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アルスター侯爵家
104.ミリアに丸投げ
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「冒険者仲間と言うのは、ギルドと言うところで仕事を請け負って生活費を稼ぐ仕事仲間の事です。
カノンはお兄さんが別のグループに参加している間預かっているんですが、冒険者になるには年齢が足りないのでポーターの資格を持って一緒に行動しています。それから、ヴァンはペットではなくとても優秀な私達の仲間です」
ミリアの話に目をパチパチさせていたエレノアが口を押さえ真っ赤になってしまった。
「ごめんなさい。わたくし早とちりをしてしまって」
「冒険者なんて貴族のご令嬢とは縁のない職業ですからご存じなくても仕方ないと思います。だからどうかお気になさらないで下さいね」
ミリアがにっこり笑うとエレノアは申し訳なさそうに頭を下げた。
「ちびすけ、すげえ。ちょっと見直した」
「お兄様にお会いしたいとずっと祈っておりましたの。
もしかしたらお兄様にはもう特別な方がおられるのかしらとか、もしそうならその方にもお会いできたら嬉しいとか・・お会いしたばかりなのに恥ずかしいですわ。どうかお許しくださいまし」
メイドのフレヤが持って来たお茶とお茶菓子で漸く落ち着いてきたらしいエレノアにルカが話しかけた。
「なんで離れに住んでるんだ? 母家には部屋が余ってるだろ?」
「侯爵家に引き取られた時既にお父様がここを建てて下さっていたんです。それまで山の中に住んでいたものですからここがすっかり気に入ってしまって。何度かジョージから母家を勧められたのですが我儘を言ってここに住んでおりますの」
離れは煉瓦造りの2階建て、広い部屋には大きな窓があり明るく開放的で壁紙やカーテンなどは女性らしい色合いで統一されていた。窓からは生い茂った新緑の木々と手入れの行き届いた庭が見える。
「不便はないのか?」
「はい、十分すぎるほどの数の使用人がおりますし皆とても優秀で良い人ばかりです。ここには厨房もあるので食事の度に母家へ行く必要もなくて」
「でも手紙を書いたんだろ?」
「はい、それは・・」
エレノアが言い淀み俯いた。
「私達ちょっと席を外しますね。お庭を拝見させて頂いても良いですか?」
「どうかここにいてくださいませ。誤解させるような態度をとってしまって申し訳ありません。どこから話せば良いのか考えておりましたの。お疲れでしょう? 少しお休みされてはいかがですか?」
席を立ちかけたミリアとカノンをエレノアが引き止めた。ミリアがルカの顔を見るとうんと頷いてソファに座るよう目で合図してきた。
「出来ればオヤジが帰ってくる前にあらましだけでも聞いておきたいんだが・・無理は言わねえ」
「では、少し長くなりますが初めからお話しさせて下さい。
6年前ダハール王国が天災に見舞われた事をご存知でしょうか? 大雪で家屋や街道に被害が出て復旧の途中に長雨で農作物が甚大な被害を受け、侯爵領も復旧の目処が立たないほどでしたの」
その年と翌年は税収どころか領民は食べるものもない有様になったが、国王からの勅命を受けた徴税人がやって来てマナーハウスの絵画や貴重品を税の代わりに差し押さえていった。侯爵家に代々受け継がれていた宝石や刀剣などは残ったが徴税人が一番に目をつけて持っていったのは侯爵の大切にしていた愛馬と馬具だった。
「お父様はその後酷く荒れてしまわれて・・でも、馬は繁殖に時間がかかるからと畑を潰して牧場を作り牛と驢馬の飼育に乗り出されたのです。驢馬は少ない餌で維持できる上に寿命が長く食用にもできますし」
それから暫くして山から熊が降りてくるようになった。雑食の熊達は牧場や村人の家畜を襲い納屋に備蓄されていた僅かな食料や畑を荒らした。
村にいた僅かな狩人や農民が武器を持ち戦ったが被害はどんどん広がって行った。
「偶然通りかかったと言う旅の一団のお一人が仕掛けた罠と弓で熊を追い払って下さったのですが、その頃からお父様の様子がおかしくなりはじめました」
男性は苦手だからと言って森に1人で入って狩りを行い、後から男達が討伐済みの熊を回収する。シンプルなローブと剣を身につけたその人は化粧もせず長い髪を革紐で結んだだけだったがあまりの美しさに多くの男性が夢中になった。
「お父様のお誘いを初めは断っておいでだったのですが、次第に毎晩お屋敷で夕食を共にされるようになりました。食事の後歌や踊りを楽しまれ本当に仲睦まじいご様子でした。お父様は次第に他の男性がその方の近くに寄るのを嫌がられ村の若者達と揉めるようになってしまわれたんです」
「焼き餅ってやつか? よっぽど惚れ込んだんだな」
エレノアは話を続けにくそうに目をあちこちに泳がせていたが、大きく溜息をついて再び話しはじめた。
「その女性の仲間の方が屋敷に出入りするようになったんですけれど、その方が村の若い女性を集めてパーティーを開いて・・その、とても不道徳な行いを」
エレノアが言い淀み赤い顔で俯いた。
「あー、そういうタイプのパーティーか。オヤジは知ってるのか?」
「時々揉めておられるそうなのでご存じだと思います。でも、頭が良くてその上とてもお口の達者な方で・・屋敷にあるアレコレも持っていかれてるそうです」
「あのオヤジが丸め込まれてる? 変な奴らに捕まったもんだな。熊騒ぎはどうなった?」
通常、一度人里で簡単に食料を確保した熊はその後も同じ場所を狙ってくる。人を襲った熊は人を、家畜を食した熊は家畜を求めて近くの場所を徘徊する。
「山の中で十分な食糧が確保できるようになったらしく滅多に出てこなくなりました。
その方達はそれ以降ずっとこの村の宿と侯爵家を行き来しておられますの」
「メンバーは他にもいるんだろ?」
カノンはお兄さんが別のグループに参加している間預かっているんですが、冒険者になるには年齢が足りないのでポーターの資格を持って一緒に行動しています。それから、ヴァンはペットではなくとても優秀な私達の仲間です」
ミリアの話に目をパチパチさせていたエレノアが口を押さえ真っ赤になってしまった。
「ごめんなさい。わたくし早とちりをしてしまって」
「冒険者なんて貴族のご令嬢とは縁のない職業ですからご存じなくても仕方ないと思います。だからどうかお気になさらないで下さいね」
ミリアがにっこり笑うとエレノアは申し訳なさそうに頭を下げた。
「ちびすけ、すげえ。ちょっと見直した」
「お兄様にお会いしたいとずっと祈っておりましたの。
もしかしたらお兄様にはもう特別な方がおられるのかしらとか、もしそうならその方にもお会いできたら嬉しいとか・・お会いしたばかりなのに恥ずかしいですわ。どうかお許しくださいまし」
メイドのフレヤが持って来たお茶とお茶菓子で漸く落ち着いてきたらしいエレノアにルカが話しかけた。
「なんで離れに住んでるんだ? 母家には部屋が余ってるだろ?」
「侯爵家に引き取られた時既にお父様がここを建てて下さっていたんです。それまで山の中に住んでいたものですからここがすっかり気に入ってしまって。何度かジョージから母家を勧められたのですが我儘を言ってここに住んでおりますの」
離れは煉瓦造りの2階建て、広い部屋には大きな窓があり明るく開放的で壁紙やカーテンなどは女性らしい色合いで統一されていた。窓からは生い茂った新緑の木々と手入れの行き届いた庭が見える。
「不便はないのか?」
「はい、十分すぎるほどの数の使用人がおりますし皆とても優秀で良い人ばかりです。ここには厨房もあるので食事の度に母家へ行く必要もなくて」
