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アスカリオル帝国へ

79.追いかけっこに勝ったのは

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 ツヴァイハンダーは事を目的に作られた長さも重量も最大級の刀剣。
 破壊力も絶大だが、大きさと重量の為に卓越した技術力と絶大な筋力が必要になる。

 ツヴァイハンダーの最大の特徴は刀身の根元にあるリカッソと呼ばれる刃の無い部分。
 リカッソは革紐を括り付けたり攻撃のバリエーションを増やすために使われた。
 リカッソを活用することで刺突しやすくなり、振り回したときにも威力を上げることが出来る。

 素早い連続した斬撃は不可能だが、思い切り脳天めがけて振り下ろすことで最大のダメージを与える攻撃ができる。



「おっさんが武器を振り回すのが怖えのなんのって。突然「退け退けぇ、おりゃあー」とかって叫ぶんだぜ」

「ああ、敵と一緒に自分も真っ二つになるかと思ってヒヤヒヤしたよな」

 ギルマスとセオドラが虚な遠い目をして再び溜息をついた。


「しょうがねえだろ? ツヴァイハンダーは敵陣切り込んで一撃必殺ってのが面白いんだからな」


 ふふっと悪どい顔で笑う皇帝だが、ミリアがあっさりとぶった斬った。

「皇帝陛下とは一緒のパーティー組むのは無理だと思います」


 衝撃を受けて立ち上がった皇帝と喜びと安堵で微笑む面々。

「皇帝が仰るような大きな案件は受けるつもりがないんです。
リンドがやりたいと思った時はディエチミーラと行動して貰えたらと」

「だっだったらミリアはその時どうするんだ? 折角Sランクになったってのに」

 皇帝が食い下がる。

「私はなんでカノンちゃんと一緒に薬草採取したいと思ってます」

「S・・ランクが薬草採取」


「「「ミリア」」ちゃん」


「だからギルマスにも無理して冒険者に戻れなんて言うつもりはないんです。
勿論一緒のパーティー組めたら・・その・・嬉しいなとは思ってますけど」


 しんと静まりかえった部屋の中。赤くなったミリアを、同じように赤くなったギルマスが凝視していた。



「ルカ、てめー! なにいいとこ取りしてやがんだー」

 皇帝がギルマスに飛びかかり、ギルマスが飛び上がって逃げ出した。部屋中の装飾品や家具を薙ぎ倒しながら追いかけっこを続ける二人を生暖かい目で見ていたセオドラが呟く。


「相変わらずルカはラシッドのスイッチを押すのが上手いよ。
その所為でぐるぐる巻きにされてドラゴンの巣穴に放り込まれたし。
睡眠薬飲まされて発情期の猫の匂いを擦り付けた上でアルラウネの前に放置されたし。
崖から吊るされてグリフォンの巣に卵を取りに行かされたこともあったな。
お陰でほら、逃げ足早いだろ? 捕まったら終わりだって知ってるから」


「結界が張れるようになったのってさ、皇帝のせいかも」

 アレンの推測。


「目がいいのもそのせいかもしれませんね。攻撃をギリギリでかわしています」

 グレイソンの冷静な評価。


「背が高いくせに異常に身軽だったんだよな。理由がわかった気がする」

 ロビンの疑問解消。


「やめてくれ。奴になんかしたら皇帝と同じレベルにされてしまいそうだから、何もできなくなるじゃないか」

 他とはちょっと違うウォーカーの論評。



 疲れ果てた皇帝が戻ってきてミリアの隣にドサっと座った。

「やっぱり運動不足だな、ルカを捕まえられんとは情けない。
塔のてっぺんに括り付けてやろうと思ったのに」


「塔の上には何が?」

 セオドラが恐る恐る聞くと皇帝は嬉しそうに、

「こないだワイバーンが来たんだよ、あの肉は美味いから今度来たら絶対に捕まえたくてよお」


「このくそジジイ、俺は餌じゃねえ」

 汗だらけになり片袖が取れ背中の部分が破れたジュストコール姿で脱げた片方の靴を握りしめたギルマス。


 哀れなその姿にギルマスの普段の言動に眉を顰めていた者でさえ同情を隠しきれなくなっていた。


(普段のアレはトラウマか?)


 全員の目には、ギルマスの姿が棘を目一杯逆立てたハリネズミに見えていた。




 手に持っていた靴を履きジュストコールを脱いだギルマスが横目で皇帝を睨みながらソファに座った。


「ミリアはSランクになったばかりですし、何より冤罪が晴れて漸く自由になったところですから暫くはゆっくりさせてやりたいと思っています」

 ウォーカーが優しい表情でミリアを見つめながら話した。


「そうだね、ウォーカーもミリアも暫くは一緒に過ごしたいだろ?」

 ロビンの言葉にミリアとウォーカーが頷いた。


「つまらんのう、まあそれも仕方ないか。俺は何時でも駆けつけるから考えといてくれよ」

 粘り続ける皇帝の言葉は全員にスルーされた。



「では我々はこの辺でお暇しなくては。本部の仕事が溜まっていますし、みんなも帰ってゆっくりしたい事でしょう」


 セオドラの言葉に皇帝はひどく残念そうにしていたが、

「ミリア、近い内にそこのペットやら精霊やら連れて遊びに来てくれよ。
お前のペットの正体をまだ教えてもらっとらんしな。
それに授爵させてまでミリアを手に入れた理由を聞いておらん。記録には妙に色んな機材が映っておった」

「・・」




 皇帝の質問を無視してミリアは立ち上がった。

「ありがとうございました。それから、彼等はペットじゃなくて友達ですから」



 セオドラとテスタロッサはギルド本部へ帰り、残りのメンバーはヴァンの転移でハーミットのギルドへ戻っていった。



 一人残った皇帝は私室のバルコニーから空を見上げ呟いた。

「さて、ヤツはこの後どう動く?
それによってはミリアは呑気に薬草採取なんかしてはおられんだろうな。
まあ、ルカがあんだけ動けりゃ大丈夫か。

しかしアレだな、薬師を護るのがとか出来すぎだろ?」




 見えない敵を探すかのように、目を細めた皇帝は遠くの空を見つめていた。

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