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ハーミット王国、ドワーフの里へ

24.えっ? 登っていいの?

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「俺はミリ・・ミイがいなくなって半年くらいの頃。シスターがおやっさんの噂を教えてくれて」


 ミリアがウォーカーと出発した後マックスは荒れて色々な所で喧嘩を売りまくったり、落ち込んで納屋に閉じこもったりしていた。

 そして、鍛冶屋の仕事を首になった。


 それからますます荒れていくマックスの様子を見かねたシスターがあちこちの教会に問い合わせをして、ハーミット王国にドワーフがいると言う噂を聞きつけた。


「マックス、いい加減にしなさい! いじけててもミリアは帰ってこないのよ」

「・・」

「ミリアが最後に言ってた言葉覚えてる?
すごい武器作ってねって」

「・・」

「ハーミット王国にドワーフが工房を開いてるらしいわよ。
マックスがすごい武器を作ったら、ミリアならおめでとうって会いに来てくれるんじゃないかしら」


「俺、ハーミットに行く。すごい武器作ってミリアを迎えに行く」



 シスターの手配でハーミットへ行く商隊の馬車に乗せてもらえたマックスは、街についてすぐ街中を必死で探し回りガンツの工房を見つけた。

 ところがガンツに『弟子は取らねえ』と門前払いを食らい話さえ聞いてもらえなかった。

 マックスはその日から何日も玄関前に座り込み、なんとか粘り勝ちして弟子見習いにしてもらえた。


「弟子じゃなく、弟子見習いだよ。
あれから六年近く経ってるのに今でも弟子見習い」


「頑張ってるねマックス。凄いよ」


 複雑な思いを胸に秘めたままにっこりと笑い合う二人に、

「おい、さっさと出発するぞ」

 空気を読めないガンツが立ち上がった。




「想像はしてたけどな、野宿だろ?
ほらここはよぉ、平原で木がなーんも生えてねえだろ?
そういう時は干し肉齧って夜空を見ながら明日は・・とかってな」


 ミリアが魔物除けと鳴子を設置して枝と薪を出した時点で、ガンツが遠い目をして語りはじめた。


「マックス火ってつけられる?」

「うん、ミイは?」

「つけてもいいけど失敗するから」


 ミリアとマックスの長閑な会話が続いていた。


「折角だからお肉焼こうか、美味しそうなのがあったから。
ソーセージも焼く?」

 焼いた肉に塩と胡椒を振り、パンとお昼のスープの残りを出した。

「ガンツさん、お野菜も焼いたんでどうぞ。タレは甘いのと辛いのはどっちが良いですか?
後でオレンジ剥きますね」


 ガンツは手に持った皿を見つめ、

「・・うちで食うより豪華とか。もう普通の野宿が出来ねえ身体になりそうだぜ」

「おやっさん、いつも飯の当番は俺なんすけど」

「ならお前はいつもの方が良いのか?」

「いや、今日のが良いです」


 美味しい食事をお腹いっぱいに食べて、交代で見張りをしながらぐっすりと眠りについた。


(そういやぁ、魔物どころか野生動物にも会わねえな)




 翌日小高い山を登っている時ミリアが異変に気がついた。

「ガンツさん、左前方にCランクの魔物です。多分トロール・・四体だと思います。
こっちが風上なのでもう見つかってると・・こっちに来ます!」


 ガンツとマックスが武器を手にした。ミリアも折角ガンツが貸してくれたので杖を持ってみた。


(すごく持ちやすい、これがドワーフの武器)


「マックス、コイツは回復しやがる! 一気に行くぞ」

「はい!」


 武器を構えてトロールを待ち受ける二人。

 バキバキと枝の折れる音を立てながらトロールが巨大な姿を表した。

 ガンツとマックスは恐らく接近戦がメインだと予想したミリアは、

「魔法、行きます!」

と、【アイスカッター】を連打し四体のトロールの右腕を切り落とすと、トロールは痛みのせいで膝をついた。


 走り出したマックスが一体の首を切り落とし、ガンツはもう一体の頭を斧でかち割る。
 ミリアは残った二体の首を狙って【アイスカッター】を打つと、トロールの首がゴロリと転げ落ちた。


 その後、トロールの死体をマックスが焼き払い再び山を登りはじめた。


「ミイ、お前一人でもトロールやっつけれたんじゃねえのか? 得意なのは氷魔法か?」

 ガンツがミリアに聞いてきた。


「得意なのは水と風です。どちらも薬草作りには必須なのでよく使いますから」

「なら火も使うだろうが」

「使えますけど暴走することの方が多くて。この間はギルドの屋根に大穴開けちゃいました」


 ミリアはギルドの訓練場の屋根を思い出して苦笑いした。


「結界ぶち壊したのか? そいつはやべえな」





 野宿をはじめて六日目。

 ここまでで戦闘は三回、いずれもCランクの魔物に遭遇したが一人も怪我をする事なく無事に旅を続けている。

(ほんとに弱い魔物が出てこねえよなあ)



 ミリアの準備する突拍子もない野営にガンツがようやく慣れた頃、今回最大の難所である雪山が前方に見えてきた。

 かなり高い山で大きく裾野が広がっている。しかも山の頂上辺りは雲に隠れて見えなくなっている。


 この山は霊峰として崇められており、山の中腹に第三神殿が建てられている。
 各地から敬虔な信者が巡礼に訪れる霊験あらたかな神殿として有名だとガンツが教えてくれた。

 第三神殿までは一応登山道に近い杣道があるが、そこから先は険しい山道を進むことになる。


「ここは山の真ん中あたりから突然寒くなって、てっぺんに近いあたりじゃ雪が年中積もってる。
山の機嫌が悪けりゃ吹雪になるから覚悟しろよ」

「おやっさん、霊峰とかって勝手に山登りしていいんですか?」


 山を見上げていたマックスがガンツの話を聞いて首を傾げた。


「良いわけねえだろう、あほか」

「えっ、でも登るんですよね」

「ああ、こっそりとな。捕まったら牢に入れられちまう、用心しろよ」





「これから三人は犯罪者になるってこと? 俺まだ真面な武器打ててないのに・・」

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