上 下
84 / 149
新しいパーティー

82.ディエチミーラの旅立ち

しおりを挟む
「ワイバーンがって皇帝が言ったの覚えてる?」

「覚えてる。帝国の空に? って吃驚したの」


「ここ最近あちこちから報告が上ってるみたいなんだ。ディエチミーラに調査依頼が来てる」

「受けるの?」

「うん、ミリアの事も落ち着いたしそろそろ活動開始かな?」

「ワイバーンが相手じゃやっぱりカノンちゃんは連れてけないわね」

「ワイバーンの後ろには上位のドラゴンが隠れてる可能性が高いし」


「明日の朝二人に話してみよう。ディエチミーラに直ぐ参加しなきゃいけない訳でもないからリンドとカノンちゃんに決めてもらったらどうかな?」

「うん、そうするつもり。先にミリアに聞いておきたくて」





 宿屋の食堂脇にある個室で朝食を取った。朝が弱いと言うアレンは椅子に座ったままぼーっとしているが、ウォーカーは気にせず話をはじめた。


「ワイバーンの調査ですか?」


 ワイバーンはドラゴンの頭・コウモリの翼・ワシの脚・ヘビの尾を持ち、尾の先端にある棘の毒と口から吐く炎で攻撃する。

 ドラゴン特有の鋭い眼力で遠くの獲物を目視し襲いかかる。



「ワイバーンの生息地は荒野の沼地だったと思うんですが」

「うん、情報を整理してある程度生息地が絞られたら討伐に向かう。
その時はかなり強行軍になると思うよ」


 リンドは俯いて黙り込んでしまった。


「・・にいちゃん、行って来れば? ううん、ウォーカーさん、にいちゃんを連れ行ってもらえませんか?」

 リンドより先にカノンが返事をした。


「カノン、危険すぎるよ」

「それはリンド自身の事? カノンの事?」


 リンドは答えに詰まった。自分の為だと言えば強くなるチャンスを逃してしまうが、カノンの前でお前の為だとは言いたくなかった。


「私、暫くは薬草採取をしようと思ってるの。だからディエチミーラとは別行動になる」

 リンドが顔を上げミリアを凝視した。


「だったら私はミリアちゃんと一緒にいてもいい?」

「カノンちゃんが良ければ私は嬉しいわ。ずっと気を張ってたから少なくなってる薬草をポチポチ集めようかなって。
ヴァンとディーも一緒だし」


 ミリアとカノンが顔を見合わせてにっこり笑った。


「カノンの事本当に良いんですか?」

「私が八歳の頃よりカノンちゃんはしっかりしてるし、ヴァン達がいれば何も起きないでしょう?」


「ありがとうございます。ディエチミーラに参加させて下さい」

 リンドが目を潤ませて頭を下げた。



「僕としてもリンドに強くなってもらうのは助かるんだ。ミリアはリンドとパーティーを組むって言ってるから、兄としてはパーティーメンバーが強ければ強いほど安心できる」

「はい、頑張ります」




 ディエチミーラとリンドは荷物を準備し、昼前に旅立って行った。

(兄さんもロビンも過保護なんだから)


 出発前にウォーカーからはカノン専用のアイテムバックとミリアとウォーカーに繋がる通信の魔道具を、ロビンからは大量の護符を渡された。


 カノンは大きな弓を持ち歩かずにすみ、いざと言うときにはミリアやウォーカーに連絡が取れる。
 ミリアは強力な魔物に遭遇した時に使う攻撃用の魔法陣の描かれた護符と転送陣の描かれた護符などを貰った。


 アレンは何かあれば精霊同士連絡が取れるからと言い、グレイソンはバフとデバフの魔法の練習方法を書き出した資料をくれた。


 リンドは出発前にカノンを抱きしめて注意事項をしつこく連呼していた。

 ・絶対一人にならない
 ・ミリアの指示に従う
 ・好き嫌いしない    等々


 カノンに「にいちゃん、しつこい」と、笑われていたが。



 ミリアとカノンはヴァンとディーと共にあちこちの草原や森に行き、薬草を採取しては宿で薬を作る長閑な日々を過ごしていた。




 冒険者ギルドでは今日も依頼を探す冒険者と、手続きや受付に走り回る職員の姿があった。


 ソフィアが二階に上ってきた。

「ギルマス、今朝お願いした書類ですが」

「おう、出来てるぞ。持ってけ」

 執務机に座りペンを走らせながらギルマスが答えた。


「・・ギルマス、なんか拾い食いでもしました?」

「はあ? 仕事してるだけだぞ」


 ソフィアが机の端に置いてあった書類を取り上げ内容を確認しながら話しかけた。

「ディエチミーラですが帝国から帰った翌日出発しました。何でも指定依頼の仕事だそうです」

「ふうん、そうか」

 ギルマスの手は止まらない。


「ミリアちゃんとカノンちゃんは薬草採取してるようです」

「ふうん、そ・・はあ? 何だそれは」


 漸くペンが止まりギルマスが顔を上げた。


「冒険者が受付の近くで話してました。関所横の駅馬車乗り場の近くで二人を見かけて声をかけたら薬草を採取に行くって言ったそうです」

「何の依頼を受けたんだ?」


「Sランクに薬草採取の依頼? 出せるわけないです」

「どこで何をし「わかりません」」


 ギルマスが引き出しから甘いおやつを出して食べはじめた。

(目の前で食べるの初めて見たわ、よっぽど動揺してるみたい)


「心配だったんで宿に行って聞いてみましたが、帰って来たり来なかったりで。どこに行ったかも知らないそうです」


「・・いたのは二人だけか? 犬ころは? 一緒にいたよな」

 ギルマスの目が据わってきた。

「聞いたのは二人だけだったと」


「ありえねえ。ウォーカーが犬コロなしでちびすけを放置する訳がねえ」

 ギルマスの手の中のコンフェッティがぐしゃりと砕けた。


「報告はしましたから、では私はこれで」

 ソフィアはそのまま一階に降り仕事に戻った。



 夕方近くになりギルド内に冒険者が戻ってきはじめた。
 依頼の完了報告や素材の買取・冒険者同士の待ち合わせなどの元気な声が飛び交い、笑い声や動き回る時の武器や防具のガチャガチャと言う音が響く中二階からギルマスが駆け降りてきた。


「てめえら、誰かちびすけ見なかったか?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで

一本橋
恋愛
 ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。  その犯人は俺だったらしい。  見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。  罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。  噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。  その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。  慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──

捨てられ聖女の私が本当の幸せに気付くまで

海空里和
恋愛
ラヴァル王国、王太子に婚約破棄されたアデリーナ。 さらに、大聖女として国のために瘴気を浄化してきたのに、見えない功績から偽りだと言われ、国外追放になる。 従者のオーウェンと一緒に隣国、オルレアンを目指すことになったアデリーナ。しかし途中でラヴァルの騎士に追われる妊婦・ミアと出会う。 目の前の困っている人を放っておけないアデリーナは、ミアを連れて隣国へ逃げる。 そのまた途中でフェンリルの呼びかけにより、負傷したイケメン騎士を拾う。その騎士はなんと、隣国オルレアンの皇弟、エクトルで!? 素性を隠そうとオーウェンはミアの夫、アデリーナはオーウェンの愛人、とおかしな状況に。 しかし聖女を求めるオルレアン皇帝の命令でアデリーナはエクトルと契約結婚をすることに。 未来を諦めていたエクトルは、アデリーナに助けられ、彼女との未来を望むようになる。幼い頃からアデリーナの側にいたオーウェンは、それが面白くないようで。 アデリーナの本当に大切なものは何なのか。 捨てられ聖女×拗らせ従者×訳アリ皇弟のトライアングルラブ! ※こちら性描写はございませんが、きわどい表現がございます。ご了承の上お読みくださいませ。

婚約破棄、爵位剥奪、国外追放されましたのでちょっと仕返しします

あおい
恋愛
婚約破棄からの爵位剥奪に国外追放! 初代当主は本物の天使! 天使の加護を受けてる私のおかげでこの国は安泰だったのに、その私と一族を追い出すとは何事ですか!? 身に覚えのない理由で婚約破棄に爵位剥奪に国外追放してきた第2王子に天使の加護でちょっと仕返しをしましょう!

無実の罪で聖女を追放した、王太子と国民のその後

柚木ゆず
恋愛
 ※6月30日本編完結いたしました。7月1日より番外編を投稿させていただきます。  聖女の祈りによって1000年以上豊作が続き、豊穣の国と呼ばれているザネラスエアル。そんなザネラスエアルは突如不作に襲われ、王太子グスターヴや国民たちは現聖女ビアンカが祈りを怠けたせいだと憤慨します。  ビアンカは否定したものの訴えが聞き入れられることはなく、聖女の資格剥奪と国外への追放が決定。彼女はまるで見世物のように大勢の前で連行され、国民から沢山の暴言と石をぶつけられながら、隣国に追放されてしまいました。  そうしてその後ザネラスエアルでは新たな聖女が誕生し、グスターヴや国民たちは『これで豊作が戻ってくる!』と喜んでいました。  ですが、これからやって来るのはそういったものではなく――

呪いをかけられ婚約破棄をされた伯爵令嬢は仕事に生きます!なのに運命がグイグイ来る。

音無野ウサギ
恋愛
社交界デビューの園遊会から妖精に攫われ姿を消した伯爵令嬢リリー。 婚約者をわがままな妹に奪われ、伯爵家から追い出されるはずが妖精にかけられた呪いを利用して王宮で仕事をすることに。 真面目なリリーは仕事にやる気を燃やすのだが、名前も知らない男性に『運命』だと抱きつかれる。 リリーを運命だといいはる男のことをリリーは頭のおかしい「お気の毒な方」だと思っているのだがどうやら彼にも秘密があるようで…… この作品は小説家になろうでも掲載しています。

あなたの剣になりたい

四季
恋愛
——思えば、それがすべての始まりだった。 親や使用人らと退屈ながら穏やかな日々を送っていた令嬢、エアリ・フィールド。 彼女はある夜、買い物を終え村へ帰る途中の森で、気を失っている見知らぬ少年リゴールと出会う。 だが、その時エアリはまだ知らない。 彼との邂逅が、己の人生に大きな変化をもたらすということを——。 美しかったホワイトスター。 憎しみに満ちるブラックスター。 そして、穏やかで平凡な地上界。 近くて遠い三つの世界。これは、そこに生きる人々の物語。 著作者:四季 無断転載は固く禁じます。 ※2019.2.10~2019.9.22 に執筆したものです。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

処理中です...