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ハーミット王国、ドワーフの里へ
28.晴れ渡る空の下で畑仕事
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「すみません。魔法が暴発して、ここまでやるつもりはなかったんですけど」
「嘘をお言い、アンタは暴発するのを知ってたくせに」
「まあ、それはその。でも【フレアブレス】を本気で使ったのは初めてで」
炎の魔法はかなりの確率で大暴走するのを知っていたミリアは、それを逆手に取って『大暴走すれば威力は増すから』と心置きなくぶっ放した。
「しょうがないねえ、セリーナに免じてなんとかしてやるよ。このままじゃどうにもなんないし」
ヘルが両手を広げ腕輪が涼やかな音を立てると、焼け野原に草や木が生え揃い可憐な花が所構わず咲き綻んでいった。
その後ヘルが死者蘇生を使ったのだろうか、野生動物達や魔物達が走り去って行った。
「先程からお話に出ているセリーナと言うのはもしかして・・」
「そう、アンタの母親。ニヴルヘイムに父親と一緒にいるよ。
アンタの物怖じしないとこなんてムカつくくらいセリーナにそっくり」
そう言って苦笑いを浮かべるヘルの目はとても綺麗で輝いていた。
「母さん・・」
「アンタは母親の力を受け継いでる。上手く使いこなせてないみたいだけどね。
その点ウォーカーは上手くやってるみたいだね。
二人は喜んだりハラハラしたりで、側で見てて面白すぎて」
「二人はその、元気にしてるんですか?」
「ニヴルヘイムにいる奴を元気って言って良いのかは悩むとこだけど、元気過ぎてしょっちゅう文句を言いにくる」
何かを思い出したのかヘルがとても楽しそうケラケラと声を上げて笑った。
「ニーズヘッグにはフレースヴェルグと仲良く喧嘩してろって言っておくさ。
でもラタトスクが疲れ果てて苦情を言いに来るのもいい加減面倒だしなあ」
ヘルの姿がキラキラと光った後薄く透けていき消えていった。
「やった・・みんな生きてる」
「アホか、やったのはミイ一人。俺らは見てただけだろうがよ。
ミリア、ありがとうな」
「いえ、ペリのお陰です。彼の魔方陣凄いですね」
「彼? ペリって男だったんだ」
「ええ、凄く綺麗だった」
「そっそうか、でも妖精だしな」
マックスが空元気を出してヘラヘラ笑うと、
「マックス、ペリはな人間と結婚した奴もいるって聞いてるぜ」
「はえ? マジっすか? ミイ、妖精は駄目だからな。ウォーカーだって絶対反対するに決まってる!」
二人の四方山話をスルーして、ミリアはニヴルヘイムにいると言う両親に想いを馳せていた。
ドワーフの里へは山の頂上近くの洞窟を抜け、切り立った岩肌に張り付くようにして下っていく。
子供が一人通れるくらいの岩の切れ目から中に入ると、下に降って行く真っ暗な道があった。
「これ、おっさん達が掘ったんすか?」
「おう、うんと昔のドワーフの力作よ。人間が通るのはお前らが初めてだろうな」
延々と続く道に不安を覚えた頃、目の前が突然明るくなった。
「おー、地面がある。良かった、二度とお日様に会えないかと」
高い木々に覆われた中で漸く休憩をとることができた。
ミリアは何種類かのお菓子を出してマックスにお湯を沸かしてもらう。
「昼飯は洞窟歩きながらだったから、明るい中で食うおやつは絶品ですね」
「マックス、鍛冶屋になりてえんだったらもっと洞窟に慣れろや。
里に着いたら鍛え直しだな」
ニマニマと笑うガンツと苦笑いのマックス。
「こういう菓子に合う酒があるんだよなあ」
「また酒っすか、ドワーフって本当に酒好きですねえ」
「こっからなら夕方には着けんだろ。さっさと行くか」
