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70.一人いる・・けどなあ

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「焚き火?」

 カノンが首を傾げながら答えた。


「違うよ、これはって言うんだ。
火の神の言葉を聞いて、友情の火の誓いを立てる神聖な儀式なんだから」

「なら、どっか他所でやれや」

 どっと疲れの出たギルマスは大きな溜息をついた。


「折角みんなが集まってるのに」

「もーいいから寝ろ。それともミスラに迎えに来てもらうか?」

 アータル達がパタパタと寝床に走っていった。

「さて、俺達も寝るか」

「あの火はどうする、消すか?」

「ほっときゃいい、じきにちびすけ達が起きてくる」




 みんなが寝静まった後、訓練場の真ん中でミリアとウォーカー達が例の焚き火を囲んでいた。

 ミリアがヘル達と出会った経緯、ウォーカー達がウィレム達と国を抜けた時の様子とその後の事。


「・・偶然と言ったらいいのか。
ペリやヘルから母さんと父さんの話が聞けたのは嬉しいけど」

「みんないい人でいっぱい助けてもらったの。頑張る勇気も」



「これから先、リンドとカノンはどうすんの? エルフとハーフエルフは生きづらいからさ」

 アレンが心配そうに聞いてきた。


「前に話した時は一緒にパーティー組もうって言ったの。
ディエチミーラの下に入れてもらえたら安心だし、私と別のパーティーを組んでもいいと思ってる」

「エルフは冒険者登録できると思う。
それにリンドは結構使えるんじゃないかな。元々エルフは弓も魔法も使えるから後衛として優秀だからね」

 ウォーカーからは好印象を貰えてミリアはほっと安心した。


「カノンは素質はあるかもしれないけど年齢がな。うちのチビロビンの妹位の歳だろ? 依頼に連れ回すのは可哀想だけど、ハーフエルフだからどこかに預けたりする方が危険だし」

 ロビンは5人兄妹の長男で弟が一人と妹が三人いる。


「ミリアがパーティーを組むとしたらさ、前衛はどうすんの?
ミリアとリンドは両方後衛じゃん、前衛が絶対に必要になるだろ。
ダンジョンの攻略の時はどうやった?」


 盾を持って先頭をいくアレンはパーティーで一番端正な顔立ちをしており女性に大人気だが、本人曰く女は大っ嫌いだとか。

 ミリアは妹だから許せるが他は無理だと言い切っている。イライザローデリア王女に追い回されて女嫌いに拍車がかかっている。


「前衛はヴァンが。ヘイトを集めたり直接攻撃したり、あとはディーの木魔法で足止めして。
私は直接攻撃の手段を持ってないから役に立たなかった」


「前衛だけが大切って訳ではありませんが、いないとパーティーとして成り立ちませんから。せめてあと一人は必要ですね」

 グレイソンは司教の父の影響なのか礼儀正しい言葉遣いが抜けない。
 スキルが占星術師だと判明した時父親から家を追い出されたらしいが詳しい事は話したがらない。


「前衛が見つかるまではミリアとリンドはディエチミーラと行動すればいいだろ。
カノン一人なら全員で見れば大丈夫だし」

 ロンドはやはりカノンが気になって仕方ないのだろう。


 黙り込んでいたウォーカーがぽつりと呟いた。

「前衛なら一人いる・・けどなあ」





「マジか? それなら言うことなしだ。依頼内容によってパーティーを組み替えてもいいしな」

「うん、連携が取れるようになるまではさ、一緒に行動してそれから状況によって分けるってのは刺激があって楽しそうじゃん」

「休みも取りやすくなります」



「ウォーカー、俺たちの知ってる奴か? お前が認めてるんならさ、即戦力で使えるって事じゃん」

 アレンが目を輝かせている。

「多分な、でも出来れば違う奴を見つけたい」

「「「なんで?」」」



「奴は・・嫌いだ。それに、性格に問題がある」


「「「はあ?」」」


「兄さん、私分かったかも」

「あっ、確かに腕は良さそうだな。間違いなく前衛だし」

「目もいいじゃん。敵の動きを読むのには必要だしさ」

「ウォーカーが嫌ってる理由もわかります」

「「うん」」


「私わかんない、なんで嫌いなの?」


「アイツを嫌いにならないミリアがおかしいよ」

「でもすごく優しいよ。炎のコントロール出来るようになるまで毎晩付き合ってくれたし、コンポジット・ボウの練習もリンドに会うまではずっと教えてくれてたの。
表現方法には問題あるけど・・」

「言うんじゃなかった」

 ウォーカーが頭を抱えて溜息を吐くとロビン達三人が、

「「「ウォーカー、頑張れ」」」

 可哀想な者を見るような目で見つめていた。



「前衛はともかくヴァンはこの先どうするつもりなんだろう。ミリアは何か聞いてないのかい?」

 ウォーカーが無理矢理話を切り替えた。


「聞いてない。考えた事なかった」



「ヨルムガンドは?」

「彼は気が済んだら帰るんじゃないか?」

「下手につつくとしつこそうです」




 朝、眠い目を擦りながらミリアが起き上がるとウォーカーとロビンがリンドと話し込んでいた。

「本気・・ルマ・・・・を?」

「う・・・・実・・を・・い」

「・・りま・・。僕で・・なら」


 何を話しているのかは聞こえなかったが、リンドの顔が緊張で強張っている。


「おはよう、何話してたの?」

「ミリアか、おはよう。リンドの冒険者登録について話してたんだよ。
ほら、少し時間がありそうだからね」

「そっか、リンド頑張って。リンドなら絶対に大丈夫だからね」

「うん、問題は筆記試験なんだ。僕は人間の文字は殆ど読めないから」


「あっ、そうか。ギルマスに相談してみようよ、きっと何か考えてくれるはず」


「「「・・」」」

「どうしたの?」

「ミリアはずいぶんギルマスの事を信じてるんだなあと思ってね」

「口は悪いけど優しいし、もう何か考えてくれてるかも」

「ふーん」

 ウォーカーの周りにパシパシと音がして放電がはじまった。



 大きな口を開けて欠伸をしながら絶妙なタイミングで哀れな子羊ギルマスがやって来た。

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