107 / 149
アルスター侯爵家
105.全員が出揃って
しおりを挟む
「メンバーは他にもいるんだろ?」
「はい、少し年上の女性とお会いしたことのない女性と男性が一人おられます。年上の女性は時々屋敷にいらっしゃってお父様とお仕事の話をされてるそうですが、もう一人の女性は宿からほとんどお出にならないそうです。男性の方はあちこち出歩かれているそうですが誰ともお話しされないのだそうです」
(エリッソンは一年と三ヶ月前って言ってたと思うから、こっちの方が先だったんだ)
ルカが腕を組んで首を傾げた。
「って事はエレノアの悩みはオヤジの老いらくの恋と乱行パーティーか?」
一人がけの椅子を占領してうたた寝を決め込んでいたヴァンが鼻を鳴らした。
「何だ? ヴァン、他にもあるのなら教えてくれ」
「お兄様、ワンちゃんとお話しされてるのですか?」
「えっ? いやー、助けてくれっていうくらいだしなんか他にもあるんだろ?」
「女性に夢中になっていた村の若い男性が何人か行方不明になっているんです」
エレノアは暗い顔で手にしたハンカチを捩りながら低いトーンで呟いた。
「・・オヤジが消してるんじゃないかって?」
ルカの問いかけにエレノアは俯いて黙り込んだ時ノックの音が響きメイド達がランプを持って入ってきた。窓際やテーブルの近くにランプを置き、新しい紅茶を準備し終えたメイド達が部屋を出たのを確認してルカが話を続けた。
「んー、もしそうだとしたら確かにヤバいが確証がないなら本人に問い正すのがいいと思う。だが、アイツが俺と真面に話すとは思えん」
「あの、横からすみません。村に鳥とかネズミやイタチが増えたなんて事はないですか?」
「えっ? 鳥は昔からよく見かけます。ボスデリア山が近いので色々な種類の鳥が・・そう言えば鼠や狸の被害が増えていると聞きました。後は、ブロンズトキが時々空を飛んでいるのが見られるらしいです」
ブロンズトキは内陸の沼地や湿地の多い草原に生息する全長48~65cmになるやや大型の鳥。繁殖個体は赤褐色の身体に暗緑色の翼を持ち、非繁殖個体と若年個体は暗い体色のままである。
コロニーを形成して繁殖し、水辺の樹上などに巣を作る。
「朱鷺は珍しいんですか?」
ルカとカノンはしつこくエレノアに質問しはじめたミリアを不安気に見やった。
「珍しいと思います。以前は聞いたことがなかったので」
「時々いらっしゃる年配の女性の服装とかアクセサリーなんかはどんな感じですか?」
「いつもとても素敵なドレスやアクセサリーを身につけておられるそうです。わたくしも何度か遠目にお見かけしましたが華やかでとても煌びやかなお姿でした」
青褪めたミリアの顔を見たルカとカノンは顔を見合わせ溜息をついた。
「宿から出ない女性はきっと絶世の美女ですね」
ミリアは肩を落とし、見たことがないほどどんよりとした雰囲気を醸し出している。エレノアはそれに気づかず両手を叩きにっこりと微笑んだ。
「その通りですの、よくお分かりになられましたね。他のお二人も見たことがないほど美しい方なのですが、噂ではお二人が霞んで見えるほどの美しさだとか。
宿の周りには興味を引かれた男性が何人も歩き回っておられるそうです」
「たまに来る男の人って帽子被って珍しい形の杖なんて持ってたりします?」
「はい、広めのつばの付いた帽子を常に被られていて羽のようなものがついた短い杖をお持ちです」
「・・念の為、名前確認しとく? もういいか、ヴァンにのせられた? グレーニアに釣られた私が甘かった。ハーミットでお留守番しとけば良かったかも」
とても小さな声でぶつぶつ呟くミリアの声は隣に座っているカノンにしか聞こえなかったが、意味を理解したカノンが蒼白になり慌ててルカの顔を振り返った。
『ならば、見捨てるか?』
「・・見捨てられないって知ってるくせに」
『ルカ一人では荷が重かろう』
「私にも重いよ? ディエチミーラにも来て貰えば良かったかも」
『彼奴らは別のものを探しておる』
「・・そう言うこと?」
『そう言うことじゃな』
ヴァンの念話はミリアにしか聞こえていないようでルカとカノンは不安気にミリアの言葉を聞こうと顔を覗き込み、何も知らないエレノアは首を傾げている。
「その方達のお名前ってわかります?」
本名ではないだろうと言いつつエレノアが名前を列挙した。
「お父様と親しくされている方はジュピターと名乗っておられます。年配の女性の方はアデス。パーティーを催される男性はメリクリウスで、もう一人の男性はニクスです。お会いしたことがない女性はパレスと仰るらしいです」
大きく溜息をついたミリアがルカを見上げた。
「ルカさん、2人だけで話したいんだけど」
「・・分かった。つまり、そう言うことか」
「うん、引き寄せ体質は私じゃなくてルカさんだってこと」
ぐっと返事に詰まったルカは膝に両手を突き厳しい表情でエレノアを見つめた。
「どうやらお前が連絡してきたのは正しかったらしい。ちょっとミリアと席を外すからカノンの事を頼めるか?」
不安そうなエレノアは青褪めたミリアと真剣な表情のルカを何度も見比べた。
「お聞きするべき事であればわたくしにもお聞かせ頂けませんでしょうか? どのようなお話でも構いません」
しかしなあと言いながらルカが眉間に皺を寄せた。
『いずれ話さねばなるまい』
ヴァンの声がルカとカノンにも聞こえた。
「エレノア、多分お前が想像も出来ないような恐ろしい話になると思う。途中で気絶したり取り乱したりするくらいなら聞くべきじゃない」
ルカの言葉にエレノアはひゅーっと喉を鳴らしたが首を縦に振った。
「どんな内容であっても取り乱したりしないとお約束します。侯爵領の為にもお父様の為にも」
全員が注目する中虚な目をしたミリアが口を開いた。
「・・ルシファーの副官で『怠惰』と『好色』を司るベルフェゴール」
「バージョンアップしてるぞ。マモンより強くねえか?」
「はい、少し年上の女性とお会いしたことのない女性と男性が一人おられます。年上の女性は時々屋敷にいらっしゃってお父様とお仕事の話をされてるそうですが、もう一人の女性は宿からほとんどお出にならないそうです。男性の方はあちこち出歩かれているそうですが誰ともお話しされないのだそうです」
(エリッソンは一年と三ヶ月前って言ってたと思うから、こっちの方が先だったんだ)
ルカが腕を組んで首を傾げた。
「って事はエレノアの悩みはオヤジの老いらくの恋と乱行パーティーか?」
一人がけの椅子を占領してうたた寝を決め込んでいたヴァンが鼻を鳴らした。
「何だ? ヴァン、他にもあるのなら教えてくれ」
「お兄様、ワンちゃんとお話しされてるのですか?」
「えっ? いやー、助けてくれっていうくらいだしなんか他にもあるんだろ?」
「女性に夢中になっていた村の若い男性が何人か行方不明になっているんです」
エレノアは暗い顔で手にしたハンカチを捩りながら低いトーンで呟いた。
「・・オヤジが消してるんじゃないかって?」
ルカの問いかけにエレノアは俯いて黙り込んだ時ノックの音が響きメイド達がランプを持って入ってきた。窓際やテーブルの近くにランプを置き、新しい紅茶を準備し終えたメイド達が部屋を出たのを確認してルカが話を続けた。
「んー、もしそうだとしたら確かにヤバいが確証がないなら本人に問い正すのがいいと思う。だが、アイツが俺と真面に話すとは思えん」
「あの、横からすみません。村に鳥とかネズミやイタチが増えたなんて事はないですか?」
「えっ? 鳥は昔からよく見かけます。ボスデリア山が近いので色々な種類の鳥が・・そう言えば鼠や狸の被害が増えていると聞きました。後は、ブロンズトキが時々空を飛んでいるのが見られるらしいです」
ブロンズトキは内陸の沼地や湿地の多い草原に生息する全長48~65cmになるやや大型の鳥。繁殖個体は赤褐色の身体に暗緑色の翼を持ち、非繁殖個体と若年個体は暗い体色のままである。
コロニーを形成して繁殖し、水辺の樹上などに巣を作る。
「朱鷺は珍しいんですか?」
ルカとカノンはしつこくエレノアに質問しはじめたミリアを不安気に見やった。
「珍しいと思います。以前は聞いたことがなかったので」
「時々いらっしゃる年配の女性の服装とかアクセサリーなんかはどんな感じですか?」
「いつもとても素敵なドレスやアクセサリーを身につけておられるそうです。わたくしも何度か遠目にお見かけしましたが華やかでとても煌びやかなお姿でした」
