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69.信用爆下がりのミリアとギルマスの危機

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 ロビンが急に真剣な顔で近づいて来た。


「なんでだ? どっちも問題ないぜ?」

 ガンツが首を傾げた。

「芯にドラゴンの心臓の琴線使ってるだろ? アレを変更できないかなあと」

「はあ? あれ以上の芯なんざ・・おい、何持ってやがる。
まさかとは思うが」

「そう、それそれ。ミリアに恩返ししたくてさあ。ここんとこ暇だったから貰ってきた」

「貸せ、出しやがれ!」

 今度はロビンとガンツの追いかけっこがはじまった。


「不死鳥の尾羽か」

 これくらいの事では動じなくなったギルマスがさらっと答えた。

「・・流石ディエチミーラ。予想の遥か上をいくな」


 セオドラが憧憬を込めた眼差しで走るロビンを見つめていたが、

「えー、不死鳥の尾羽なら他にもあるじゃん。それならミリアの持ってるものの方が珍しいっしょ?」


「「?」」


 アータルの言葉にセオドラとテスタロッサが同時にミリアを見つめた。

「そうだね、人間でアレを持っているのは後にも先にもミリアだけだろう」

 ミスラが太鼓判を押した。



 ウォーカーがミリアの顔を覗き込み右手の掌を上にして差し出した。

「見せて。あと、手に入れた経緯をじっくりと聞きたいな」


 無茶はしない約束だったよねと言いながらミリアを見つめるウォーカーの顔が強張っていた。



 遊び疲れたロビンとガンツが帰って来た時、ガンツの手には不死鳥の尾羽がしっかりと握られていた。


 ミリアがアイテムバックからそっとデーウの爪を出してウォーカーの手に乗せた。

「デーウの爪。たまたま手に入れたの」

「デーウって悪魔の?」

「うん」


「ミリア、コンポジット・ボウに使ったのにまだ持ってたのか!」

「だって爪って両手にあるでしょ」

「なんてこった」

(角もあるんだけど・・)



「コンポジット・ボウも持ってるの?」

 ウォーカーの尋問が続く。

「それにはおかしな物使ってないんだろうね」

「勿論、ガンツさんに作ってもらったのよ。だから品質は保障付き」


 にっこり笑って誤魔化そうとしたミリアだが、ウォーカーの大きな溜息を見て肩をすくめた。

「たまたまだってば」


「コンポジット・ボウで使った珍しい素材は、レッドドラゴンとユニコーンとデーウ位だな」

「あっ、バジリスクの牙手に入れて来ました」

「そうか、なら強化するか?」

「ぜひお願いします」



「ミリア、ユニコーンの角なんて持ってたっけ? また何かやった?」


 ミリアに対するウォーカーの信用はどんどん下がっていっている。


「ギルマスに貰ったの」


 ウォーカーの周りにピシリピシリと小さな放電が起きている。

 ギルマスがずりずりと後ろに下がりはじめた。

「ほう、そんな貴重な物を貰ったんだ。やっぱり二人のこれまでの状況を詳しく聞くべきだね。
ギルマス男らしく話してもらおうか」


「何もねえよ、持ってたけど使う予定がないなあと思ったからちびすけにやったんだ。
文句言われる筋合いはねえ」


「なら、代金を支払わせてもらう。理由がないならそうすべきだよね。
俺の認識は合ってるよね」

 ウォーカーの念押しに周りの全員が引いている。


(ミリアは行かず後家確定だな)

 全員がそう思った瞬間だった。


「あー、いやー。ほらいっぺんやるって言ったんだしな。
後出しで金を貰うってのはどうもスッキリしねえ」


(ルカ、お前根性あるな)

 セオドラがギルマスの粘りに感心して、テスタロッサとこっそり賭けをはじめた。

 ウォーカーの勝ちに賭けたのはテスタロッサ、ギルマスの勝ちに賭けたのはセオドラ。


(応援の気持ちを込めてやったから頑張れよ)




「さて、あたしはそろそろ帰るよ。賭けの結果は今度聞くから楽しみにしとく」

 ひらひらと手を振り、フリームスルス達を連れてヘルが帰っていった。


「「賭け?」」

 セオドラとテスタロッサが作り笑いを浮かべた。

「てめえら人の不幸を!」



「私もそろそろ帰らなくてはね。とても楽しかったよ、ではまた」

 ミスラがアータルに声をかけて消えていった。



「残念だけど僕もノッカーを連れて帰らなくては、また遊びにくるね」

 ペリがノッカーを連れて帰っていった。


「で、なんでヨルムガンドガキアータルは残ってるんだ?」

「さあ?」




 一応客室に案内したが全員が訓練場を選んだ。

 残った料理やテーブルを片付け、ギルドの備品の毛布を出し男女に分かれて寝床の準備をはじめた。




「アスカリオルはいつ頃動く?」

「お前も知ってる通り今の皇帝は戦闘狂だからな、今頃こっちに来るって暴れてるかもな」

「なら、早けりゃ明日には連絡が来るな。すぐに動けるように準備しとく。
んで、行くのはお前らとちびすけとディエチミーラの計七人か?」

「七人ってお前は?」

「はあ? 行かねえよ。リンドとカノンをほっとく訳にはいかねえ」


「いっそのこと二人も一緒に連れてけば?」

「俺が行く必要はねえよ、仕事も残ってるしな」


「でもお前」

「俺の役目は終わった。後は兄ちゃんが張り切ってる。
それにしても、テスタロッサはヘルに聞きたくてしょうがないって顔だったな」

「ああ、まだフレイの事が忘れられんらしい。もうずいぶん経つんだがな」


 テスタロッサと冒険者のフレイは幼馴染で、幼い頃から結婚の約束をしていた。

 ところが依頼の最中に大怪我をしたフレイは冒険者を辞め酒浸りになり、酔った挙句に喧嘩をして亡くなった。


「あの怪我さえなければって?」

「ああ、ミリアさんのエリクサーを見て思い出したんだろうが・・」

「全てを救うのは誰にも出来ねえよ」

「だな」




「なあ、お前もしかしてミリアさんの事好「てめえら、訓練場で何やってんだ!」」

 ギルマスが大激怒して怒鳴った。

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