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Sランク登録
64.謹厳実直な人
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「映像を記録しています」
「「「えっ?」」」
「それは私が作ったやつです。既に登録済みで一応は商品化されています。
高すぎるせいで需要はあまりなくて、王家とか余程金の余ってる奴らが持ってるくらいですね」
(ウォーカーが出したテーブルセットがゴージャスなはずだぜ。多分通信の魔道具もウォーカーだな)
「ミリアさんは何の薬が作れるんですか?」
「・・大した物ではありません。もう作るつもりもありませんし」
「ミリアさんは薬師ですよね。なのに作らない?」
「他の薬は作ります。でもあれは・・元々兄を吃驚させるために作ったので、目的は達成していますし」
「えっ、そうだったの?」
ミリアの言葉にウォーカーが吃驚して目を丸くしている。
「孤児院で兄の迎えを待っている間に作ったんです」
セオドラとテスタロッサは二つの考えの間で揺れ動いていた。
小国とは言え王家が騒いで手に入れようとする程貴重な薬。
しかし孤児院にいる間に子供が作った物ならば、大した薬ではない可能性も。
「ギルマス、お前は知ってるのか?」
セオドラが少し期待した目でギルマスを見た。
「はあ? 知らねえよ、ってか知りたくねえな。俺はな《謹厳実直》に生きてんだよ」
「慎み深く厳格、まじめで正直。ギルマスに一番似合わない言葉です」
「ソフィア、てめえ目が腐ってんのか? それとも喧嘩売ってんのかよ」
「素直なだけですが?」
目の前で繰り広げられる会話に耳を傾ける振りをしながら、ウォーカーは初めてミリアが薬を見せてくれた時のことを思い出していた。
「兄ちゃん、見ててね」
十一歳で冒険者登録をしたミリアと、初めて『モンストルムの森』に行った時の事。
ミリアは明るい日差しに溢れていた孤児院の裏の山とは違う、木や草が密集した薄暗い森の雰囲気に目を輝かせていた。
しっとりした空気と湿った草の濃厚な匂い。木の根本には苔やシダが生えている。
「依頼にあったエルダーの木はこの先にあるんだ」
小さい頃から頻繁に山を走り回っていたミリアは木の根に躓くこともなくサクサクと進んでいく。
(いつもならとっくに魔物に遭遇してるんだが)
「ミリア、お前なんかした?」
「まだ何もしてないよ」
「野生動物も魔物も見かけないんだけど?」
「いつも弱い子は寄ってこないの。兎とか抱っこしてみたいんだけどね」
ミリアが少し元気がなくなったように見えた。
エルダーの木は少し陰った場所にある低木で黒っぽい紫色の実をつけていた。
「実も取っていい? 帰ったらジュースにするの」
「ああ、パイを焼いてやるよ」
ミリアは「やったぁ」と喜びながら走り出して行った。
エルダーの小枝と実を採取した帰り道、瀕死の狸を見つけた。
「魔物にやられたんだ。まだ近くにいるかもしれない、気を付けて」
ミリアは話を聞いているのかいないのか、バックの中に手を突っ込んでゴソゴソと何かを探している。
「兄ちゃん、見ててね」
バックから出した壺の封を開け狸の傷に振りかけると食いちぎられた狸の足がみるみるうちに再生していった。
「!」
「吃驚した?」
唖然としているウォーカーの顔を見て満足そうに目を輝かしているミリアは、
「兄ちゃんを驚かせられた、ふふ」
「・・その薬」
「作ったの。兄ちゃんがくれた母さんのペンダントに入ってた石といろんなハーブとかを混ぜて作ったんだよ」
(母さん、なんて物を作ってたんだ)
数年後、ウォーカーがその石を調べると賢者の石に近いものだと推測された。
完成品には程遠いがエリクサーを作る材料には使えたということのようで、その頃にはウォーカーが同レベルの石を作れるようになっていた。
「ウォーカー、大丈夫か?」
ロビンが心配して声をかけてきた。
「あ、ああ。ちょっと昔を思い出してた」
「あの薬について口外しないのは正しい選択だと思う。
余計な混乱を招くだけだから」
ウォーカーが話を打ち切った。
セオドラとテスタロッサは納得がいかない顔をしていたが渋々のように頷き、
(後でギルマスを問い詰めてやる。予想くらいはついてそうだ)
と考えていた。
セオドラとテスタロッサが書類を作成し押印、ミリアは正式にSランクに昇格した。
アスカリオル帝国へ謁見希望の連絡も済ませると、後は返事待ちですることがない。
セオドラがウォーカーに今後のディエチミーラの予定を聞き出そうとしたり、テスタロッサがミリアに他に珍しい素材などはないのかとにじり寄ったり・・。
「ガンツ達を避難させた方が良いかもな」
ソファで「頭いてー」とぶつぶつ言っていたギルマスが突然言い出した。
「団長はあの通りしつけえ奴だからな、しかも見た目よりは知恵が回る。
ちょいちょいガンツがここに出入りしてた事に気づいてる可能性がある」
「だからって鍛冶屋に何かするかしら?」
テスタロッサが首を傾げた。
「俺を隠匿罪で連行しようとしたように、ガンツにそれを当てはめるかもな」
ミリアが慌てて立ち上がった。
「ヴァン、頼めるか? お前ならいっぺんに連れてこれんじゃね?」
『仕方あるまい』