荷物を片付けて三時間程度。視界を遮っていた木々が突然なくなり柵に囲まれた畑とそこで働くドワーフ達の姿が見えた。
「ガンツじゃねえか。ここに人間を連れてくるたぁどういう了見だ!」
ミリア達を見つけたドワーフの一人が持っていた鍬を振り回しながら走ってきた。
「よう、グレンじゃねえか。久しぶりなのに随分な出迎えだな」
「長老んとこに連れて行くぞ。おい、お前らコイツらをふん縛っちまえ」
グレンの後からぞろぞろとやって来たドワーフ達がミリア達三人を縄で拘束し、畑の向こうに見えていた家の方に歩き出した。
「最近はどんな調子だ?」
「・・」
ガンツが話しかけるが誰も返事をしない。
ドワーフの女と子供は一箇所に固まりミリア達をジロジロ見ているが、目が合うと慌てて顔を逸らす。
よほど人間が嫌いなのだろう。
「ガンツ、何故人間なんぞを連れてきた」
ドワーフの長老の家は里の一番奥、広場に面した二階建ての大きな建物だった。
玄関を入ると横に広いテーブルが置かれ、十数個の低い椅子が並んでいる。
壁一面には鮮やかな風景画のタペストリーが飾られている。
右手には台所があるのかエプロン姿のドワーフが顔を覗かせていた。その足元にはエプロンの端を握った子供のドワーフが親指を咥えている。
ミリア達を連れたグレンは左側のカーテンをくぐり大きなクッションに座っているドワーフに声をかけた。
広い部屋には大きな窓があり、広場や里の様子がよく見える。
壁の棚には様々な武器や防具が飾られており、マックスが目をキラキラ輝かせていた。
「長老、ガンツが人間をこの里に連れて来やがった」
「・・ガンツ、なんで帰ってきた? お前は二度と里には戻らんと言っとったと思うたが」
「マルツ久しぶり。まあ色々とな。
今日はいい天気だが、ついさっきまで荒れてたんじゃねえのか?」
「随分長い事雪と氷に閉じ込められておったがな、漸く晴れたんで総出で畑の手入れじゃ」
「で、ノッカーは戻ってきたのか?」
「・・」
「嘘をお言い、アンタは暴発するのを知ってたくせに」
「まあ、それはその。でも【フレアブレス】を本気で使ったのは初めてで」
炎の魔法はかなりの確率で大暴走するのを知っていたミリアは、それを逆手に取って『大暴走すれば威力は増すから』と心置きなくぶっ放した。
「しょうがないねえ、セリーナに免じてなんとかしてやるよ。このままじゃどうにもなんないし」
ヘルが両手を広げ腕輪が涼やかな音を立てると、焼け野原に草や木が生え揃い可憐な花が所構わず咲き綻んでいった。
その後ヘルが死者蘇生を使ったのだろうか、野生動物達や魔物達が走り去って行った。
「先程からお話に出ているセリーナと言うのはもしかして・・」
「そう、アンタの母親。ニヴルヘイムに父親と一緒にいるよ。
アンタの物怖じしないとこなんてムカつくくらいセリーナにそっくり」
そう言って苦笑いを浮かべるヘルの目はとても綺麗で輝いていた。
「母さん・・」
「アンタは母親の力を受け継いでる。上手く使いこなせてないみたいだけどね。
その点ウォーカーは上手くやってるみたいだね。
二人は喜んだりハラハラしたりで、側で見てて面白すぎて」
「二人はその、元気にしてるんですか?」
「ニヴルヘイムにいる奴を元気って言って良いのかは悩むとこだけど、元気過ぎてしょっちゅう文句を言いにくる」
何かを思い出したのかヘルがとても楽しそうケラケラと声を上げて笑った。
「ニーズヘッグにはフレースヴェルグと仲良く喧嘩してろって言っておくさ。
でもラタトスクが疲れ果てて苦情を言いに来るのもいい加減面倒だしなあ」
ヘルの姿がキラキラと光った後薄く透けていき消えていった。
「やった・・みんな生きてる」
「アホか、やったのはミイ一人。俺らは見てただけだろうがよ。
ミリア、ありがとうな」
「いえ、ペリのお陰です。彼の魔方陣凄いですね」
「彼? ペリって男だったんだ」
「ええ、凄く綺麗だった」
「そっそうか、でも妖精だしな」
マックスが空元気を出してヘラヘラ笑うと、
「マックス、ペリはな人間と結婚した奴もいるって聞いてるぜ」
「はえ? マジっすか? ミイ、妖精は駄目だからな。ウォーカーだって絶対反対するに決まってる!」
二人の四方山話をスルーして、ミリアはニヴルヘイムにいると言う両親に想いを馳せていた。
ドワーフの里へは山の頂上近くの洞窟を抜け、切り立った岩肌に張り付くようにして下っていく。
子供が一人通れるくらいの岩の切れ目から中に入ると、下に降って行く真っ暗な道があった。
「これ、おっさん達が掘ったんすか?」
「おう、うんと昔のドワーフの力作よ。人間が通るのはお前らが初めてだろうな」
延々と続く道に不安を覚えた頃、目の前が突然明るくなった。
「おー、地面がある。良かった、二度とお日様に会えないかと」
高い木々に覆われた中で漸く休憩をとることができた。
ミリアは何種類かのお菓子を出してマックスにお湯を沸かしてもらう。
「昼飯は洞窟歩きながらだったから、明るい中で食うおやつは絶品ですね」
「マックス、鍛冶屋になりてえんだったらもっと洞窟に慣れろや。
里に着いたら鍛え直しだな」
ニマニマと笑うガンツと苦笑いのマックス。
「こういう菓子に合う酒があるんだよなあ」
「また酒っすか、ドワーフって本当に酒好きですねえ」
「こっからなら夕方には着けんだろ。さっさと行くか」
荷物を片付けて三時間程度。視界を遮っていた木々が突然なくなり柵に囲まれた畑とそこで働くドワーフ達の姿が見えた。
「ガンツじゃねえか。ここに人間を連れてくるたぁどういう了見だ!」
ミリア達を見つけたドワーフの一人が持っていた鍬を振り回しながら走ってきた。
「よう、グレンじゃねえか。久しぶりなのに随分な出迎えだな」
「長老んとこに連れて行くぞ。おい、お前らコイツらをふん縛っちまえ」
グレンの後からぞろぞろとやって来たドワーフ達がミリア達三人を縄で拘束し、畑の向こうに見えていた家の方に歩き出した。
「最近はどんな調子だ?」
「・・」
ガンツが話しかけるが誰も返事をしない。
ドワーフの女と子供は一箇所に固まりミリア達をジロジロ見ているが、目が合うと慌てて顔を逸らす。
よほど人間が嫌いなのだろう。
「ガンツ、何故人間なんぞを連れてきた」
ドワーフの長老の家は里の一番奥、広場に面した二階建ての大きな建物だった。
玄関を入ると横に広いテーブルが置かれ、十数個の低い椅子が並んでいる。
壁一面には鮮やかな風景画のタペストリーが飾られている。
右手には台所があるのかエプロン姿のドワーフが顔を覗かせていた。その足元にはエプロンの端を握った子供のドワーフが親指を咥えている。
ミリア達を連れたグレンは左側のカーテンをくぐり大きなクッションに座っているドワーフに声をかけた。
広い部屋には大きな窓があり、広場や里の様子がよく見える。
壁の棚には様々な武器や防具が飾られており、マックスが目をキラキラ輝かせていた。
「長老、ガンツが人間をこの里に連れて来やがった」
「・・ガンツ、なんで帰ってきた? お前は二度と里には戻らんと言っとったと思うたが」
「マルツ久しぶり。まあ色々とな。
今日はいい天気だが、ついさっきまで荒れてたんじゃねえのか?」
「随分長い事雪と氷に閉じ込められておったがな、漸く晴れたんで総出で畑の手入れじゃ」
「で、ノッカーは戻ってきたのか?」
「・・」
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