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新しい地、カリーニン
92.魔導ランプは危険を映す
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小ぶりなソファからはみ出したルカの足にミリアが蹴躓いた。
「いってえ、まだ真っ暗じゃねえか!」
ルカが慌てて手元近くに置いていた魔導ランプをつけると、ルカの足元近くにしゃがみ込み涙目でぶつけた足をさすっているミリアがいた。
「がっ!」
魔導ランプをすかさず消したルカにミリアが抗議した。
「せっかくつけたのに何で消すの? またぶつかっちゃうじゃない」
「・・俺は何も見てねえ。ちっこくて可愛いのが・・いや、見てねえ。不可抗力だし、白くて・・」
薄暗がりの中でルカが一人ぶつぶつ呟いていた。
「ミリア、話は聞くから先に着替えてこい。その・・その角度はヤバい」
しゃがみ込んでいたミリアの寝巻きの胸元が緩く開き、ルカの位置からはっきりと中まで見えていたことにミリアは気づいていなかった。
ルカが着替えを済ませレギーと共に食堂に行くと着替えを済ませたミリア達が揃ってお茶の準備をしていた。
「なんか思いついたのか?」
ミリアに声をかけたが、振り向いたミリアを見た途端ルカは手で顔を押さえ横を向いた。
「ルカさん、耳赤いけどどうしたの?」
不思議に思ったカノンが聞くとルカの耳がますます赤くなり顔や首まで赤く染まっていった。
「いや、なんでもねえ。あーミリア、なんか思いついたんだろ?」
全員の前にお茶とゴーフルを並べながらミリアが返事をした。
「マモンを討伐する方法なんて私には思いつかないけど、気付いたことはあるかも」
全員の目がミリアに集まり固唾を飲んで見つめていた。
「とりあえず座って聞くか」
お茶のカップを手にしたが誰も口にできないまま黙り込んでいる。
「えっと、幾つか確認したいことがあるの。
昨日レギーが言ってたんだけど男爵は買った物を一度も運び出してないのは間違いない?」
「ちょっと前にエリッソンの様子を見にいったんだ」
レギーの言葉にターニャが頷いた。
エリッソンには人が溢れていたが、みな眉間に皺を寄せてギラギラした目で周りを睨んでいるようだった。
レギー達は知り合いはいないかと周りをキョロキョロしながら聞こえてくる声に耳を澄ませていた。
商店街にある酒場の近くを通った時ドスンと音がして腹を立てているような男の声が聞こえてきた。
「みんながっぽり儲けてるってのによお、俺らにゃ何の分け前もおこぼれもねぇ」
「だよなー、なんで仕事を頼んでこねえんだ?」
「あんだけ買いまくってんのに一個も売らねえしどこにも運ばねえ。なら俺らも馬と荷車売った方が早くねえか?」
どうやら男爵が荷運びの仕事を頼むのを待っていたようだが、当てが外れて文句を言っているらしい。
「そうか、ありがとう。あと、エリッソンの街なんだけど男爵が来るより前に何かなかったかな?」
「うーん、俺達こんな事になるまでエリッソンとかあんま興味なかったしなあ」
「あの、大雨で山が崩れました。エリッソンの東の・・伯爵様の屋敷の裏!」
「そうだ。お屋敷には被害がなかったんだけど土砂とかが結構酷かったって。あの後から庭を解放しなくなったんだよな、まだ修復中だとかって」
ルカが眉間に皺を寄せチラッとヴァンを見たがヴァンもヨルムガンドも目を合わせないで窓の方を見ている。
「他にはー、大聖堂の改築工事はもっと前からだしね」
ターニャがレギーを見て二人で頷いている。
「改築?」
「ニ年以上前からやってて未だに続いてるんだ。司教様が変わってあちこち色々やり替えてるとかなんとか。
名前まで変わっちまった」
「えっ、聖クラディウス大聖堂じゃないの? 元の名前は?」
「「聖ラファエル大聖堂」」
他には特に覚えていないとターニャ達が言ったのでミリアは自分の予想を話しはじめた。
「七つの美徳って言うのがあるの」
七つの美徳は七つの大罪と対比しているわけではないが、大罪に出てくる悪魔と対比した天使が幾つか示されている。
傲慢の罪をもつルシファーには忠義の徳をもつミカエル、嫉妬のレヴィアタンには慈愛のガブリエル。
強欲のマモンには節制のラファエルと言われている。
「これには説が色々あるし書物によっても違うから一概には言えないんだけどね。
でも、私の予想が合ってるならもしかしたら大聖堂の改築と崖崩れは関係あるかもしれない」
「話してくれ」
「大聖堂の名前が変わったのは多分ラファエルではなく別の神を祀る事にしたからだと思うの。
ミカエルやガブリエルに比べるとラファエルにささげられた教会や修道院はとても少なくて、新しく来た司教はラファエルをミカエルとかに変更したんじゃないかしら。
そして元伯爵の屋敷の裏山には富の洞窟の入り口があって、崖崩れで封印が解けたとかでマモンは地上に出てくることができるようになった。
マモンは買った物を運び出さなくても富の洞窟を使ってパンデモニウムに運べばいい」
「「・・」」
ミリアからごく身近に悪魔の居城への入り口があると言われたルカ達は驚きと恐怖に絶句していた。
「堕天使には自ら望んで堕天使になった者と堕天使に落とされた者がいるんだけどマモンは前者。神よりも財宝が大事な上、ルシファーに従うために自ら堕天したの」
「だから奴が集めた物は必ずパンデモニウムに送られてるわけか」
「ええ、自身の欲望とルシファーの為に」
ここまでの話を聞いたルカは朝一番のミリアの言葉を思い出して青褪めた。
「ちびすけ、お前さっきエリッソンに行くって叫んでなかったか?」
「いってえ、まだ真っ暗じゃねえか!」
ルカが慌てて手元近くに置いていた魔導ランプをつけると、ルカの足元近くにしゃがみ込み涙目でぶつけた足をさすっているミリアがいた。
「がっ!」
魔導ランプをすかさず消したルカにミリアが抗議した。
「せっかくつけたのに何で消すの? またぶつかっちゃうじゃない」
「・・俺は何も見てねえ。ちっこくて可愛いのが・・いや、見てねえ。不可抗力だし、白くて・・」
薄暗がりの中でルカが一人ぶつぶつ呟いていた。
「ミリア、話は聞くから先に着替えてこい。その・・その角度はヤバい」
しゃがみ込んでいたミリアの寝巻きの胸元が緩く開き、ルカの位置からはっきりと中まで見えていたことにミリアは気づいていなかった。
ルカが着替えを済ませレギーと共に食堂に行くと着替えを済ませたミリア達が揃ってお茶の準備をしていた。
「なんか思いついたのか?」
ミリアに声をかけたが、振り向いたミリアを見た途端ルカは手で顔を押さえ横を向いた。
「ルカさん、耳赤いけどどうしたの?」
不思議に思ったカノンが聞くとルカの耳がますます赤くなり顔や首まで赤く染まっていった。
「いや、なんでもねえ。あーミリア、なんか思いついたんだろ?」
全員の前にお茶とゴーフルを並べながらミリアが返事をした。
「マモンを討伐する方法なんて私には思いつかないけど、気付いたことはあるかも」
全員の目がミリアに集まり固唾を飲んで見つめていた。
「とりあえず座って聞くか」
お茶のカップを手にしたが誰も口にできないまま黙り込んでいる。
「えっと、幾つか確認したいことがあるの。
昨日レギーが言ってたんだけど男爵は買った物を一度も運び出してないのは間違いない?」
「ちょっと前にエリッソンの様子を見にいったんだ」
レギーの言葉にターニャが頷いた。
エリッソンには人が溢れていたが、みな眉間に皺を寄せてギラギラした目で周りを睨んでいるようだった。
レギー達は知り合いはいないかと周りをキョロキョロしながら聞こえてくる声に耳を澄ませていた。
商店街にある酒場の近くを通った時ドスンと音がして腹を立てているような男の声が聞こえてきた。
「みんながっぽり儲けてるってのによお、俺らにゃ何の分け前もおこぼれもねぇ」
「だよなー、なんで仕事を頼んでこねえんだ?」
「あんだけ買いまくってんのに一個も売らねえしどこにも運ばねえ。なら俺らも馬と荷車売った方が早くねえか?」
どうやら男爵が荷運びの仕事を頼むのを待っていたようだが、当てが外れて文句を言っているらしい。
「そうか、ありがとう。あと、エリッソンの街なんだけど男爵が来るより前に何かなかったかな?」
「うーん、俺達こんな事になるまでエリッソンとかあんま興味なかったしなあ」
「あの、大雨で山が崩れました。エリッソンの東の・・伯爵様の屋敷の裏!」
「そうだ。お屋敷には被害がなかったんだけど土砂とかが結構酷かったって。あの後から庭を解放しなくなったんだよな、まだ修復中だとかって」
ルカが眉間に皺を寄せチラッとヴァンを見たがヴァンもヨルムガンドも目を合わせないで窓の方を見ている。
「他にはー、大聖堂の改築工事はもっと前からだしね」
ターニャがレギーを見て二人で頷いている。
「改築?」
「ニ年以上前からやってて未だに続いてるんだ。司教様が変わってあちこち色々やり替えてるとかなんとか。
名前まで変わっちまった」
「えっ、聖クラディウス大聖堂じゃないの? 元の名前は?」
「「聖ラファエル大聖堂」」
他には特に覚えていないとターニャ達が言ったのでミリアは自分の予想を話しはじめた。
「七つの美徳って言うのがあるの」
七つの美徳は七つの大罪と対比しているわけではないが、大罪に出てくる悪魔と対比した天使が幾つか示されている。
傲慢の罪をもつルシファーには忠義の徳をもつミカエル、嫉妬のレヴィアタンには慈愛のガブリエル。
強欲のマモンには節制のラファエルと言われている。
「これには説が色々あるし書物によっても違うから一概には言えないんだけどね。
でも、私の予想が合ってるならもしかしたら大聖堂の改築と崖崩れは関係あるかもしれない」
「話してくれ」
「大聖堂の名前が変わったのは多分ラファエルではなく別の神を祀る事にしたからだと思うの。
ミカエルやガブリエルに比べるとラファエルにささげられた教会や修道院はとても少なくて、新しく来た司教はラファエルをミカエルとかに変更したんじゃないかしら。
そして元伯爵の屋敷の裏山には富の洞窟の入り口があって、崖崩れで封印が解けたとかでマモンは地上に出てくることができるようになった。
マモンは買った物を運び出さなくても富の洞窟を使ってパンデモニウムに運べばいい」
「「・・」」
ミリアからごく身近に悪魔の居城への入り口があると言われたルカ達は驚きと恐怖に絶句していた。
「堕天使には自ら望んで堕天使になった者と堕天使に落とされた者がいるんだけどマモンは前者。神よりも財宝が大事な上、ルシファーに従うために自ら堕天したの」
「だから奴が集めた物は必ずパンデモニウムに送られてるわけか」
「ええ、自身の欲望とルシファーの為に」
ここまでの話を聞いたルカは朝一番のミリアの言葉を思い出して青褪めた。
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