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新しい地、カリーニン
89.カリーニンの冒険者ギルド
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「ひょー、にいちゃん凄え上玉連れてんじゃん。奴隷だろ、エルフだもんな」
慌てて後ろを振り返ると警戒心が薄れていたカノンが帽子を脱いで汗を拭っていた。
ルカの慌てた顔と役人の下卑た顔を見てカノンが青褪めた。
「彼女は奴隷じゃない。冒険者ギルド本部とSランク冒険者の庇護下にある正式なポーターだ。
失礼な態度はやめてもらおう」
ルカがカノンを後ろに庇い、ミリアが一歩前に出た。
「はあ? どこにSランク様がいんだよ。その犬っころがSランクとでもいうのかよ」
馬鹿にしたように笑う役人にミリアが身分証を突きつけた。
「私がそのSランク冒険者。さっさと手続きしてもらえるかしら」
ミリアの周りに冷たい氷混じりの風が吹き荒れた。
「かっ揶揄うなって、そんなちびっ子が・・って本当だ、Sランクだ」
「なら通っていいかしら、それとこの子にほんのちょっとでも何かしたら絶対に許さないから。覚えておいて」
関所からまっすぐ道を進んだが町の中には人が歩いておらず、どの店も閉店したまま。
平屋建ての家は人が住んでいない廃墟のように砂埃で薄汚れて見えた。
「ごめんなさい、カラスを見てたらなんか気持ち悪くなって」
「良いのよ、カノンちゃんは悪くないから気にしないの」
「それにしてもこの町、人がいねえな。さっきの牧場もガラガラだったしよ」
「ここに泊まるよりどこかで野営した方が良いかも」
不安気に周りを見回しながらミリアはカノンの手をしっかりと握りしめた。
「取り敢えずギルドに行ってみるか。なんかわかるかも」
左手に広い道がありその奥にギルドの看板が掲げられていた。
ドアを開くと錆びた蝶番がギーッと嫌な音を立て少し斜めにかしいで止まった。
「なんだこりゃ」
ギルドの中も閑散としており、掃除の行き届いていない床の砂埃がじゃりじゃりと音を立てた。
壁のボードには薄汚れた依頼書が貼られているが受付には誰もいない。
ルカがカウンターを強く叩くと何度目かに二階から声がした。
「誰もいねえよ」
「なら、あんたは誰だ? ここは冒険者ギルドじゃねえのかよ」
ルカの大声ががらんとしたギルド内に響いた。
「うっせえ!」
「女の子の声だわ」
一回目の声は低く籠っていてよく分からなかったが、今の声ははっきりと少女の声だと分かった。
「教えて欲しい事があるんだけど?」
ミリアが声を上げるとカタカタと階段を降りてくる足音が聞こえた。
「アンタ達は誰?」
「俺達はハーミットから来た冒険者ジェルソミーノって言うパーティーだ」
「ジェルソミーノ? 聞いた事ないね」
思った通りのかなり若い女の子は腕を組んでプイッと横を向いた。
「結成したばかりだし、名前だってこの間決まったんだもの。
でも、正式登録してあるから調べたら分かるはず」
「分かんない。父さんも母さんも帰って来ないから」
「ここには一人で?」
「だってここにいないと帰ってきたかどうかわかんないじゃん」
「そうね、正しいと思うわ。ねえ、座って話さない? 喉も渇いたし」
ギルド内には小さな食堂が併設されてあるが、椅子が隅に寄せられたテーブルの上に乗せてあり使われている形跡がない。
「ちょっと待っててくれたら水なら井戸で汲んでくるけど」
「そのままで良いわ」
テーブルを引っ張り出して椅子を四脚準備すると、埃っぽい床が気に入らなかったヴァンが『グルル』と抗議した。
ルカが椅子を二脚準備してこれ見よがしに椅子を拭くと、ヴァンとヨルムガンドが飛び乗って丸くなった。
ミリアがアイテムバックからテキパキとポットやコップを出してお茶の準備をはじめた。
「凄い、どこから出したの?」
少女がキラキラとした目でミリアが今出したお菓子を見ている。
ヴァンの前にはヴァンとディーで二つ、ヨルムガンドの前に一つ置いてから少女の前にお菓子の皿を押し出した。
「よかったら先に食べてて」
チラチラとお菓子とルカを見比べている少女が手を出ぜずにいるとルカが豪快に食べはじめた。
「カノンお前も食えよ」
「うん」
それを見た少女が恐る恐る手を出し一口齧って「甘い」と呟くと一気に口に押し込んだ。
「沢山あるからね。パンとかシチューも食べる?」
口一杯にお菓子を頬張ったままの少女が頷いたので、チーズとソーセージを挟んだパンとシチューを出して前に置いた。
スプーンを持ってシチューを食べかけた少女が突然動きを止めてミリアを凝視した。
「アンタ、エリッソンから来たんだろ?」
「いいえ、あそこはなんだか落ち着かなそうだったから迂回してこっちに来たの」
「嘘だ、あそこに行ってないならこんなもの持ってるはずない」
少女がミリアを睨んだ。
「きっとこれにはおかしなものが混ぜてあるんだ。だから・・」
少女はスプーンを置いて腕を組んだ。唇を噛み締めているようでフルフルと口元が震えている。
「アンタはきっと魔女なんだ」
「確かに、私薬師だから魔女って言われたことあるわ。まずは自己紹介ね」
ミリア達はギルドカードをテーブルに置いて説明をはじめた。
「私達はハーミットから来たの。はじめはエリッソンに行こうと思ってたけど、あまり良くない噂を聞いたからやめてここにくることにしたの」
「アタシはターニャ、父さんがギルマスで母さんも冒険者。
母さんは人を探しにエリッソンに行って帰って来なくなった。で、父さんが探しに行ったんだけど」
「どのくらい経つの?」
「母さんは二ヶ月。父さんは半月くらい」
「もしかして町の人たちもエリッソンに行って帰って来ないの?」
ターニャは首を縦に振ってポロポロと涙を零した。
「エリッソンには何があるの?」
慌てて後ろを振り返ると警戒心が薄れていたカノンが帽子を脱いで汗を拭っていた。
ルカの慌てた顔と役人の下卑た顔を見てカノンが青褪めた。
「彼女は奴隷じゃない。冒険者ギルド本部とSランク冒険者の庇護下にある正式なポーターだ。
失礼な態度はやめてもらおう」
ルカがカノンを後ろに庇い、ミリアが一歩前に出た。
「はあ? どこにSランク様がいんだよ。その犬っころがSランクとでもいうのかよ」
馬鹿にしたように笑う役人にミリアが身分証を突きつけた。
「私がそのSランク冒険者。さっさと手続きしてもらえるかしら」
ミリアの周りに冷たい氷混じりの風が吹き荒れた。
「かっ揶揄うなって、そんなちびっ子が・・って本当だ、Sランクだ」
「なら通っていいかしら、それとこの子にほんのちょっとでも何かしたら絶対に許さないから。覚えておいて」
関所からまっすぐ道を進んだが町の中には人が歩いておらず、どの店も閉店したまま。
平屋建ての家は人が住んでいない廃墟のように砂埃で薄汚れて見えた。
「ごめんなさい、カラスを見てたらなんか気持ち悪くなって」
「良いのよ、カノンちゃんは悪くないから気にしないの」
「それにしてもこの町、人がいねえな。さっきの牧場もガラガラだったしよ」
「ここに泊まるよりどこかで野営した方が良いかも」
不安気に周りを見回しながらミリアはカノンの手をしっかりと握りしめた。
「取り敢えずギルドに行ってみるか。なんかわかるかも」
左手に広い道がありその奥にギルドの看板が掲げられていた。
ドアを開くと錆びた蝶番がギーッと嫌な音を立て少し斜めにかしいで止まった。
「なんだこりゃ」
ギルドの中も閑散としており、掃除の行き届いていない床の砂埃がじゃりじゃりと音を立てた。
壁のボードには薄汚れた依頼書が貼られているが受付には誰もいない。
ルカがカウンターを強く叩くと何度目かに二階から声がした。
「誰もいねえよ」
「なら、あんたは誰だ? ここは冒険者ギルドじゃねえのかよ」
ルカの大声ががらんとしたギルド内に響いた。
「うっせえ!」
「女の子の声だわ」
一回目の声は低く籠っていてよく分からなかったが、今の声ははっきりと少女の声だと分かった。
「教えて欲しい事があるんだけど?」
ミリアが声を上げるとカタカタと階段を降りてくる足音が聞こえた。
「アンタ達は誰?」
「俺達はハーミットから来た冒険者ジェルソミーノって言うパーティーだ」
「ジェルソミーノ? 聞いた事ないね」
思った通りのかなり若い女の子は腕を組んでプイッと横を向いた。
「結成したばかりだし、名前だってこの間決まったんだもの。
でも、正式登録してあるから調べたら分かるはず」
「分かんない。父さんも母さんも帰って来ないから」
「ここには一人で?」
「だってここにいないと帰ってきたかどうかわかんないじゃん」
「そうね、正しいと思うわ。ねえ、座って話さない? 喉も渇いたし」
ギルド内には小さな食堂が併設されてあるが、椅子が隅に寄せられたテーブルの上に乗せてあり使われている形跡がない。
「ちょっと待っててくれたら水なら井戸で汲んでくるけど」
「そのままで良いわ」
テーブルを引っ張り出して椅子を四脚準備すると、埃っぽい床が気に入らなかったヴァンが『グルル』と抗議した。
ルカが椅子を二脚準備してこれ見よがしに椅子を拭くと、ヴァンとヨルムガンドが飛び乗って丸くなった。
ミリアがアイテムバックからテキパキとポットやコップを出してお茶の準備をはじめた。
「凄い、どこから出したの?」
少女がキラキラとした目でミリアが今出したお菓子を見ている。
ヴァンの前にはヴァンとディーで二つ、ヨルムガンドの前に一つ置いてから少女の前にお菓子の皿を押し出した。
「よかったら先に食べてて」
チラチラとお菓子とルカを見比べている少女が手を出ぜずにいるとルカが豪快に食べはじめた。
「カノンお前も食えよ」
「うん」
それを見た少女が恐る恐る手を出し一口齧って「甘い」と呟くと一気に口に押し込んだ。
「沢山あるからね。パンとかシチューも食べる?」
口一杯にお菓子を頬張ったままの少女が頷いたので、チーズとソーセージを挟んだパンとシチューを出して前に置いた。
スプーンを持ってシチューを食べかけた少女が突然動きを止めてミリアを凝視した。
「アンタ、エリッソンから来たんだろ?」
「いいえ、あそこはなんだか落ち着かなそうだったから迂回してこっちに来たの」
「嘘だ、あそこに行ってないならこんなもの持ってるはずない」
少女がミリアを睨んだ。
「きっとこれにはおかしなものが混ぜてあるんだ。だから・・」
少女はスプーンを置いて腕を組んだ。唇を噛み締めているようでフルフルと口元が震えている。
「アンタはきっと魔女なんだ」
「確かに、私薬師だから魔女って言われたことあるわ。まずは自己紹介ね」
ミリア達はギルドカードをテーブルに置いて説明をはじめた。
「私達はハーミットから来たの。はじめはエリッソンに行こうと思ってたけど、あまり良くない噂を聞いたからやめてここにくることにしたの」
「アタシはターニャ、父さんがギルマスで母さんも冒険者。
母さんは人を探しにエリッソンに行って帰って来なくなった。で、父さんが探しに行ったんだけど」
「どのくらい経つの?」
「母さんは二ヶ月。父さんは半月くらい」
「もしかして町の人たちもエリッソンに行って帰って来ないの?」
ターニャは首を縦に振ってポロポロと涙を零した。
「エリッソンには何があるの?」
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