ヴァンの姿が消えギルマスとミリアは目を見合わせた。
「リンドとカノンは大丈夫かしら?」
「「「えっ?」」」
「それは私が作ったやつです。既に登録済みで一応は商品化されています。
高すぎるせいで需要はあまりなくて、王家とか余程金の余ってる奴らが持ってるくらいですね」
(ウォーカーが出したテーブルセットがゴージャスなはずだぜ。多分通信の魔道具もウォーカーだな)
「ミリアさんは何の薬が作れるんですか?」
「・・大した物ではありません。もう作るつもりもありませんし」
「ミリアさんは薬師ですよね。なのに作らない?」
「他の薬は作ります。でもあれは・・元々兄を吃驚させるために作ったので、目的は達成していますし」
「えっ、そうだったの?」
ミリアの言葉にウォーカーが吃驚して目を丸くしている。
「孤児院で兄の迎えを待っている間に作ったんです」
セオドラとテスタロッサは二つの考えの間で揺れ動いていた。
小国とは言え王家が騒いで手に入れようとする程貴重な薬。
しかし孤児院にいる間に子供が作った物ならば、大した薬ではない可能性も。
「ギルマス、お前は知ってるのか?」
セオドラが少し期待した目でギルマスを見た。
「はあ? 知らねえよ、ってか知りたくねえな。俺はな《謹厳実直》に生きてんだよ」
「慎み深く厳格、まじめで正直。ギルマスに一番似合わない言葉です」
「ソフィア、てめえ目が腐ってんのか? それとも喧嘩売ってんのかよ」
「素直なだけですが?」
目の前で繰り広げられる会話に耳を傾ける振りをしながら、ウォーカーは初めてミリアが薬を見せてくれた時のことを思い出していた。
「兄ちゃん、見ててね」
十一歳で冒険者登録をしたミリアと、初めて『モンストルムの森』に行った時の事。
ミリアは明るい日差しに溢れていた孤児院の裏の山とは違う、木や草が密集した薄暗い森の雰囲気に目を輝かせていた。
しっとりした空気と湿った草の濃厚な匂い。木の根本には苔やシダが生えている。
「依頼にあったエルダーの木はこの先にあるんだ」
小さい頃から頻繁に山を走り回っていたミリアは木の根に躓くこともなくサクサクと進んでいく。
(いつもならとっくに魔物に遭遇してるんだが)
「ミリア、お前なんかした?」
「まだ何もしてないよ」
「野生動物も魔物も見かけないんだけど?」
「いつも弱い子は寄ってこないの。兎とか抱っこしてみたいんだけどね」
ミリアが少し元気がなくなったように見えた。
エルダーの木は少し陰った場所にある低木で黒っぽい紫色の実をつけていた。
「実も取っていい? 帰ったらジュースにするの」
「ああ、パイを焼いてやるよ」
ミリアは「やったぁ」と喜びながら走り出して行った。
エルダーの小枝と実を採取した帰り道、瀕死の狸を見つけた。
「魔物にやられたんだ。まだ近くにいるかもしれない、気を付けて」
ミリアは話を聞いているのかいないのか、バックの中に手を突っ込んでゴソゴソと何かを探している。
「兄ちゃん、見ててね」
バックから出した壺の封を開け狸の傷に振りかけると食いちぎられた狸の足がみるみるうちに再生していった。
「!」
「吃驚した?」
唖然としているウォーカーの顔を見て満足そうに目を輝かしているミリアは、
「兄ちゃんを驚かせられた、ふふ」
「・・その薬」
「作ったの。兄ちゃんがくれた母さんのペンダントに入ってた石といろんなハーブとかを混ぜて作ったんだよ」
(母さん、なんて物を作ってたんだ)
数年後、ウォーカーがその石を調べると賢者の石に近いものだと推測された。
完成品には程遠いがエリクサーを作る材料には使えたということのようで、その頃にはウォーカーが同レベルの石を作れるようになっていた。
「ウォーカー、大丈夫か?」
ロビンが心配して声をかけてきた。
「あ、ああ。ちょっと昔を思い出してた」
「あの薬について口外しないのは正しい選択だと思う。
余計な混乱を招くだけだから」
ウォーカーが話を打ち切った。
セオドラとテスタロッサは納得がいかない顔をしていたが渋々のように頷き、
(後でギルマスを問い詰めてやる。予想くらいはついてそうだ)
と考えていた。
セオドラとテスタロッサが書類を作成し押印、ミリアは正式にSランクに昇格した。
アスカリオル帝国へ謁見希望の連絡も済ませると、後は返事待ちですることがない。
セオドラがウォーカーに今後のディエチミーラの予定を聞き出そうとしたり、テスタロッサがミリアに他に珍しい素材などはないのかとにじり寄ったり・・。
「ガンツ達を避難させた方が良いかもな」
ソファで「頭いてー」とぶつぶつ言っていたギルマスが突然言い出した。
「団長はあの通りしつけえ奴だからな、しかも見た目よりは知恵が回る。
ちょいちょいガンツがここに出入りしてた事に気づいてる可能性がある」
「だからって鍛冶屋に何かするかしら?」
テスタロッサが首を傾げた。
「俺を隠匿罪で連行しようとしたように、ガンツにそれを当てはめるかもな」
ミリアが慌てて立ち上がった。
「ヴァン、頼めるか? お前ならいっぺんに連れてこれんじゃね?」
『仕方あるまい』
ヴァンの姿が消えギルマスとミリアは目を見合わせた。
「リンドとカノンは大丈夫かしら?」
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