56 / 149
ハーミット王国、ダンジョン
54.ダブルソフィアと母さんの気持ち
しおりを挟む
「黄金の林檎だと? 何寝ぼけたこと言ってやがる。こっちはなお前みたいに暇じゃねえんだよ!」
「随分と荒れてんな。なんかあったか?」
ギルマスが呑気な声で話しているのは、ギルド本部長のセオドラ・ミルタウン。
ギルマスと同じパーティーにいた元Aランク冒険者。
「ローデリアが騒いでんだろうが。お陰で本部にも騎士団が常駐して、女の冒険者を片っ端から捕まえてやがる」
「ふーん」
「通常の業務に支障をきたすわ、冒険者からのクレームが山のように降ってくるわで蜂の巣をつついたような騒ぎだよ」
ギルド本部はアスカリオル帝国にある。
アスカリオル帝国は強力な軍事国家で、近隣諸国を制圧・属国化し、領土を着々と広げている。
アスカリオル帝国は十年に一度開催される闘技大会で帝王を決定する完全実力主義の国。
現在の帝王であるラシッド・エルミストは三年前に大会で優勝した、帝国の高位貴族令息であると同時に元Aランク冒険者。
「逃げてくれば? 黄金の林檎を確認に行くといやあ文句は出ねえだろ?」
「ルカちゃん、お前なぁ。ガセだったらボコボコにすんぞ」
「ルカ言うな! もしほんとだったら、俺がお前をボコボコにすっからな。
本部の鑑定士も連れて来いよ」
「げっ、アイツと一緒に行動するとか俺を殺す気か?」
「安心しろ、こっちにも似たような奴がいる。気が合うかもしんねえ」
ギルマスが薄ら寒い笑い声を上げた。
「・・それはそれで怖いな」
ギルマスが通信を終了すると、ソフィアが真顔で聞いてきた。
「で? どうなりました、ルカちゃん?」
「てめえ、ルカ言うなって聞いてただろうが! こっちが動けねえならあっちを動かしゃいいんだよ」
「確かに、本部役員の肩書があれば堂々と検問を突破できますね」
ソフィアが「うんうん」と頷いている。
「そう言うわけだ、ちびすけに暫くじっとしてろって言っといてくれ。
奴の事だ、多分二・三日ですっ飛んでくる」
「ギルマス、誰に言ってます?」
「隠れて話を聞いてる犬っころにな」
『伝えておこう、ルカ・・ちゃん』
ギルマスが立ち上がって怒鳴った。
「くそお、神獣だからって容赦しねえからな! 出て来やがれ」
「・・ギルマス、神獣相手じゃ絶対に勝てませんから」
仮面をつけたソフィアはとても冷静だった。
夕方が近くなりトレントの森には涼しい風が吹いていた。
昨日からの快進撃で疲れ果てていたミリアは、カノン達の元気な声を聞きながらウトウトとお夕寝の最中。
リンドはそんなミリアの寝顔を見つめながら、
(カノンの父親に会った時、母さんもこんな気持ちだったのかな?)
そう気付いたリンドの頬は少しばかり赤らんでいた。
『ミリア』
ヴァンの呼び声にミリアが飛び起きた。
「なっ、何かあった?」
『ギルマスからの伝言がある。この森でニ・三日大人しくしてろ』
「大人しく? 何かあったの?」
『向こうにはソフィアもいる。心配はいらん』
「そうだね、ソフィアさんなら・・」
『本部をこちらに呼び寄せるそうだ。鑑定士も連れてくると言っておった』
「そうか、ならSランク登録上手くいくかも」
問題が解決し元気を取り戻したミリアは、夕食にバーベキューをする事にした。
バーベキューを初めて見るリンドとカノンは興味津々で準備を手伝ってくれた。
「ミイ、焼き具合はこのくらいかな?」
「うん、いいと思う。はいカノンちゃん、熱いから気をつけてね」
「ディーにはもっとちっちゃく切ってあげるね」
リンドが焼き物を担当してミリアがそれを銘々の皿に取り分けていく。
もぐもぐと美味しそうにお肉を頬張っていたカノンがリンドとミリアを交互に見ている。
「お父さんとお母さんみたい」
「「へっ?」」
「カノンは見た事ないけど、お父さんとお母さんがいたらそんな感じなのかな? って思ったの」
「なっ、ばっばかな事言ってないでちゃんと噛んで食べるんだ」
リンドが顔を赤くして吃った。
