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新しい地、カリーニン

96.叱られるのは誰?

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 バリバリと音がして結界が壊れていくが、竜巻が消えた後には綺麗に張り直された結界の中にミリアとルカが立っていた。

「馬鹿な、生きておるだと!」


 ルカは左手にエリクサーを持ち結界に歪みが出る前に何度も重ね掛けし続けている。


「ちびすけの薬はやべえ。これなら永遠に結界張り続けてられるぜ」

 ニヤリと笑うルカにミリアは、

「ポーションより効果が早いから楽ちんでしょ?」


「こんな事をしおってタダで済むと思うなよ。この後ろに何があるかも知らず、あのお方を怒らせれば貴様らなんぞあっという間に消し炭になるわい」

「えっ、パンデモニウム悪魔が潜む殿堂でしょ? 予定ではそこまで行くつもりなの」

「はあ?」

「後ろにあるのはマモンが守護してる富の洞窟。その奥にあるのはパンデモニウム。
マモンの宝は全部そこに送られてるんだし、それを全部粉々にするつもり」


 あっけらかんと言い放ったミリアの言葉にマモンがブルブルと怒りに震えた。

「あのお方がそのような事を許すわけが」



 マモンの怒りを無視してミリアが話しはじめた。

「以前山の上で試したら一面焼け野原になっちゃったの。あの頃よりコントロールも上手くなったし威力も上がったから、山や洞窟くらいなら簡単に壊せると思うのよね」

「はあ? 人間如きにそのような真似が「【ファイアランス】」」


 ドガーンと音がしてマモンの後ろの山が抉れた。振り返ったマモンはあんぐりと口を開け呆然と立ち竦んだ。

「・・」


「うん、これなら本気でやれば一発でいけそう!」


 ミリアがもう一度ワンドを山に向けるとマモンが叫んだ。

「どれほど魔法が強かろうと貴様などその男の結界がなければただの虫けらと同じではないか! パンデモニウムへ行くなどと笑わせるな。
あの方の居城へ乗り込むなど貴様の妄言に付き合う奴などおらんわ!」


「彼ならどこまででもついて来てくれるわ、信じてるもの」

「おう、面白えじゃん。噂のパンデモニウムとルシファーか? 行ってやろうじゃねえか」


「ふっ、巫山戯るな! あのお方を怒らせるとどうなるか分かっておらんのか!」


「分かってるけど・・その時はマモンも一蓮托生だしね」

「はあ? わしが、何故あのお方に」


「だって私達がパンデモニウムに行くのはマモンのせいだもの。だったら連帯責任でしょ? 多分だけど、

 『貴様のせいで我の居城が!』

なんてボコボコにされそうね。それで済めばラッキーかもだし?
ルシファーって気が短いんじゃなかったかしら。人間嫌いだから、

 『人間など連れてきおって!』

とかもありそうね」


 ミリアはその情景を想像したのか両手を頬に当てて「凄そう・・」と呟いた。



「・・まさか」

「マモンのお宝は粉々に、ルシファーの居城もぼろぼろに。
流石のルシファーだってマモンを許すとは思えないから、一緒にやられちゃうんじゃないかしら」

 ミリアは憐んでいるような可哀想なものを見るような目でマモンを見ながら溜息をついた。


「そっそんな事をして何になる。貴様らもあのお方の逆鱗に触れれば「うーん、取り敢えず私達の心配してる余裕はないんじゃないかしら? やめるつもりないから」」


 ミリアが再びワンドを構え【ファイアランス】を放つと山が半分消し飛んだ。

「うん、このワンド最強ね!」


(ちびすけ、お前がな。本気で怒らせるのだけはやめとくわ)

 ルカが心の中で呟いた。



「この屋敷はもう使えなさそうね。凄く臭いもの」

 ミリアがぽつりと呟いて【フレアブレス】で、屋敷・庭園・残った山裾の木々を焼き払うと焼け野原にぽっかり空いた大穴の前にマモンだけが残っていた。

「わしの・・わしの宝が・・」


「眷属も消し炭になったんだけどそっちは気にしないのね。さすが悪魔だわ」



「ちびすけ、今のは流石にやばいぜ。そう言うのは先に言ってくれねえと」

「ふふ、マモンを吃驚させてあげようと思って。さて、なんにも無くなっちゃったから次は洞窟に行きましょうか」


 ミリアはルカに右手を差し出し、ルカは左手でミリアの手を掴んだ。



「待て、待て待て待て。わしは帰る! 貴様らを連れて行けばわしはあのお方に・・」


 マモンは大穴に飛び込み姿を消した。



 そっと穴を覗き込むミリアとルカは顔を見合わせた。


「終わった? のかしら」

「じゃねえか? 随分慌てて飛び込みやがった。悪魔にしちゃ情けなかったな」


「マモンはヘタレだって有名だから」

「・・悪魔がヘタレ?」


「戦いからは逃げるし大事なのはお宝だけ。しかも崇拝してるルシファーが何よりも怖いの」



「だからあんなにちまちま壊してた訳だ」

「そう、ドカンってなくなるより効果的かなって」

「おう、ビビる悪魔とか凄えもん見れたぜ」



 ゲラゲラ笑うルカを他所にもう一度穴を覗き込んだミリアの手をルカがしっかりと引き寄せた。

「危ねえだろうが、落ちたらどうすんだよ!」

「付いて来てくれるんじゃなかった?」

 振り向いたミリアが悪戯っぽく笑う。


「あっ、あーまあな。どうすっか考えとく」



 取り敢えず大穴をルカの結界で塞いだがその後の方法が思いつかなかった二人。


「うーん、お茶でも飲む?」

「ここでか? 流石にそれはなあ」

 ルカが指差した方を見ると門扉のあった辺りに人がちらほらと集まりはじめていた。



「いやー、見事に焼き尽くしたね」

 ミリア達のすぐ後ろから声が聞こえてきた。


「大天使ラファエル・・」

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