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アスカリオル帝国へ

74.王宮前広場にて

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「へっ、何?」

「通信具! 鳴り続けてます」


「おっおう」

 慌てて通信を繋げるとギルド本部からの連絡だった。



「さて、気合が入ったとこで行くか?」

 セオドラの声掛けに全員が頷いた。



「問題は、こんだけ大勢をどうやって転移させるかだよなー。出来ればバーンと派手に登場してえんだよなー」

 ギルマスがチラチラとヴァンを見ながらニヤけた顔で笑うと、ヴァンが『グルル』と唸り声を上げた。


『小賢しい奴め! 皆我の近くへ参れ』

 部屋の真ん中にヴァンが移動してその周りに全員が集まった。

 後に残る予定のソフィアは部屋の隅まで下がった。


「気をつけてね、行ってらっしゃい」



 手を繋いだミリアとカノンがソフィアに手を振り、アスカリオル帝国の王宮前広場へと転移して行った。




 表面を平らにした敷石が幾何学模様を描く王宮前広場の周りにはサーコートを着込んだ帝国騎士達が隊列を組んでいた。

 ミリア達を王宮まで乗せるための馬車が数台待機している。


 その近くには護衛を引き連れた貴族達の姿も見え、広場の様子を固唾を飲んで見守っている。


 広場の北側には王宮へ向かう道がまっすぐに伸びており、夏の日差しを受け輝く堀に囲まれたバロック様式の壮大な姿を現していた。

 道の両側には芝生に囲まれた庭園が広がり、色鮮やかな花や噴水の周りに遊歩道やベンチが設置されている。

 庭園の奥にはナラなどの樹木が植えられており、生い茂った葉が涼やかな木陰を作っている。


 正面に見えるのは千以上の客室を誇る新王宮で、敷地内には旧王宮・オペラ劇場・植物園・メナジェリー小動物園・礼拝堂などが立ち並ぶと言う。





「なんと、ここで会えるとは!」

 大勢の注目を一身に集めたルーバン王太子が王宮を背に大勢の護衛を従えて仁王立ちしていた。
 その横には側妃のエスメラルダとイライザ、その後ろにはモルガリウス宰相の姿もあった。


 ルーバン王太子は宝石と刺繍で飾り立てたアビ・ア・ラ・フランセーズに先の尖った靴。
 エスメラルダとイライザはコルセットでウエストをきつく絞り、パニエで大きく膨らませたローブ・ア・ラ・フランセーズ。

 イライザはブルーの濃淡でコーディネートして金糸の刺繍とサファイアの宝石で飾り立てている。



「げっ、イライザもいるじゃん。俺さあ、帰っていい?」

「駄目、しかしまあお前の色でゴテゴテだな」

 ロビンがアレンの蒼眼とプラチナブロンドを見て薄ら笑いを浮かべた。



「あのコルセットとパニエは時代遅れでみっともないですね。宝石の使い方も下品ですし、先の尖った靴に関しては下劣の極みです」

 テスタロッサが冷たく批評した。



 ミリアとリンド、カノンの三人を中心にした面々はルーバン王太子と向かいあった。


「久しぶりだね、ミリア・フォルス伯爵。ここで会えるとは思っていなかったが、今日は良い日になりそうだ」

「お久しぶりでございます」


「ん? 貴族の嗜みをもう忘れてしまったのかな?」

 カーテシーをしないミリアにルーバン王太子がわざとらしく首を傾げた。


「私は褫爵され既に平民に戻っておりますゆえ」

「その割には随分と派手に着飾っているのではなくて? 貴族に戻りたいと言う事なのでしょう?」

「エスメラルダ様にお言葉を返すようでございますが、褫爵・婚約破棄された事に関しては感謝しております」



「アレン、探しておりましたのよ・・あら、そこにいるのはエルフ? なんて美しいのかしら。
プラチナブロンドと蒼眼・・どうしましょう、わたくしのコレクションがまた増えてしまうわ」

 両手を添えた頬がほんのりと赤く染まり、アレンとリンドを恥ずかしそうに見比べるイライザはとても可愛らしく見えたが。


「獲物を狙う目が怖いですね。リッチに対峙した時を思い出しました」

 鳥肌を立てたグレイソンが怖気を震ってスタッフを強く握りしめた。


「リンド、次はお前の番らしいぞ? あの女の趣味は拉致監禁だ」

 ロビンの説明にリンドが青褪めた。




「ローデリア王国ルーバン王太子殿下と側妃エスメラルダ様、イライザ王女殿下とお見受けいたします。
私は冒険者ギルド本部長のセオドラ・ミルタウンと申します」

「ここまでミリアを連れて来てくれた事に礼を言う。いずれ改めて褒美を取らせるのでここは控えてもらいたい」


「お言葉を返すようですが、それには承服致しかねます。ミリア嬢は我らと共にアスカリオル帝国ラシッド・エルミスト皇帝へ拝謁を致す予定となっております」


「控えよ! たかがギルド職員がローデリア王国の摂政を務めるルーバン王太子に楯突く気か! この場で無礼打ちにしてくれる」

 エスメラルダが扇子をセオドラに向けると、居並んだ護衛達が抜刀しセオドラ達を取り囲んだ。


「どうぞ、ご自由に為されると宜しいかと。皇帝に謁見のお約束が叶わなかった責はエスメラルダ様に」


「たかが平民一人斬り殺したとて、妾に咎めがあるはずがなかろう」

 ふふんと嘲笑うエスメラルダだが、後ろからモルガリウス宰相が慌てて声をかけた。

「なりません、エスメラルダ様! ギルド本部長に手をかけたとなればタダでは済みません。それに彼奴は平民ではございません、おやめくだされ」


「モルガリウス、臆したか? まあ良い、無礼者の処置は貴様に任そうではないか。
私はミリアを連れて国へ帰らねばならんのでな。
ミリアよ、そろそろお遊びは終わりにしてローデリアへ帰るとしようか。仕事が溜まっているようだぞ」

 ミリアが断るとは思いもしないルーバン王太子が馬車の準備を従者に言いつけた。


「これより私は皇帝陛下に謁見いたしますので、王太子殿下の意に沿うことは出来かねます」


「冒険者の真似事をほんの少ししただけで随分と生意気になりおって・・まあ良いであろう。もう少し其方のお遊びに付き合ってやるのは私の慈悲と心しておくのだな。
王宮まで私の馬車に乗って行くと良い」


 冷酷な目をしたルーバン王太子がミリアに向けて手を伸ばした。

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