青褪めたミリアの顔を見たルカとカノンは顔を見合わせ溜息をついた。
「宿から出ない女性はきっと絶世の美女ですね」
ミリアは肩を落とし、見たことがないほどどんよりとした雰囲気を醸し出している。エレノアはそれに気づかず両手を叩きにっこりと微笑んだ。
「その通りですの、よくお分かりになられましたね。他のお二人も見たことがないほど美しい方なのですが、噂ではお二人が霞んで見えるほどの美しさだとか。
宿の周りには興味を引かれた男性が何人も歩き回っておられるそうです」
「たまに来る男の人って帽子被って珍しい形の杖なんて持ってたりします?」
「はい、広めのつばの付いた帽子を常に被られていて羽のようなものがついた短い杖をお持ちです」
「・・念の為、名前確認しとく? もういいか、ヴァンにのせられた? グレーニアに釣られた私が甘かった。ハーミットでお留守番しとけば良かったかも」
とても小さな声でぶつぶつ呟くミリアの声は隣に座っているカノンにしか聞こえなかったが、意味を理解したカノンが蒼白になり慌ててルカの顔を振り返った。
『ならば、見捨てるか?』
「・・見捨てられないって知ってるくせに」
『ルカ一人では荷が重かろう』
「私にも重いよ? ディエチミーラにも来て貰えば良かったかも」
『彼奴らは別のものを探しておる』
「・・そう言うこと?」
『そう言うことじゃな』
ヴァンの念話はミリアにしか聞こえていないようでルカとカノンは不安気にミリアの言葉を聞こうと顔を覗き込み、何も知らないエレノアは首を傾げている。
「その方達のお名前ってわかります?」
本名ではないだろうと言いつつエレノアが名前を列挙した。
「お父様と親しくされている方はジュピターと名乗っておられます。年配の女性の方はアデス。パーティーを催される男性はメリクリウスで、もう一人の男性はニクスです。お会いしたことがない女性はパレスと仰るらしいです」
大きく溜息をついたミリアがルカを見上げた。
「ルカさん、2人だけで話したいんだけど」
「・・分かった。つまり、そう言うことか」
「うん、引き寄せ体質は私じゃなくてルカさんだってこと」
ぐっと返事に詰まったルカは膝に両手を突き厳しい表情でエレノアを見つめた。
「どうやらお前が連絡してきたのは正しかったらしい。ちょっとミリアと席を外すからカノンの事を頼めるか?」
不安そうなエレノアは青褪めたミリアと真剣な表情のルカを何度も見比べた。
「お聞きするべき事であればわたくしにもお聞かせ頂けませんでしょうか? どのようなお話でも構いません」
しかしなあと言いながらルカが眉間に皺を寄せた。
『いずれ話さねばなるまい』
ヴァンの声がルカとカノンにも聞こえた。
「エレノア、多分お前が想像も出来ないような恐ろしい話になると思う。途中で気絶したり取り乱したりするくらいなら聞くべきじゃない」
ルカの言葉にエレノアはひゅーっと喉を鳴らしたが首を縦に振った。
「どんな内容であっても取り乱したりしないとお約束します。侯爵領の為にもお父様の為にも」
全員が注目する中虚な目をしたミリアが口を開いた。
「・・ルシファーの副官で『怠惰』と『好色』を司るベルフェゴール」
「バージョンアップしてるぞ。マモンより強くねえか?」
0
お気に入りに追加
960
あなたにおすすめの小説
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで
一本橋
恋愛
ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。
その犯人は俺だったらしい。
見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。
罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。
噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。
その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。
慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──
家路を飾るは竜胆の花
石河 翠
恋愛
フランシスカの夫は、幼馴染の女性と愛人関係にある。しかも姑もまたふたりの関係を公認しているありさまだ。
夫は浮気をやめるどころか、たびたびフランシスカに暴力を振るう。愛人である幼馴染もまた、それを楽しんでいるようだ。
ある日夜会に出かけたフランシスカは、ひとけのない道でひとり置き去りにされてしまう。仕方なく徒歩で屋敷に帰ろうとしたフランシスカは、送り犬と呼ばれる怪異に出会って……。
作者的にはハッピーエンドです。
表紙絵は写真ACよりchoco❁⃘*.゚さまの作品(写真のID:22301734)をお借りしております。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
(小説家になろうではホラージャンルに投稿しておりますが、アルファポリスではカテゴリーエラーを避けるために恋愛ジャンルでの投稿となっております。ご了承ください)
もう我慢する気はないので出て行きます〜陰から私が国を支えていた事実を彼らは知らない〜
おしゃれスナイプ
恋愛
公爵令嬢として生を受けたセフィリア・アインベルクは己の前世の記憶を持った稀有な存在であった。
それは『精霊姫』と呼ばれた前世の記憶。
精霊と意思疎通の出来る唯一の存在であったが故に、かつての私は精霊の力を借りて国を加護する役目を負っていた。
だからこそ、人知れず私は精霊の力を借りて今生も『精霊姫』としての役目を果たしていたのだが————
捨てられ聖女の私が本当の幸せに気付くまで
海空里和
恋愛
ラヴァル王国、王太子に婚約破棄されたアデリーナ。
さらに、大聖女として国のために瘴気を浄化してきたのに、見えない功績から偽りだと言われ、国外追放になる。
従者のオーウェンと一緒に隣国、オルレアンを目指すことになったアデリーナ。しかし途中でラヴァルの騎士に追われる妊婦・ミアと出会う。
目の前の困っている人を放っておけないアデリーナは、ミアを連れて隣国へ逃げる。
そのまた途中でフェンリルの呼びかけにより、負傷したイケメン騎士を拾う。その騎士はなんと、隣国オルレアンの皇弟、エクトルで!?
素性を隠そうとオーウェンはミアの夫、アデリーナはオーウェンの愛人、とおかしな状況に。
しかし聖女を求めるオルレアン皇帝の命令でアデリーナはエクトルと契約結婚をすることに。
未来を諦めていたエクトルは、アデリーナに助けられ、彼女との未来を望むようになる。幼い頃からアデリーナの側にいたオーウェンは、それが面白くないようで。
アデリーナの本当に大切なものは何なのか。
捨てられ聖女×拗らせ従者×訳アリ皇弟のトライアングルラブ!
※こちら性描写はございませんが、きわどい表現がございます。ご了承の上お読みくださいませ。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放されましたのでちょっと仕返しします
あおい
恋愛
婚約破棄からの爵位剥奪に国外追放!
初代当主は本物の天使!
天使の加護を受けてる私のおかげでこの国は安泰だったのに、その私と一族を追い出すとは何事ですか!?
身に覚えのない理由で婚約破棄に爵位剥奪に国外追放してきた第2王子に天使の加護でちょっと仕返しをしましょう!
(完結)妹の為に薬草を採りに行ったら、婚約者を奪われていましたーーでも、そんな男で本当にいいの?
青空一夏
恋愛
妹を溺愛する薬師である姉は、病弱な妹の為によく効くという薬草を遠方まで探す旅に出た。だが半年後に戻ってくると、自分の婚約者が妹と・・・・・・
心優しい姉と、心が醜い妹のお話し。妹が大好きな天然系ポジティブ姉。コメディ。もう一回言います。コメディです。
※ご注意
これは一切史実に基づいていない異世界のお話しです。現代的言葉遣いや、食べ物や商品、機器など、唐突に現れる可能性もありますのでご了承くださいませ。ファンタジー要素多め。コメディ。
この異世界では薬師は貴族令嬢がなるものではない、という設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる