36 / 149
ハーミット王国、ドワーフの里へ
34.ノッカーの意外な好み
しおりを挟む
「右に行きゃ鉄が出る広い場所に行き当たる。んで、左は結構歩くが銅の産出場所に行ける」
ナナの言葉を聞いてミリアは索敵の範囲を出来る限り広くしてみた。
右には幾つかの空間があり、左は分かれ道は分かるがその先が見えない。
鉱石の存在はミリアには分からないが、壁面の中には硬さの違う石があちこちにあるように思えた。
生き物の気配もノッカーらしい気配もしない。
「下に降りるのはどっち?」
「左だ、途中で分かれ道がある」
「なら取り敢えず左の分かれ道まで行ってみましょう」
足元に用心しながら緩い坂道を下っていった。下に降りれば降りるほど空気は冷たく淀み圧迫感が押し寄せて来る。
次の分かれ道で立ち止まった時ふと何かの気配を感じた気がした。
ミリアが意識を集中していると、残念な事に気配が遠ざかってしまった。
(ノッカーかな? でも、岩の中じゃなくて宙に浮いてた気がする)
下に降りる道を選び一行は黙々と歩いて小さな広場に辿り着いた。
「ガンツ、ここは何?」
「休憩場所だな。この後結構深く潜るからよ、飯を食ったり荷物を整理したり」
「ふうん、それで壁にフックがいくつも取り付けてあるのね」
「ああ、休憩中にランプを蹴っ飛ばす奴が結構いるからよお。魔導ランプは高価だってのに」
「ふうん、ねえ私達もちょっと休憩しない? 初めて入った坑道で疲れちゃった」
「しょうがねえなぁ、まあ初めての奴には結構キツいかもな」
ミリアは早速お茶のセットを出してマックスにお湯を頼み、座り込んでお菓子や果物を出していく。
「ガンツ、この山で出ない鉱石ってあるの?」
「大概出るな。宝石もちらほら出ていい値で売れるし、まあヒヒイロカネは出ねえがな」
「ヒヒイロカネねえ、ガンツは見たことあるの?」
ナナとグレンにお菓子を勧めた。今日のメインはアイスを乗せて蜂蜜をかけたゴーフル。
「ねえに決まってんだろ。武器でも見た事ねえよ」
マックスが入れてくれたお茶を受け取り一口飲んだ。最近マックスはお茶を入れる腕前が上がった気がする。
「私持ってるよ」
「「「「はあ?」」」」
「兄さんに幾つか貰ったの。将来武器が必要になったら使えって」
《嘘だね、そんな事あり得ない》
ミリアの背後で声がしてガンツ以外の四人が固まった。
「誰か知らないけど酷くない? 私は嘘なんてつかないもん」
《兄さんって奴に騙されてる! ヒヒイロカネはあの国からは出しちゃいけないって決まってるんだ》
「何事にも例外はあるものよ。ガンツ、これがそのヒヒイロカネ」
ミリアがアイテムバックから取り出した鉱石をガンツに渡すと、全員が目の色を変えて鉱石を見つめヒュッと息を吸い込んだ。
「凄え、これがヒヒイロカネ・・」
《騙されてる! 絶対に嘘だ》
「見に来てみたら? 兄さんは嘘をつかないから」
どこからともなくミリアと同じくらいの背丈の男の子が現れた。
肩の辺りまである濃い茶色の髪は少し汚れ薄いブルーの目をしている。シャツとズボンに編み上げ靴を履いている姿は坑夫とよく似ている。
ガンツが掌に乗せた鉱石をノッカーに差し出すと、仔犬を気にしながら恐る恐る近づいて来たノッカーが鉱石を覗き込んだ。
《本当だ、ヒヒイロカネ。これ頂戴、僕のコレクションに丁度良い》
「うーん、ノッカーにはドワーフが長い間助けて貰ってるって聞いてるしなぁ。
でももう手に入んないかもしれないし・・。
ガンツから借りた杖がすごく使いやすかったから、杖を作るのも良いかなって思ったり」
《ねえ、10分の1でいいんだ。貰うのはそれって決まってる》
ノッカーはミリアの側に来てしゃがみ込んだ。
「でもこれはここで採掘したわけじゃないしなぁ。
そうだ、情報料にしない?」
《情報料?》
キョトンと首を傾げるさまは小さな子供にしか見えない。
「うん、ここで何故喧嘩が起きたのか知りたいの」
《あれは・・意地悪されるから言えないよ》
悲しそうな顔をしながらもヒヒイロカネをチラチラと見ている。
ガンツはノッカーを無視して鉱石を光に透かしたり叩いてみたりと研究に余念がない。
「やっぱりボギーなのね」
《なんだ、知ってたんだ。狡いよ》
「もしかしたらって思ってただけ。さっきもいたでしょう? ほら、分かれ道の先に」
《あいつはしょっちゅう出入りしてる。気を付けないと僕のコレクションを持ってっちゃうんだ》
いくつか鉱石を持っていかれたのだろう。ノッカーはしゃがみ込んだまま溜息をついた。
「足を踏んだのはボギーね。ここには今私達しかいないから大丈夫」
《そうだよ。で、喧嘩がはじまったんだ。喧嘩とか大っ嫌い》
「私もよ、特にここは声が響くでしょうしね」
《そのせいでここはつまんない場所になっちゃったんだ》
「ありがとう。待っててくれて」
《ここのドワーフは優しいから好きなんだ。時々沢山分け前をくれるし、僕の席をちゃんと空けておいてくれる。
そこの男はダメダメだけどね》
ノッカーが突然グレンを指さした。
「へ? 俺?」
ヒヒイロカネとノッカーを交互に見ていたグレンが素っ頓狂な声を出した。
《しょっちゅう物を落としたりコケたり。煩くてしょうがない》
「あっ、すんません」
心当たりがあるグレンはぺこぺこと頭を下げた。
《そこの女の子はいつも甘い匂いがして好き。あれは何の匂い?》
ナナの言葉を聞いてミリアは索敵の範囲を出来る限り広くしてみた。
右には幾つかの空間があり、左は分かれ道は分かるがその先が見えない。