「でも手紙を書いたんだろ?」
「はい、それは・・」
エレノアが言い淀み俯いた。
「私達ちょっと席を外しますね。お庭を拝見させて頂いても良いですか?」
「どうかここにいてくださいませ。誤解させるような態度をとってしまって申し訳ありません。どこから話せば良いのか考えておりましたの。お疲れでしょう? 少しお休みされてはいかがですか?」
席を立ちかけたミリアとカノンをエレノアが引き止めた。ミリアがルカの顔を見るとうんと頷いてソファに座るよう目で合図してきた。
「出来ればオヤジが帰ってくる前にあらましだけでも聞いておきたいんだが・・無理は言わねえ」
「では、少し長くなりますが初めからお話しさせて下さい。
6年前ダハール王国が天災に見舞われた事をご存知でしょうか? 大雪で家屋や街道に被害が出て復旧の途中に長雨で農作物が甚大な被害を受け、侯爵領も復旧の目処が立たないほどでしたの」
その年と翌年は税収どころか領民は食べるものもない有様になったが、国王からの勅命を受けた徴税人がやって来てマナーハウスの絵画や貴重品を税の代わりに差し押さえていった。侯爵家に代々受け継がれていた宝石や刀剣などは残ったが徴税人が一番に目をつけて持っていったのは侯爵の大切にしていた愛馬と馬具だった。
「お父様はその後酷く荒れてしまわれて・・でも、馬は繁殖に時間がかかるからと畑を潰して牧場を作り牛と驢馬の飼育に乗り出されたのです。驢馬は少ない餌で維持できる上に寿命が長く食用にもできますし」
それから暫くして山から熊が降りてくるようになった。雑食の熊達は牧場や村人の家畜を襲い納屋に備蓄されていた僅かな食料や畑を荒らした。
村にいた僅かな狩人や農民が武器を持ち戦ったが被害はどんどん広がって行った。
「偶然通りかかったと言う旅の一団のお一人が仕掛けた罠と弓で熊を追い払って下さったのですが、その頃からお父様の様子がおかしくなりはじめました」
男性は苦手だからと言って森に1人で入って狩りを行い、後から男達が討伐済みの熊を回収する。シンプルなローブと剣を身につけたその人は化粧もせず長い髪を革紐で結んだだけだったがあまりの美しさに多くの男性が夢中になった。
「お父様のお誘いを初めは断っておいでだったのですが、次第に毎晩お屋敷で夕食を共にされるようになりました。食事の後歌や踊りを楽しまれ本当に仲睦まじいご様子でした。お父様は次第に他の男性がその方の近くに寄るのを嫌がられ村の若者達と揉めるようになってしまわれたんです」
「焼き餅ってやつか? よっぽど惚れ込んだんだな」
エレノアは話を続けにくそうに目をあちこちに泳がせていたが、大きく溜息をついて再び話しはじめた。
「その女性の仲間の方が屋敷に出入りするようになったんですけれど、その方が村の若い女性を集めてパーティーを開いて・・その、とても不道徳な行いを」
エレノアが言い淀み赤い顔で俯いた。
「あー、そういうタイプのパーティーか。オヤジは知ってるのか?」
「時々揉めておられるそうなのでご存じだと思います。でも、頭が良くてその上とてもお口の達者な方で・・屋敷にあるアレコレも持っていかれてるそうです」
「あのオヤジが丸め込まれてる? 変な奴らに捕まったもんだな。熊騒ぎはどうなった?」
通常、一度人里で簡単に食料を確保した熊はその後も同じ場所を狙ってくる。人を襲った熊は人を、家畜を食した熊は家畜を求めて近くの場所を徘徊する。
「山の中で十分な食糧が確保できるようになったらしく滅多に出てこなくなりました。
その方達はそれ以降ずっとこの村の宿と侯爵家を行き来しておられますの」
「メンバーは他にもいるんだろ?」
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