りにあったように動けなくなった。全員の目の前でヴァンの輪郭がぼやけ巨大なフェンリルの姿に戻った。
ジョージは目を見開き真っ青になったが、エレノアは『まあ』と言ったきり目を輝かせている。
「ヴァンさんは・・灰色狼ですの? なんて大きくて綺麗なんでしょう!」
『我は神獣フェンリル』
「自分から姿を現すとか珍しいな。しかもエレノアの度胸が半端ねえ」
『自由に動ける駒が必要。その頑固者であれば役に立つ。そのジジイ、他にも気づいていることがあろう?』
「どっどうしてそれを!」
『我に隠し事は出来ぬ』
「俺達だと警戒されて誘い出せねえなって思ってたんだ。って事でジョージには老体に鞭打ってせっせと働いてもらうとするか。ヴァン、お前結構役に立つじゃん」
ルカがヴァンに暴言を吐いた途端ジョージが椅子に座り込んで頭を抱えこんだ。
「ルカ様・・貴方と言う方は全く」
「んで、ジジイにジジイ呼ばわりされたジョージ。何を隠してる?」
「昨夜ゼウス繋がりだって言ったでしょう? つまりそれはへーラー繋がりって事。へーラーは嫉妬深くて粘着質、ゼウスの愛人とその子供に極悪非道な罰を与えるの。執念深さは地の底まででも追いかけるって感じ。
カリストーの例が分かりやすいと思う。
嫉妬に狂って熊に変えて、さらにゼウスがカリストーを助ける為におおぐま座に変えたら休む暇さえ与えない。
そんなへーラーがマイアとヘルメースを見逃したはずがないわ。マイアやヘルメースの歴史にへーラーの仕打ちが出てこなかったからうっかりしてた」
最高位の女神であるへーラーは結婚と母性と貞節を司る。嫉妬深い性格でゼウスの浮気相手やその間の子供に対し執念深く追い詰め苛烈な罰を科しては様々な悲劇を引き起こした。
「それで?」
「しかもヘルメースは巨人アルゴスを殺してへーラーの邪魔をしたの。へーラーにしてみればゼウスの子供ってだけでも腹立たしいのにゼウスの愛人を助けたんだもの。彼女がどれほどの恨みを持って仕返ししたか想像するのも恐ろしいわ」
ゼウスは愛人のイーオーをへーラーの身から隠すために牝牛に変えた。その牝牛を奪い取ったへーラーは百眼の巨人アルゴスにイーオーを見張らせていたが、巨人アルゴスはゼウスの命令を受けてイーオーを取り戻しに来たヘルメースにより殺された。
この際、ヘルメースは葦笛の音を聞かせてアルゴスの目を全て眠らせて剣で首を刎ねたと言われている。ヘルメースの異名『アルゲイポンテース』は、『アルゴスを殺した者』という意味。
ヘーラーはアルゴスの死後、その目を取って自身の飼っているクジャクの尾羽根に飾った。それ以来クジャクは尾羽根に百の目を持つと言われるようになった。
「マイアにも参加したい気持ちがあったって事だわ。彼女は家に黄金や銀を溜め込んでるの。今回の資金提供者かも・・。
3人が恨みを持つへーラーは結婚を司っててベルフェゴールは結婚を忌み嫌ってる。もしかしたらレヴィアタンと何かあったのかもしれないけど、既婚者だけが狙われてるのはそのせいだわ」
「結婚否定派のベルフェゴールが大嫌いなへーラーへの仕返しに3人を唆した。ベルフェゴールは呑気に宿で『怠惰』を貪っているうちに既婚者達はそれぞれ勝手に『好色』に耽る・・」
ルカの想像を耳に入れながらミリアがパッと顔を上げた。
「あーっ! 嫌な事思いついちゃったかも」
ミリアが苦虫を噛み潰したような顔になりヴァンをチラッと見遣ったが、ヴァンはいつものように顔を横に向け知らん顔を決め込んだ。
「嫌なことってなんだ?」
「えっと、言霊あるからやめとく。それより今後の計画立てなくちゃね」
じっとミリアを凝視していたジョージがルカの方を向いて声をかけた。
「先程からお話に出てきている女神や悪魔の話についてお聞かせいただけないでしょうか?」
「ん? 気になるよな。ミリアの方が正しく説明出来るだろ? 頼む」
ミリアが一から全てを話し終えるとジョージが鼻を鳴らした。
「申し訳ありませんが、わたくしにはとても良くできた物語のように聞こえます」
「わたくしはミリアさんのお話を信じていますわ」
エレノアが身を乗り出して言い募った。
「エレノアが一発で信じてくれたのは嬉しいが、ジョージの反応の方が普通だと思う。ただ俺達はこの手の事件が今回で2回目なんだ。前回は悪魔マモンだった」
「悪魔繋がりならその前にデーウもいるよー。女神ならヘルがいるし神様はミスラとかー。天使ならラファエルとかウリエル? どれに会いたい?」
突然ふわっと姿を現して喋り出したディーを見たジョージが顔を引き攣らせて椅子から飛び上がった。
「じいちゃん、酷い。ディー結構傷ついたかも、一回消し炭にしちゃうよ?」
ディーが葉っぱのついた枝をジョージに突きつけるとルカが態とらしく大きな溜息をついた。
「ディー、消し炭はブームか?」
「その通り、すっごく分かりやすいでしょー。ミリアの得意技だし?」
「ディー、それは違う。もう暴走しないもん」
ミリアがますます小さくなって呟いた。
「よっ妖精ですか?」
ジョージがハンカチで汗を拭いながら小声で尋ねた。
「いや、こいつは木の精霊ドリアードだ」
「精霊・・ですか。物語や神話の中の生き物で、本当にいるとは思いませんでした」
『我も此処におる』
「えっ? 今の男性の声、どっどこから聞こえ・・」
ビクビクと辺りを見回したジョージの目がのっそりと起き上がったヴァンにとまった。少し離れた場所に移動したヴァンがジョージをじっと見つめると、ジョージはヴァンを注視したまま金縛りにあったように動けなくなった。全員の目の前でヴァンの輪郭がぼやけ巨大なフェンリルの姿に戻った。
ジョージは目を見開き真っ青になったが、エレノアは『まあ』と言ったきり目を輝かせている。
「ヴァンさんは・・灰色狼ですの? なんて大きくて綺麗なんでしょう!」
『我は神獣フェンリル』
「自分から姿を現すとか珍しいな。しかもエレノアの度胸が半端ねえ」
『自由に動ける駒が必要。その頑固者であれば役に立つ。そのジジイ、他にも気づいていることがあろう?』
「どっどうしてそれを!」
『我に隠し事は出来ぬ』
「俺達だと警戒されて誘い出せねえなって思ってたんだ。って事でジョージには老体に鞭打ってせっせと働いてもらうとするか。ヴァン、お前結構役に立つじゃん」
ルカがヴァンに暴言を吐いた途端ジョージが椅子に座り込んで頭を抱えこんだ。
「ルカ様・・貴方と言う方は全く」
「んで、ジジイにジジイ呼ばわりされたジョージ。何を隠してる?」
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