鉱石の存在はミリアには分からないが、壁面の中には硬さの違う石があちこちにあるように思えた。
生き物の気配もノッカーらしい気配もしない。
「下に降りるのはどっち?」
「左だ、途中で分かれ道がある」
「なら取り敢えず左の分かれ道まで行ってみましょう」
足元に用心しながら緩い坂道を下っていった。下に降りれば降りるほど空気は冷たく淀み圧迫感が押し寄せて来る。
次の分かれ道で立ち止まった時ふと何かの気配を感じた気がした。
ミリアが意識を集中していると、残念な事に気配が遠ざかってしまった。
(ノッカーかな? でも、岩の中じゃなくて宙に浮いてた気がする)
下に降りる道を選び一行は黙々と歩いて小さな広場に辿り着いた。
「ガンツ、ここは何?」
「休憩場所だな。この後結構深く潜るからよ、飯を食ったり荷物を整理したり」
「ふうん、それで壁にフックがいくつも取り付けてあるのね」
「ああ、休憩中にランプを蹴っ飛ばす奴が結構いるからよお。魔導ランプは高価だってのに」
「ふうん、ねえ私達もちょっと休憩しない? 初めて入った坑道で疲れちゃった」
「しょうがねえなぁ、まあ初めての奴には結構キツいかもな」
ミリアは早速お茶のセットを出してマックスにお湯を頼み、座り込んでお菓子や果物を出していく。
「ガンツ、この山で出ない鉱石ってあるの?」
「大概出るな。宝石もちらほら出ていい値で売れるし、まあヒヒイロカネは出ねえがな」
「ヒヒイロカネねえ、ガンツは見たことあるの?」
ナナとグレンにお菓子を勧めた。今日のメインはアイスを乗せて蜂蜜をかけたゴーフル。
「ねえに決まってんだろ。武器でも見た事ねえよ」
マックスが入れてくれたお茶を受け取り一口飲んだ。最近マックスはお茶を入れる腕前が上がった気がする。
「私持ってるよ」
「「「「はあ?」」」」
「兄さんに幾つか貰ったの。将来武器が必要になったら使えって」
《嘘だね、そんな事あり得ない》
ミリアの背後で声がしてガンツ以外の四人が固まった。
「誰か知らないけど酷くない? 私は嘘なんてつかないもん」
《兄さんって奴に騙されてる! ヒヒイロカネはあの国からは出しちゃいけないって決まってるんだ》
「何事にも例外はあるものよ。ガンツ、これがそのヒヒイロカネ」
ミリアがアイテムバックから取り出した鉱石をガンツに渡すと、全員が目の色を変えて鉱石を見つめヒュッと息を吸い込んだ。
「凄え、これがヒヒイロカネ・・」
《騙されてる! 絶対に嘘だ》
「見に来てみたら? 兄さんは嘘をつかないから」
どこからともなくミリアと同じくらいの背丈の男の子が現れた。
肩の辺りまである濃い茶色の髪は少し汚れ薄いブルーの目をしている。シャツとズボンに編み上げ靴を履いている姿は坑夫とよく似ている。
ガンツが掌に乗せた鉱石をノッカーに差し出すと、仔犬を気にしながら恐る恐る近づいて来たノッカーが鉱石を覗き込んだ。
《本当だ、ヒヒイロカネ。これ頂戴、僕のコレクションに丁度良い》
「うーん、ノッカーにはドワーフが長い間助けて貰ってるって聞いてるしなぁ。
でももう手に入んないかもしれないし・・。
ガンツから借りた杖がすごく使いやすかったから、杖を作るのも良いかなって思ったり」
《ねえ、10分の1でいいんだ。貰うのはそれって決まってる》
ノッカーはミリアの側に来てしゃがみ込んだ。
「でもこれはここで採掘したわけじゃないしなぁ。
そうだ、情報料にしない?」
《情報料?》
キョトンと首を傾げるさまは小さな子供にしか見えない。
「うん、ここで何故喧嘩が起きたのか知りたいの」
《あれは・・意地悪されるから言えないよ》
悲しそうな顔をしながらもヒヒイロカネをチラチラと見ている。
ガンツはノッカーを無視して鉱石を光に透かしたり叩いてみたりと研究に余念がない。
「やっぱりボギーなのね」
《なんだ、知ってたんだ。狡いよ》
「もしかしたらって思ってただけ。さっきもいたでしょう? ほら、分かれ道の先に」
《あいつはしょっちゅう出入りしてる。気を付けないと僕のコレクションを持ってっちゃうんだ》
いくつか鉱石を持っていかれたのだろう。ノッカーはしゃがみ込んだまま溜息をついた。
「足を踏んだのはボギーね。ここには今私達しかいないから大丈夫」
《そうだよ。で、喧嘩がはじまったんだ。喧嘩とか大っ嫌い》
「私もよ、特にここは声が響くでしょうしね」
《そのせいでここはつまんない場所になっちゃったんだ》
「ありがとう。待っててくれて」
《ここのドワーフは優しいから好きなんだ。時々沢山分け前をくれるし、僕の席をちゃんと空けておいてくれる。
そこの男はダメダメだけどね》
ノッカーが突然グレンを指さした。
「へ? 俺?」
ヒヒイロカネとノッカーを交互に見ていたグレンが素っ頓狂な声を出した。
《しょっちゅう物を落としたりコケたり。煩くてしょうがない》
「あっ、すんません」
心当たりがあるグレンはぺこぺこと頭を下げた。
《そこの女の子はいつも甘い匂いがして好き。あれは何の匂い?》
0
お気に入りに追加
960
あなたにおすすめの小説
もう我慢する気はないので出て行きます〜陰から私が国を支えていた事実を彼らは知らない〜
おしゃれスナイプ
恋愛
公爵令嬢として生を受けたセフィリア・アインベルクは己の前世の記憶を持った稀有な存在であった。
それは『精霊姫』と呼ばれた前世の記憶。
精霊と意思疎通の出来る唯一の存在であったが故に、かつての私は精霊の力を借りて国を加護する役目を負っていた。
だからこそ、人知れず私は精霊の力を借りて今生も『精霊姫』としての役目を果たしていたのだが————
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。
もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」
隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。
「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」
三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。
ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。
妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。
本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。
随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。
拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。
妹の事が好きだと冗談を言った王太子殿下。妹は王太子殿下が欲しいと言っていたし、本当に冗談なの?
田太 優
恋愛
婚約者である王太子殿下から妹のことが好きだったと言われ、婚約破棄を告げられた。
受け入れた私に焦ったのか、王太子殿下は冗談だと言った。
妹は昔から王太子殿下の婚約者になりたいと望んでいた。
今でもまだその気持ちがあるようだし、王太子殿下の言葉を信じていいのだろうか。
…そもそも冗談でも言って良いことと悪いことがある。
だから私は婚約破棄を受け入れた。
それなのに必死になる王太子殿下。
お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?
水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」
「はぁ?」
静かな食堂の間。
主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。
同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。
いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。
「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」
「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」
父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。
「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」
アリスは家から一度出る決心をする。
それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。
アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。
彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。
「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」
アリスはため息をつく。
「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」
後悔したところでもう遅い。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
婚約相手と一緒についてきた幼馴染が、我が物顔で人の屋敷で暮らし、勝手に婚約破棄を告げてきた件について
キョウキョウ
恋愛
カナリニッジ侯爵家の一人娘であるシャロットは、爵位を受け継いで女当主になる予定だった。
他貴族から一目置かれるための権威を得るために、彼女は若いうちから領主の仕事に励んでいた。
跡継ぎを産むため、ライトナム侯爵家の三男であるデーヴィスという男を婿に迎えることに。まだ婚約中だけど、一緒の屋敷で暮らすことになった。
そしてなぜか、彼の幼馴染であるローレインという女が一緒についてきて、屋敷で暮らし始める。
少し気になったシャロットだが、特に何も言わずに受け入れた。デーヴィスの相手をしてくれて、子作りを邪魔しないのであれば別に構わないと思ったから。
それからしばらく時が過ぎた、ある日のこと。
ローレインが急に、シャロットが仕事している部屋に突撃してきた。
ただの幼馴染でしかないはずのローレインが、なぜかシャロットに婚約破棄を告げるのであった。
※本作品は、少し前に連載していた試作の完成版です。大まかな展開や設定は、ほぼ変わりません。加筆修正して、完成版として連載します。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる