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新しい地、カリーニン

93.セオドラ大慌て

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 ミリアは窓の近くにいるヴァンの方を向いて話しかけた。

「ヴァン、カノンをお願いできる? 私とルカさんはエリッソンに行ってくるから」



『よかろう、ここが危険に晒された時はトレントの森に移転する』


「分かった、その時はターニャとレギーもお願いね」

『うむ』


『ミリア、次になんか見つける時は俺が一緒に動けるようなやつにしてくれ。留守番はつまらん』

「ふふ、覚えとく」



「あのーミリアさん、誰と話してるの? 昨日から時々そのワンちゃんに話しかけてない?」

 ターニャが不安顔のまま話しかけてきたので、ミリアは慌てて両手を振って誤魔化した。

「気にしないで、それよりこの後準備したらルカさんとちょっと出かけてくる。
もし何かあった時はカノンの指示に必ず従ってね。
カノン、ヴァン達が一緒にいるからね」


「うん、ちゃんと指示を聞いて大人しくしてる。ヴァン、みんな宜しく」




「さて、ギルド本部に連絡入れとくか」

「通信の魔道具、父さんしか使えないから無理なんだ」

 ルカはニヤッと笑って立ち上がり多分大丈夫だと言いながらギルドへ向かった。



「登録が残ってんじゃねえかと思ったぜ」

 ルカの予想通りギルドの通信具は正常に反応し、セオドラが出てきた。


『なんだ、暇つぶしか?』

 楽しげなセオドラの声が聞こえてきた。


「いや、今カリーニン」

『そこのギルマスから初期連絡は受けてるがあの後どうなったんだ?』

 揶揄う気満々だったセオドラの声に緊張が走った。


「おう、とんでもないことになってやがる。本部から応援をよこしといてくれ、まだ来てねえとか遅すぎんだろ」

『・・すっげえ怖いんだけど、状況報告してくれ』


 ルカがカリーニンの町とエリッソンの状況を説明し、ミリアの予測とこれからの予定を話すとセオドラの罵声が響いてきた。


『てめえ、そこから一歩も動くな! エリッソンに行くとかお前何考えてやがんだ!』

「いやー、だってよお本部がチンタラしてんのが悪いんじゃねえか。文句なら鏡見て言えや」

『・・ミリアは?』

「勿論、行く気満々で張り切ってる。ちびすけは言い出したら聞かねえんだ。
こんな頑固に育てた奴の顔が見て・・見たくはないな、うん」

『ヴァン達は行かねえのかよ?』

「ああ、あいつらが首突っ込んだら地上が焼け野原になるぜ」


『いつ行く?』

「多分、準備が出来次第。ここにはカノンとガキが二人残る。ヴァン達がいるから心配はねえがとっとと来て責任ぐらい取れよな」




 ミリアとカノンはターニャの両親の部屋に移動して、カノンのアイテムバックに荷物を幾つか移した。
 食料・調味料・鍋や食器・薬・毛布・魔導ランプ、そして数本のエリクサーも。


「火はヴァンがつけてくれるし、水はヨルムガンドが出してくれるわ。ディーは風と木魔法が使えるからいざと言う時は頼んでね。
そして何か不安になったら必ずヴァン達に相談する事、絶対に離れないで。
いつ誰がやってくるか分からないって気を張っておくのよ。
いざとなったらトレントの森かディエチミーラの所に転移してくれるから」

「うん、ミリアちゃんは大丈夫?」

 一人残される不安にカノンが青い顔をしながらミリアを見上げた。

「大丈夫、ルカがいるから」

「ルカさんと二人必ず無事で帰ってきてね。待ってるから」



 カノンが荷物をアイテムバックに入れながら鼻をぐずぐず言わせているとルカが部屋に入ってきた。

「ん? カノンないてんのか? ちびすけと俺はなんの心配もねえよ」

 ルカはカノンの頭をくしゃくしゃとかき混ぜサムズアップしてみせた。



 カノンが食堂にいるターニャの元へ行き、ミリアとルカは二人になった。

「ちびすけ、計画は?」

「出たとこ勝負かな。マモンを討伐できないなら元いたとこに帰ってもらうしかないと思ってるんだけど」

「パンデモニウムにだよなー。ったくなんで出てきやがったのか、ったく邪魔なんだよ。折角ののんびり旅行がよー」


 ミリアはルカのいつもと変わらないのんびりした口調に助けられ、昨夜からの緊張感が緩んでいく気がした。

(いつもこれこの口調に助けられてるんだよね。だから・・)


 アイテムバックから出した物をルカの前に並べた。

「これ、エリクサー。知ってると思うけど即死は無理だから」

「おう、ってか何本持ってんだよ」

「いっぱい。ディエチミーラにややこしい依頼が来たことがあって、夜不安で眠れないからって作ってたら大量に出来ちゃったの。
せっかくだからもらってね、アイテムバックに入れておけば永久保存できるから」

「・・軍隊でも間に合いそうな量だな」

「これはロビンに貰った転移の護符。それからルカさんの武器はクレイモアだから・・はい」

「なんだこりゃ? おー、すげー」

「ダンジョンの宝箱から出てきたんだけど私じゃ使えないから」

「マジか、うん。凄え使いやすい、借りとくな」

「え、だから私はいらないから。後は予備のダガーはある?」

「おお、山盛りな。さて飯食ってちょこっと覗いてみるか」

 その他にも各種ポーションを渡し食堂に向かった。



 全員で食事を終え玄関まで見送りに来たみんなに軽く手を振って、ミリアとルカはヨルムガンドの転移でエリッソンの街の入り口近くへやって来た。

 関所に向かって二人で歩いていた時ふとルカが聞いてきた。

「なあ、その鞄何が入ってんだ?」

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