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ハーミット王国、ダンジョン
58.ミリアの練習とお茶会
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「そんなに怒らなくても、なんだか楽しそうだからちょっと見に来ただけなのに」
アータルがミリアの横に突然現れた。
「アータル、精霊のアータルね。はじめまして、あたしはドリアードのディーよ」
物怖じしないディーが一番に声をかけた。
「はじめまして、僕はアータル」
「あたしとヴァンはミリアが名前をつけてくれたのよ」
えっへんと誇らしげに胸を張っているディーに、ケット・シーが
「俺様もいつか名前を貰うんだ」
「猫の王様が人間に名前を貰うの?」
アータルが目を丸くしている。
「今、強くなる為に一杯練習してるからもうじき俺様にも名前ができる!」
「・・そうか、楽しみだね。ところでみんなは何を食べてるんだい?」
結局アータルも一緒に食事をすることになり、好みのケ・ツィアプはきのこだった。
(ヴァンとアータルは仲が悪そうだけど、食の好みは似てるみたい。性格もなんだか似てそうな気がするし)
新たな仲間が増えた事に気付いていないミリアだった。
「狩り?」
「うん、本当は朝早くか夕方の方がいいんだけど今くらいの時間でも結構いるんだ」
「・・残念だけど、やめとくわ」
「なんで? コンポジット・ボウ試してみない?」
「無理なの、私がいると野生の動物や弱い魔物は寄ってこないの」
「気配は消せない?」
「練習したけど全然ダメだった」
ヴァンのもふもふを思い出しガックリと肩を落とすミリア。
「カノンに教えたのは僕なんだ。ダメ元でやってみようよ」
二人は午前中いっぱいをかけて気配遮断の練習をした。
「ゆっくり息を吸って吐いて、気持ちを落ち着けるんだ」
「それから自分の周りにある何かを身体の中に引っ張り込むイメージ」
お昼近くなる頃にはほんの少しだが気配を抑える事ができるようになった。
「凄いよ、毎日練習してたらきっと上手くなる。もう少し上手になったらケット・シーで試してみよう」
「?」
「一番・・その、鈍そうだから」
ケット・シーの戸惑い驚く可愛い顔を想像して、二人は顔を見合わせてクスクスと笑った。
「うーん、ボスが違うなんざ聞いた事ねえなあ。
たまーに別の奴も一緒に出てきたなんてイレギュラーな事はあるが・・」
『詳しい事はミリアに聞くが良い』
「折角ここまで来たんだしよ、ついでにちびすけの予想を教えてくれよ。
今日は煩い奴らが来てねえから暇だし」
『仕事は?』
「うん、ちょいちょいっと終わらせて・・そいつは気にすんな。なんとでもなるって」
『ミリアとは正反対よの、ルカは』
「げっ、ルカはやめろって。何か女の子みてえだろ?
昔よく揶揄われたんだよ」
ギルマスはガシガシといつも以上に乱暴に髪を掻き乱した。
『では、我は帰るとするか』
「えっ、もう? ・・えーっとだな、ちびすけはその、どうしてる?」
『・・』
「アイツはすぐとんでもねえ事をやりやがるし、まーた何かしでかしてねえかなーと」
ソファにもたれ壁についた大きな傷を真剣な顔で見ているギルマスの耳がほんの少し赤くなってきた。
『ほう』
「ほら、冒険者の動向を知るのはギルマスの仕事の一つだしな。うん」
『ほう』
「お前それしか言わねえのかよ! で、どうなんだよ」
『エルフのリンドと随分親しげに・・』
「は? 親しげになんだ?」
『もう一人男が今朝・・あれもミリアに纏わりついて』
「へっ? 誰だよ、誰のことだ?」
ギルマスが眉間に皺を寄せて首を傾げた。
『ふむ、もう帰らねば。もう一人・・奴がやってきたようだ。其奴のこともミリアは随分と気に入っておるし』
「だーかーらー、誰なんだよそいつらは!」
『随分とミリアを気に入っておる奴らだ』
「男か? 全部?」
『当然であろう? さて、我は・・』
ギルマスが“バン!” とテーブルを叩いて立ち上がった。
「連れてけ!」
「・・男って」
ヴァンと共に転移してきたギルマスが呆然としていると、ミリアが走ってやってきた。
「ギルマス、何かあったんですか?」
「男って、ガキとジジイじゃねえか。騙しやがったな」
ギルマスが般若のような顔でぶつぶつと呟いている。
「くそフェンリル、こっちへ来い! ボッコボッコにしてやる!」
ギルマスの怒鳴り声に、広場に集まってお茶会をしていたメンバーは口をぽかんと開けてギルマスを凝視した。
ヴァンは転移直後にはお茶会に参加しており、のんびりと尻尾を揺らしている。
「ギルマス、一緒にお茶します? 焼き立てのゴーフルもありますよ」
ミリアに連れられて渋々みんなの輪に混ざったギルマスは、横目でヴァンを睨みながらミリアに話しかけた。
「ちびすけ、この大人数の集まりはなんだ?」
ミリアは猫舌のギルマスに少し覚ましたお茶を手渡しながら、
「えーっと、なんだろう。仲良しの友達のお茶会?
みなさんと仲良くなったんです。
お友達なんて言うのは烏滸がましいんですが、快く許してくださったんですよ」
嬉しそうにみんなを見回したミリアに、全員が優しい顔で頷いた。
程よく冷めたゴーフルに果物やアイスを乗せて蜂蜜を少し多めにかけた。
(ギルマス専用超甘々ゴーフルの完成ね)
ギルマスは誰にも気付かれていないと思っているが猫舌で大の甘党。
机の引き出しに甘いお菓子が常備されているのをミリアは勿論ソフィアも知っている。
と言うよりも、ギルマスがいない時にソフィアが出してきてミリアに「ギルマスの秘密」と笑いながら教えてくれた。
そのお菓子が異常に甘かった。
ミリアがギルマス専用ゴーフルを手渡すと、ギルマスがぽつりと呟いた。
「人間がいねえ・・」
アータルがミリアの横に突然現れた。
「アータル、精霊のアータルね。はじめまして、あたしはドリアードのディーよ」
物怖じしないディーが一番に声をかけた。
「はじめまして、僕はアータル」
「あたしとヴァンはミリアが名前をつけてくれたのよ」
えっへんと誇らしげに胸を張っているディーに、ケット・シーが
「俺様もいつか名前を貰うんだ」
「猫の王様が人間に名前を貰うの?」
アータルが目を丸くしている。
「今、強くなる為に一杯練習してるからもうじき俺様にも名前ができる!」
「・・そうか、楽しみだね。ところでみんなは何を食べてるんだい?」
結局アータルも一緒に食事をすることになり、好みのケ・ツィアプはきのこだった。
(ヴァンとアータルは仲が悪そうだけど、食の好みは似てるみたい。性格もなんだか似てそうな気がするし)
新たな仲間が増えた事に気付いていないミリアだった。
「狩り?」
「うん、本当は朝早くか夕方の方がいいんだけど今くらいの時間でも結構いるんだ」
「・・残念だけど、やめとくわ」
「なんで? コンポジット・ボウ試してみない?」
「無理なの、私がいると野生の動物や弱い魔物は寄ってこないの」
「気配は消せない?」
「練習したけど全然ダメだった」
ヴァンのもふもふを思い出しガックリと肩を落とすミリア。
「カノンに教えたのは僕なんだ。ダメ元でやってみようよ」
二人は午前中いっぱいをかけて気配遮断の練習をした。
「ゆっくり息を吸って吐いて、気持ちを落ち着けるんだ」
「それから自分の周りにある何かを身体の中に引っ張り込むイメージ」
お昼近くなる頃にはほんの少しだが気配を抑える事ができるようになった。
「凄いよ、毎日練習してたらきっと上手くなる。もう少し上手になったらケット・シーで試してみよう」
「?」
「一番・・その、鈍そうだから」
ケット・シーの戸惑い驚く可愛い顔を想像して、二人は顔を見合わせてクスクスと笑った。
「うーん、ボスが違うなんざ聞いた事ねえなあ。
たまーに別の奴も一緒に出てきたなんてイレギュラーな事はあるが・・」
『詳しい事はミリアに聞くが良い』
「折角ここまで来たんだしよ、ついでにちびすけの予想を教えてくれよ。
今日は煩い奴らが来てねえから暇だし」
『仕事は?』
「うん、ちょいちょいっと終わらせて・・そいつは気にすんな。なんとでもなるって」
『ミリアとは正反対よの、ルカは』
「げっ、ルカはやめろって。何か女の子みてえだろ?
昔よく揶揄われたんだよ」
ギルマスはガシガシといつも以上に乱暴に髪を掻き乱した。
『では、我は帰るとするか』
「えっ、もう? ・・えーっとだな、ちびすけはその、どうしてる?」
『・・』
「アイツはすぐとんでもねえ事をやりやがるし、まーた何かしでかしてねえかなーと」
ソファにもたれ壁についた大きな傷を真剣な顔で見ているギルマスの耳がほんの少し赤くなってきた。
『ほう』
「ほら、冒険者の動向を知るのはギルマスの仕事の一つだしな。うん」
『ほう』
「お前それしか言わねえのかよ! で、どうなんだよ」
『エルフのリンドと随分親しげに・・』
「は? 親しげになんだ?」
『もう一人男が今朝・・あれもミリアに纏わりついて』
「へっ? 誰だよ、誰のことだ?」
ギルマスが眉間に皺を寄せて首を傾げた。
『ふむ、もう帰らねば。もう一人・・奴がやってきたようだ。其奴のこともミリアは随分と気に入っておるし』
「だーかーらー、誰なんだよそいつらは!」
『随分とミリアを気に入っておる奴らだ』
「男か? 全部?」
『当然であろう? さて、我は・・』
ギルマスが“バン!” とテーブルを叩いて立ち上がった。
「連れてけ!」
「・・男って」
ヴァンと共に転移してきたギルマスが呆然としていると、ミリアが走ってやってきた。
「ギルマス、何かあったんですか?」
「男って、ガキとジジイじゃねえか。騙しやがったな」
ギルマスが般若のような顔でぶつぶつと呟いている。
「くそフェンリル、こっちへ来い! ボッコボッコにしてやる!」
ギルマスの怒鳴り声に、広場に集まってお茶会をしていたメンバーは口をぽかんと開けてギルマスを凝視した。
ヴァンは転移直後にはお茶会に参加しており、のんびりと尻尾を揺らしている。
「ギルマス、一緒にお茶します? 焼き立てのゴーフルもありますよ」
ミリアに連れられて渋々みんなの輪に混ざったギルマスは、横目でヴァンを睨みながらミリアに話しかけた。
「ちびすけ、この大人数の集まりはなんだ?」
ミリアは猫舌のギルマスに少し覚ましたお茶を手渡しながら、
「えーっと、なんだろう。仲良しの友達のお茶会?
みなさんと仲良くなったんです。
お友達なんて言うのは烏滸がましいんですが、快く許してくださったんですよ」
嬉しそうにみんなを見回したミリアに、全員が優しい顔で頷いた。
程よく冷めたゴーフルに果物やアイスを乗せて蜂蜜を少し多めにかけた。
(ギルマス専用超甘々ゴーフルの完成ね)
ギルマスは誰にも気付かれていないと思っているが猫舌で大の甘党。
机の引き出しに甘いお菓子が常備されているのをミリアは勿論ソフィアも知っている。
と言うよりも、ギルマスがいない時にソフィアが出してきてミリアに「ギルマスの秘密」と笑いながら教えてくれた。
そのお菓子が異常に甘かった。
ミリアがギルマス専用ゴーフルを手渡すと、ギルマスがぽつりと呟いた。
「人間がいねえ・・」
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