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アルスター侯爵家

99.黒山の人だかりと転移の恐怖

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 街の者に説明するのは司教に押し付けることに決めたが、マモンから受け取った金や宝石は既に馬糞や灰になっている人も多く彼等の不満は全て教会へと向けられた。

 まだ金や宝石を持っている者達も教会に押しかけ何とかしろと騒いでおり、連日教会の前は黒山の人だかりができている。
 事件の日ディーが作った生垣の辺りには大勢の人が詰めかけており、ラファエルとウリエルの姿を見て直接声を聞いた者達が声高に話を広めている為誤魔化しようがない。



「欲をかいて物を売りに行ったのは奴らだし、教会だけが悪いとは言えない気もするんだが」

 セオドラが苦笑いを浮かべながらテーブルに出されたお菓子を選んでいる。

「まあ、元凶は司教ですからお仕置きの意味を込めて頑張ってもらうしかないかな」

「人の欲望には限りがありませんが、それと同じくらい責任転嫁が好きな生き物ですから仕方ないでしょう」

 グレイソンはしたり顔で頷き、最近妙に仲良くなったヨルムガンドにコンフェッティを渡している。


「ちょい聞きたいんだけど、何気に大天使様が混じってんのおかしくねえか?
何でみんな普通に話してるんだか意味わかんねえ」



 ギルマスの家の食堂にはルカの他に、ミリア・セオドラ・グレイソン・猫・が寛いでいる。

「最近はあまり動じなくなってしまった気がします。お祝いのあの日の衝撃でしょうか?」

「僕は元々医者だからミリアと話すのはとても楽しくて」

「まあ何が一番衝撃的かと聞かれると、ミリアがここにいるのにウォーカーがいないって事かな?」


 ウリエルはウォーカーが錬金術で作った道具に関心を示し、ウォーカーもウリエルの知識に興奮して連日寝食を忘れて研究に没頭している。

「あんまり長居されるとヤバいんだよなー。ここには人目を誤魔化す訓練場とかねえし」



 口にするべきではない一言をルカが喋った途端、全員がトレントの森に転移させられていた。


「ミリア、俺様に会いにきてくれたのか!」

 駆け寄ってきたケット・シーがミリアに飛び付こうとした瞬間、ルカが間に飛び込んで来てケット・シーはルカに抱きしめられていた。

「なんだよ、おっさんに用はねえよ!」


「あーはっは、ちょっとは進歩したみたいじゃないか。何時迄もトロトロしてたんじゃジジイになっちまうからねえ」


 勝手にテーブルを設えたヘルがミスラと優雅にワイングラスを傾けていた。

「でた!」

「なんだって? アンタあたしに喧嘩売ってんのかい、折角祝いに来てやったってのに去勢してやろうか?」

「いや、それでは今後の展開が退屈になる。漸く面白くなってきたってのに」


「ミスラ、あんた以前と性格変わってねえか?」

「ミスラは今のが素なんだよー。こないだまではカッコつけてたもんね」

 アータルがルカの隙を狙いミリアに飛びついた。

「ミリアー、すっげえつまんなかった。ミスラがこき使うんだもん。
美味しいお菓子ちょうだい、あの滅茶苦茶甘いやつー」

「何が『もん』だ、ったく油断も隙もあったもんじゃねえ・・ってか、何でヘルの横にガンツが増えてんだ? ヴァン、お前かお前だな」

『ヘルは神獣使いが荒い』

「とか言いながら妹甘やかしてんじゃねえよ。そうやって妹を甘やかす奴らがいるから・・ん? ウォーカーだけじゃねえリンドもそうだよな。よく考えたらガンツお前もだよな」

「最近はナナがマックスの教育に忙しくてな、俺っちは暇にしてるぜ?」


「って事は一人脱落かい? ギルマス、良かったじゃないか」

 ニヤニヤ笑うヘル達の元へ猫が走り込んできた。

『コイツら超つまんねえ、ちっとも暴れられねえ』



「ルカ、手紙預かってますよ」

「・・おう、ソフィアお前まで普通に参加してんのな」

 ルカはソフィアに渡された手紙の裏をチラッと見てポケットに押し込んだ。

「はい、久しぶりにミリアちゃん達に会えて幸せです」



「こないだのお祝いに追加の大天使か」

「いや、テスタロッサはいないぞ」

「あたしもフリームスルスと、フレースヴェルグや栗鼠のラタトスクは置いてきたよ」

「僕もノッカーにはごめんって言っておいたから」

 ペリがひょっこりと顔を出した。


「僕達は滅多に天界から出ないから・・。ペリは初めましてですね。嬉しい驚きです。ヨトゥンヘイム霜の巨人の住む世界のフリームスルスとフレースヴェルグや栗鼠のラタトスクですか? ノッカーに至っては人見知り過ぎて誰も見たことがないのかと。会ってみたかったなあ」

「・・ラファエル、会ってどうする。こないだフリームスルスはノッカーを腕にぶら下げて遊んでたぞ? 頭に鷲を乗せて」

「えっ? ではラタトスクは何をしていたんですか?」

「フリームスルスに登って腹齧ってたな」



「あー、あれは笑えたねえ。よほど楽しかったらしくてさ、また連れてけってうるさいの何の。セリーナが叱り飛ばしてるよ」

 あっはっはと豪快に笑うヘル。


「ちびすけの母ちゃんも健在か。いずれはちびすけもそうなるってことか? 
しっかし父ちゃんの名前は一回も出ねえな」

「おや、ルカ君は随分と先まで」

「こないだのあれは可愛かったねえ。二人で手を繋いで大穴覗き込んでさ」

「・・はあ! てめえ、何覗き見してんだよ」

 ルカが真っ赤になって立ち上がり叫んだ。

「どいつもコイツも、俺達の事はほっといてくれよ」



「そうだ、ルカお前に連絡事項があったんだ」

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