「にいちゃん、顔が真っ赤だよ?」
「火・・火のそばにいるから」
「ふーん、ミイちゃんのお父さんとお母さんってどんな人?」
「二歳の時に死んじゃったから覚えてないの。でもこの間少し話を聞いたんだけど、二人はすごく仲が良くて子供想いで素敵な人だったって。
ウォーカーは三歳年上だから少しは覚えてるかも」
「ミイちゃんにもにいちゃんがいるの?」
「そうよ、リンドに似てるかも」
「「えっ?」」
リンドとカノンの声がシンクロした。
「ウォーカーはすっごく私に甘いから、リンドもカノンのこととても大切にしてるでしょう?」
「会ってみたーい」
(ミイの兄さん・・)
「もう少ししたら会えるかも。私が追いつくのをずっと待ってくれてるから」
カノンに問われるままミリアはウォーカーのことやディエチミーラの事を話した。
「その人はミイを溺愛してる・・Sランクって・・それってすごい事?」
リンドの顔が次第に青褪めてきた。
『この世界で最強の冒険者という事だ』
「にいちゃん、ウォーカーさんかっこいいね」
「うっうん」
自分の気持ちに気づいた途端、大きな壁が立ち塞がったリンドだった。
「ミイもSランクになるんだよねー」
ディーがリンドに追い討ちをかけた。
(頑張る、これからだから。堂々と街を歩けるようになったら・・強くなって、そして)
わいわいと楽しかった食事が終わり、火を囲んでのんびりお茶を飲んでいた時ミリアがヴァンに話しかけた。
「ヴァン、ベヒーモスの事なんだけど」
『気になるか?』
「随分と荒れてんな。なんかあったか?」
ギルマスが呑気な声で話しているのは、ギルド本部長のセオドラ・ミルタウン。
ギルマスと同じパーティーにいた元Aランク冒険者。
「ローデリアが騒いでんだろうが。お陰で本部にも騎士団が常駐して、女の冒険者を片っ端から捕まえてやがる」
「ふーん」
「通常の業務に支障をきたすわ、冒険者からのクレームが山のように降ってくるわで蜂の巣をつついたような騒ぎだよ」
ギルド本部はアスカリオル帝国にある。
アスカリオル帝国は強力な軍事国家で、近隣諸国を制圧・属国化し、領土を着々と広げている。
アスカリオル帝国は十年に一度開催される闘技大会で帝王を決定する完全実力主義の国。
現在の帝王であるラシッド・エルミストは三年前に大会で優勝した、帝国の高位貴族令息であると同時に元Aランク冒険者。
「逃げてくれば? 黄金の林檎を確認に行くといやあ文句は出ねえだろ?」
「ルカちゃん、お前なぁ。ガセだったらボコボコにすんぞ」
「ルカ言うな! もしほんとだったら、俺がお前をボコボコにすっからな。
本部の鑑定士も連れて来いよ」
「げっ、アイツと一緒に行動するとか俺を殺す気か?」
「安心しろ、こっちにも似たような奴がいる。気が合うかもしんねえ」
ギルマスが薄ら寒い笑い声を上げた。
「・・それはそれで怖いな」
ギルマスが通信を終了すると、ソフィアが真顔で聞いてきた。
「で? どうなりました、ルカちゃん?」
「てめえ、ルカ言うなって聞いてただろうが! こっちが動けねえならあっちを動かしゃいいんだよ」
「確かに、本部役員の肩書があれば堂々と検問を突破できますね」
ソフィアが「うんうん」と頷いている。
「そう言うわけだ、ちびすけに暫くじっとしてろって言っといてくれ。
奴の事だ、多分二・三日ですっ飛んでくる」
「ギルマス、誰に言ってます?」
「隠れて話を聞いてる犬っころにな」
『伝えておこう、ルカ・・ちゃん』
ギルマスが立ち上がって怒鳴った。
「くそお、神獣だからって容赦しねえからな! 出て来やがれ」
「・・ギルマス、神獣相手じゃ絶対に勝てませんから」
仮面をつけたソフィアはとても冷静だった。
夕方が近くなりトレントの森には涼しい風が吹いていた。
昨日からの快進撃で疲れ果てていたミリアは、カノン達の元気な声を聞きながらウトウトとお夕寝の最中。
リンドはそんなミリアの寝顔を見つめながら、
(カノンの父親に会った時、母さんもこんな気持ちだったのかな?)
