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新しいパーティー

88.この子達には早すぎる

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 街を歩く度に冒険者や街の人に声をかけられるミリアとルカは嬉しい反面複雑な心境になっていた。

(みんな勘違いしてるから)



 先日の冒険者に至っては、

「かかあ天下が夫婦の秘訣」

と言い、否定するミリアとルカが恥ずかしがっているのだろうと温かい目で見てくる始末。


「良い奴らなんだけどよお、居た堪れねえ」



「別の街に移動しますか?」

「今晩は作戦会議だな」




 移動先を決めたミリア達は仕事終わりのソフィアをこっそり捕まえて食事に誘った。


「そう、それは大変だったわね。うちの冒険者達はみんな調子に乗ると止まらなくなるのよね」

 そう言いながらソフィアも笑っている。


「それだけミリアちゃん達やルカがみんなから愛されてるってことだけど、かかあ天下は(まだ早いわよねえ)」


「で、珍しい薬草があるエリッソンに行ってみようかって話になりまして」


「エリッソンねえ」

 さっきまで笑っていたソフィアが顔を少し顰めた。


「エリッソンはなんかあんのか?」

「覚えてない? ここのところ一気に賑わってきてるの。なんでも移り住んだ貴族がすごく裕福で珍しい物何かを・・と言うより何でもかんでも集めてるみたい」

「そういやあ、蒐集家がどうのって冒険者の誰かが言ってたよな」


「ええ、それで何でも持ってけばお金になるって商人や冒険者が集まってるって」


「じゃあ、別のとこにするか。有象無象が集まってるとなると碌な事にはならねえな」


 その貴族がどんなものに興味を示しているのかは分からないが、ハーフエルフのカノンを連れて行くのは危険かもしれない。
 殆どの人間にとってエルフやハーフエルフは希少価値の高い物扱いなのだ。


「だったらエリッソンは避けてその北にあるカリーニンに行こう。
あそこならせいぜい狐や狸が出るくらいで魔物も大したことないしな」

 目を瞑ってぼんやりしていたヴァンの耳がピクリと動いた。


「カリーニンは冒険者ギルドも小さいし商業ギルドはないくらいだものね」



 冒険者達にはソフィアから伝言してもらい出発は明日の朝、十日程度かけてのんびり行く事に決めた。

「今のままだと連絡しにくいから行く前にパーティー名を決めていってね」

「パーティー名かぁ、悩んでるんですよね」


「ディエチミーラはどういう意味なの?」

「ミリアを別の国の言葉にしたって聞きました」

「ウォーカーか・・しかねえよな」



「えっと、ジェルソミーノは?」

 ルカとカノンの顔色を伺いながらミリアが提案した。


「どういう意味?」

 言葉の響きが綺麗だとソフィアとカノンが目を輝かせた。

「みんなの名前から一文字ずつ取ると《ミルリカ》 これはジャスミンの事なんです」

「分かった! ジェルソミーノもジャスミンなのね。すごい素敵」

 カノンが嬉しそうに両手を握りしめた。


「良いんじゃない? よくあるとかそんなのよりずっと良いわ」

「ソフィア、何気に俺を貶すのうめえな」


「もしかしてルカさんのパーティー名? カッコいいです」

「まあな、ミリアやカノンには似合わねえし。ジャスミンなら断るがジェルソミーノならいけるか」


「では、明日朝一番で登録します。Sランクパーティーの薬草採取専門ジェルソミーノね」

「途中は余計だぜ」

 みんなで大爆笑して店の注目を集めた。




 朝日が登りはじめた頃、ミリア達は駅馬車に乗り込みハーミットを出発した。

 新しい街で宿に泊まり街をぶらぶらと散策、野宿の時にはヴァンとミリアが水の掛け合いバトル。

『しつこい、いい加減にせい!』

「だったら大人しくお風呂に入る?」

『兄者、手伝うぞ』

『よせ、来るな』

 ヨルムガンドがミリアの加勢をする気満々で近づいてくる。


 初めは緊張していたカノンも次第に笑みが溢れはじめ、店を覗いては喜び宿のベッドには必ず大ジャンプする。

 道ゆく人や宿の主人、宿泊客がカノンの美しさに呆然となりカノンが恥ずかしそうに微笑むと周り中が静まり返ることもしばしば。


 カノンを真ん中に両サイドにミリアとルカが立つのが定位置で、ディーを背中に乗せたヴァンは気分次第で前や後ろを歩いている。

 ヨルムガンドは来たり帰ったりを繰り返しながら、(本人にとって)楽しい事が起きるのを待っている。




 エリッソンを迂回し二日かけてカリーニンの関所についた。

 カリーニンは町の外にいくつもの牧場があり牛や羊を飼育している。
 放牧地と、魔物から家畜を守るための頑丈な畜舎やサイロをグルリと囲む牧柵はミリアやカノンの背丈くらいの高さだが、下に行くほど丈夫なしつらえになっている。

「この辺りは狐や狸、コボルトなんかの小型の魔物が多いから」

 ルカの説明を聞いて納得したミリア達だった。

 柵の向こう側には庇蔭林ひいんりんや防風林などが作られ、その間を緩やかな流れの川が走っている。


 畜舎やサイロ上にはカラスがとまっており、時折バサバサ・カァカァと音や声で騒いでいる。


「カラスの鳴き声って嫌い」

 カノンが不安そうに上を見上げた。



 牧場と牧場の間の道を歩いた先に町の関所が見えてきた。

 太い木を積み上げて作った塀に囲まれた町は静かで関所の辺りからは人の行き来が見えなかった。
 ルカとミリアが前に立ち関所に近づいて行くと、まだ若い関所役人はだらしなく木の椅子に座ったままルカに対して手を差し出した。


「身分証」

 ルカがギルドカードを手渡すと、

「へー、にいちゃんAランクか。そんな凄え冒険者様が何の用だ?」

「旅の途中でちょっと寄ってみたんだ。二、三日滞在するかもしれない。
いい宿はないかな?」


「やめとけやめとけ、今この町には何もねえぜ。ろくな飯はねえし酒も女も全部エリッソンに行っちまった」

 ミリアの方に手を出しながら話していた役人が、突然立ち上がり目の色を変えた。

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