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新しいパーティー
82.ディエチミーラの旅立ち
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「ワイバーンがって皇帝が言ったの覚えてる?」
「覚えてる。帝国の空に? って吃驚したの」
「ここ最近あちこちから報告が上ってるみたいなんだ。ディエチミーラに調査依頼が来てる」
「受けるの?」
「うん、ミリアの事も落ち着いたしそろそろ活動開始かな?」
「ワイバーンが相手じゃやっぱりカノンちゃんは連れてけないわね」
「ワイバーンの後ろには上位のドラゴンが隠れてる可能性が高いし」
「明日の朝二人に話してみよう。ディエチミーラに直ぐ参加しなきゃいけない訳でもないからリンドとカノンちゃんに決めてもらったらどうかな?」
「うん、そうするつもり。先にミリアに聞いておきたくて」
宿屋の食堂脇にある個室で朝食を取った。朝が弱いと言うアレンは椅子に座ったままぼーっとしているが、ウォーカーは気にせず話をはじめた。
「ワイバーンの調査ですか?」
ワイバーンはドラゴンの頭・コウモリの翼・ワシの脚・ヘビの尾を持ち、尾の先端にある棘の毒と口から吐く炎で攻撃する。
ドラゴン特有の鋭い眼力で遠くの獲物を目視し襲いかかる。
「ワイバーンの生息地は荒野の沼地だったと思うんですが」
「うん、情報を整理してある程度生息地が絞られたら討伐に向かう。
その時はかなり強行軍になると思うよ」
リンドは俯いて黙り込んでしまった。
「・・にいちゃん、行って来れば? ううん、ウォーカーさん、にいちゃんを連れ行ってもらえませんか?」
リンドより先にカノンが返事をした。
「カノン、危険すぎるよ」
「それはリンド自身の事? カノンの事?」
リンドは答えに詰まった。自分の為だと言えば強くなるチャンスを逃してしまうが、カノンの前でお前の為だとは言いたくなかった。
「私、暫くは薬草採取をしようと思ってるの。だからディエチミーラとは別行動になる」
リンドが顔を上げミリアを凝視した。
「だったら私はミリアちゃんと一緒にいてもいい?」
「カノンちゃんが良ければ私は嬉しいわ。ずっと気を張ってたから少なくなってる薬草をポチポチ集めようかなって。
ヴァンとディーも一緒だし」
ミリアとカノンが顔を見合わせてにっこり笑った。
「カノンの事本当に良いんですか?」
「私が八歳の頃よりカノンちゃんはしっかりしてるし、ヴァン達がいれば何も起きないでしょう?」
「ありがとうございます。ディエチミーラに参加させて下さい」
リンドが目を潤ませて頭を下げた。
「僕としてもリンドに強くなってもらうのは助かるんだ。ミリアはリンドとパーティーを組むって言ってるから、兄としてはパーティーメンバーが強ければ強いほど安心できる」
「はい、頑張ります」
ディエチミーラとリンドは荷物を準備し、昼前に旅立って行った。
(兄さんもロビンも過保護なんだから)
出発前にウォーカーからはカノン専用のアイテムバックとミリアとウォーカーに繋がる通信の魔道具を、ロビンからは大量の護符を渡された。
カノンは大きな弓を持ち歩かずにすみ、いざと言うときにはミリアやウォーカーに連絡が取れる。
ミリアは強力な魔物に遭遇した時に使う攻撃用の魔法陣の描かれた護符と転送陣の描かれた護符などを貰った。
アレンは何かあれば精霊同士連絡が取れるからと言い、グレイソンはバフとデバフの魔法の練習方法を書き出した資料をくれた。
リンドは出発前にカノンを抱きしめて注意事項をしつこく連呼していた。
・絶対一人にならない
・ミリアの指示に従う
・好き嫌いしない 等々
カノンに「にいちゃん、しつこい」と、笑われていたが。
ミリアとカノンはヴァンとディーと共にあちこちの草原や森に行き、薬草を採取しては宿で薬を作る長閑な日々を過ごしていた。
冒険者ギルドでは今日も依頼を探す冒険者と、手続きや受付に走り回る職員の姿があった。
ソフィアが二階に上ってきた。
「ギルマス、今朝お願いした書類ですが」
「おう、出来てるぞ。持ってけ」
執務机に座りペンを走らせながらギルマスが答えた。
「・・ギルマス、なんか拾い食いでもしました?」
「はあ? 仕事してるだけだぞ」
ソフィアが机の端に置いてあった書類を取り上げ内容を確認しながら話しかけた。
「ディエチミーラですが帝国から帰った翌日出発しました。何でも指定依頼の仕事だそうです」
「ふうん、そうか」
ギルマスの手は止まらない。
「ミリアちゃんとカノンちゃんは薬草採取してるようです」
「ふうん、そ・・はあ? 何だそれは」
漸くペンが止まりギルマスが顔を上げた。
「冒険者が受付の近くで話してました。関所横の駅馬車乗り場の近くで二人を見かけて声をかけたら薬草を採取に行くって言ったそうです」
「何の依頼を受けたんだ?」
「Sランクに薬草採取の依頼? 出せるわけないです」
「どこで何をし「わかりません」」
ギルマスが引き出しから甘いおやつを出して食べはじめた。
(目の前で食べるの初めて見たわ、よっぽど動揺してるみたい)
「心配だったんで宿に行って聞いてみましたが、帰って来たり来なかったりで。どこに行ったかも知らないそうです」
「・・いたのは二人だけか? 犬ころは? 一緒にいたよな」
ギルマスの目が据わってきた。
「聞いたのは二人だけだったと」
「ありえねえ。ウォーカーが犬コロなしでちびすけを放置する訳がねえ」
ギルマスの手の中のコンフェッティがぐしゃりと砕けた。
「報告はしましたから、では私はこれで」
ソフィアはそのまま一階に降り仕事に戻った。
夕方近くになりギルド内に冒険者が戻ってきはじめた。
依頼の完了報告や素材の買取・冒険者同士の待ち合わせなどの元気な声が飛び交い、笑い声や動き回る時の武器や防具のガチャガチャと言う音が響く中二階からギルマスが駆け降りてきた。
「てめえら、誰かちびすけ見なかったか?」
「覚えてる。帝国の空に? って吃驚したの」
「ここ最近あちこちから報告が上ってるみたいなんだ。ディエチミーラに調査依頼が来てる」
「受けるの?」
「うん、ミリアの事も落ち着いたしそろそろ活動開始かな?」
「ワイバーンが相手じゃやっぱりカノンちゃんは連れてけないわね」
「ワイバーンの後ろには上位のドラゴンが隠れてる可能性が高いし」
「明日の朝二人に話してみよう。ディエチミーラに直ぐ参加しなきゃいけない訳でもないからリンドとカノンちゃんに決めてもらったらどうかな?」
「うん、そうするつもり。先にミリアに聞いておきたくて」
宿屋の食堂脇にある個室で朝食を取った。朝が弱いと言うアレンは椅子に座ったままぼーっとしているが、ウォーカーは気にせず話をはじめた。
「ワイバーンの調査ですか?」
ワイバーンはドラゴンの頭・コウモリの翼・ワシの脚・ヘビの尾を持ち、尾の先端にある棘の毒と口から吐く炎で攻撃する。
ドラゴン特有の鋭い眼力で遠くの獲物を目視し襲いかかる。
「ワイバーンの生息地は荒野の沼地だったと思うんですが」
「うん、情報を整理してある程度生息地が絞られたら討伐に向かう。
その時はかなり強行軍になると思うよ」
リンドは俯いて黙り込んでしまった。
「・・にいちゃん、行って来れば? ううん、ウォーカーさん、にいちゃんを連れ行ってもらえませんか?」
リンドより先にカノンが返事をした。
「カノン、危険すぎるよ」
「それはリンド自身の事? カノンの事?」
リンドは答えに詰まった。自分の為だと言えば強くなるチャンスを逃してしまうが、カノンの前でお前の為だとは言いたくなかった。
「私、暫くは薬草採取をしようと思ってるの。だからディエチミーラとは別行動になる」
リンドが顔を上げミリアを凝視した。
「だったら私はミリアちゃんと一緒にいてもいい?」
「カノンちゃんが良ければ私は嬉しいわ。ずっと気を張ってたから少なくなってる薬草をポチポチ集めようかなって。
ヴァンとディーも一緒だし」
ミリアとカノンが顔を見合わせてにっこり笑った。
「カノンの事本当に良いんですか?」
「私が八歳の頃よりカノンちゃんはしっかりしてるし、ヴァン達がいれば何も起きないでしょう?」
「ありがとうございます。ディエチミーラに参加させて下さい」
リンドが目を潤ませて頭を下げた。
「僕としてもリンドに強くなってもらうのは助かるんだ。ミリアはリンドとパーティーを組むって言ってるから、兄としてはパーティーメンバーが強ければ強いほど安心できる」
「はい、頑張ります」
ディエチミーラとリンドは荷物を準備し、昼前に旅立って行った。
(兄さんもロビンも過保護なんだから)
出発前にウォーカーからはカノン専用のアイテムバックとミリアとウォーカーに繋がる通信の魔道具を、ロビンからは大量の護符を渡された。
カノンは大きな弓を持ち歩かずにすみ、いざと言うときにはミリアやウォーカーに連絡が取れる。
ミリアは強力な魔物に遭遇した時に使う攻撃用の魔法陣の描かれた護符と転送陣の描かれた護符などを貰った。
アレンは何かあれば精霊同士連絡が取れるからと言い、グレイソンはバフとデバフの魔法の練習方法を書き出した資料をくれた。
リンドは出発前にカノンを抱きしめて注意事項をしつこく連呼していた。
・絶対一人にならない
・ミリアの指示に従う
・好き嫌いしない 等々
カノンに「にいちゃん、しつこい」と、笑われていたが。
ミリアとカノンはヴァンとディーと共にあちこちの草原や森に行き、薬草を採取しては宿で薬を作る長閑な日々を過ごしていた。
冒険者ギルドでは今日も依頼を探す冒険者と、手続きや受付に走り回る職員の姿があった。
ソフィアが二階に上ってきた。
「ギルマス、今朝お願いした書類ですが」
「おう、出来てるぞ。持ってけ」
執務机に座りペンを走らせながらギルマスが答えた。
「・・ギルマス、なんか拾い食いでもしました?」
「はあ? 仕事してるだけだぞ」
ソフィアが机の端に置いてあった書類を取り上げ内容を確認しながら話しかけた。
「ディエチミーラですが帝国から帰った翌日出発しました。何でも指定依頼の仕事だそうです」
「ふうん、そうか」
ギルマスの手は止まらない。
「ミリアちゃんとカノンちゃんは薬草採取してるようです」
「ふうん、そ・・はあ? 何だそれは」
漸くペンが止まりギルマスが顔を上げた。
「冒険者が受付の近くで話してました。関所横の駅馬車乗り場の近くで二人を見かけて声をかけたら薬草を採取に行くって言ったそうです」
「何の依頼を受けたんだ?」
「Sランクに薬草採取の依頼? 出せるわけないです」
「どこで何をし「わかりません」」
ギルマスが引き出しから甘いおやつを出して食べはじめた。
(目の前で食べるの初めて見たわ、よっぽど動揺してるみたい)
「心配だったんで宿に行って聞いてみましたが、帰って来たり来なかったりで。どこに行ったかも知らないそうです」
「・・いたのは二人だけか? 犬ころは? 一緒にいたよな」
ギルマスの目が据わってきた。
「聞いたのは二人だけだったと」
「ありえねえ。ウォーカーが犬コロなしでちびすけを放置する訳がねえ」
ギルマスの手の中のコンフェッティがぐしゃりと砕けた。
「報告はしましたから、では私はこれで」
ソフィアはそのまま一階に降り仕事に戻った。
夕方近くになりギルド内に冒険者が戻ってきはじめた。
依頼の完了報告や素材の買取・冒険者同士の待ち合わせなどの元気な声が飛び交い、笑い声や動き回る時の武器や防具のガチャガチャと言う音が響く中二階からギルマスが駆け降りてきた。
「てめえら、誰かちびすけ見なかったか?」
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