そう気付いたリンドの頬は少しばかり赤らんでいた。
『ミリア』
ヴァンの呼び声にミリアが飛び起きた。
「なっ、何かあった?」
『ギルマスからの伝言がある。この森でニ・三日大人しくしてろ』
「大人しく? 何かあったの?」
『向こうにはソフィアもいる。心配はいらん』
「そうだね、ソフィアさんなら・・」
『本部をこちらに呼び寄せるそうだ。鑑定士も連れてくると言っておった』
「そうか、ならSランク登録上手くいくかも」
問題が解決し元気を取り戻したミリアは、夕食にバーベキューをする事にした。
バーベキューを初めて見るリンドとカノンは興味津々で準備を手伝ってくれた。
「ミイ、焼き具合はこのくらいかな?」
「うん、いいと思う。はいカノンちゃん、熱いから気をつけてね」
「ディーにはもっとちっちゃく切ってあげるね」
リンドが焼き物を担当してミリアがそれを銘々の皿に取り分けていく。
もぐもぐと美味しそうにお肉を頬張っていたカノンがリンドとミリアを交互に見ている。
「お父さんとお母さんみたい」
「「へっ?」」
「カノンは見た事ないけど、お父さんとお母さんがいたらそんな感じなのかな? って思ったの」
「なっ、ばっばかな事言ってないでちゃんと噛んで食べるんだ」
リンドが顔を赤くして吃った。
「にいちゃん、顔が真っ赤だよ?」
「火・・火のそばにいるから」
「ふーん、ミイちゃんのお父さんとお母さんってどんな人?」
「二歳の時に死んじゃったから覚えてないの。でもこの間少し話を聞いたんだけど、二人はすごく仲が良くて子供想いで素敵な人だったって。
ウォーカーは三歳年上だから少しは覚えてるかも」
「ミイちゃんにもにいちゃんがいるの?」
「そうよ、リンドに似てるかも」
「「えっ?」」
リンドとカノンの声がシンクロした。
「ウォーカーはすっごく私に甘いから、リンドもカノンのこととても大切にしてるでしょう?」
「会ってみたーい」
(ミイの兄さん・・)
「もう少ししたら会えるかも。私が追いつくのをずっと待ってくれてるから」
カノンに問われるままミリアはウォーカーのことやディエチミーラの事を話した。
「その人はミイを溺愛してる・・Sランクって・・それってすごい事?」
リンドの顔が次第に青褪めてきた。
『この世界で最強の冒険者という事だ』
「にいちゃん、ウォーカーさんかっこいいね」
「うっうん」
自分の気持ちに気づいた途端、大きな壁が立ち塞がったリンドだった。
「ミイもSランクになるんだよねー」
ディーがリンドに追い討ちをかけた。
(頑張る、これからだから。堂々と街を歩けるようになったら・・強くなって、そして)
わいわいと楽しかった食事が終わり、火を囲んでのんびりお茶を飲んでいた時ミリアがヴァンに話しかけた。
「ヴァン、ベヒーモスの事なんだけど」
『気になるか?』
0
お気に入りに追加
960
あなたにおすすめの小説
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放されましたのでちょっと仕返しします
あおい
恋愛
婚約破棄からの爵位剥奪に国外追放!
初代当主は本物の天使!
天使の加護を受けてる私のおかげでこの国は安泰だったのに、その私と一族を追い出すとは何事ですか!?
身に覚えのない理由で婚約破棄に爵位剥奪に国外追放してきた第2王子に天使の加護でちょっと仕返しをしましょう!
冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで
一本橋
恋愛
ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。
その犯人は俺だったらしい。
見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。
罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。
噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。
その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。
慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
捨てられ聖女の私が本当の幸せに気付くまで
海空里和
恋愛
ラヴァル王国、王太子に婚約破棄されたアデリーナ。
さらに、大聖女として国のために瘴気を浄化してきたのに、見えない功績から偽りだと言われ、国外追放になる。
従者のオーウェンと一緒に隣国、オルレアンを目指すことになったアデリーナ。しかし途中でラヴァルの騎士に追われる妊婦・ミアと出会う。
目の前の困っている人を放っておけないアデリーナは、ミアを連れて隣国へ逃げる。
そのまた途中でフェンリルの呼びかけにより、負傷したイケメン騎士を拾う。その騎士はなんと、隣国オルレアンの皇弟、エクトルで!?
素性を隠そうとオーウェンはミアの夫、アデリーナはオーウェンの愛人、とおかしな状況に。
しかし聖女を求めるオルレアン皇帝の命令でアデリーナはエクトルと契約結婚をすることに。
未来を諦めていたエクトルは、アデリーナに助けられ、彼女との未来を望むようになる。幼い頃からアデリーナの側にいたオーウェンは、それが面白くないようで。
アデリーナの本当に大切なものは何なのか。
捨てられ聖女×拗らせ従者×訳アリ皇弟のトライアングルラブ!
※こちら性描写はございませんが、きわどい表現がございます。ご了承の上お読みくださいませ。
伯爵家に仕えるメイドですが、不当に給料を減らされたので、辞職しようと思います。ついでに、ご令嬢の浮気を、婚約者に密告しておきますね。
冬吹せいら
恋愛
エイリャーン伯爵家に仕えるメイド、アンリカ・ジェネッタは、日々不満を抱きながらも、働き続けていた。
ある日、不当に給料を減らされることになったアンリカは、辞職を決意する。
メイドでなくなった以上、家の秘密を守る必要も無い。
アンリカは、令嬢の浮気を、密告することにした。
エイリャーン家の没落が、始まろうとしている……。
(完結)妹の為に薬草を採りに行ったら、婚約者を奪われていましたーーでも、そんな男で本当にいいの?
青空一夏
恋愛
妹を溺愛する薬師である姉は、病弱な妹の為によく効くという薬草を遠方まで探す旅に出た。だが半年後に戻ってくると、自分の婚約者が妹と・・・・・・
心優しい姉と、心が醜い妹のお話し。妹が大好きな天然系ポジティブ姉。コメディ。もう一回言います。コメディです。
※ご注意
これは一切史実に基づいていない異世界のお話しです。現代的言葉遣いや、食べ物や商品、機器など、唐突に現れる可能性もありますのでご了承くださいませ。ファンタジー要素多め。コメディ。
この異世界では薬師は貴族令嬢がなるものではない、という設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる