上 下
25 / 149
ハーミット王国、ドワーフの里へ

23.おやっさんのロマンが

しおりを挟む
「すみません! 申し遅れました。ギルドからノッカーの件でご依頼されたと聞き伺いました、ミイと申します」

「は?」「ミイ?」

 マックスが顔色を変えた。




「いやー、すまねえなぁ。てっきりこいつが女の子連れ込んだのかと」

「こちらこそ挨拶もせず座り込んでしまって」

「しっかし、こんなちびっこいねーちゃんがねぇ」

(ドワーフにちびっこいって言われると、なんかすっごいモヤモヤする)


「あんたがノッカーを見つけられるってか?」

「出来るかどうか分からないのですが試してみたいんです。
お話をお伺いできますか?」


「はあ、だよな。精霊使いなんてSランクのアレンしか聞いことねえもんなあ。
俺っちが武器やるっつうたら来ねえかなあ」

「おやっさん」

「まあええ、試してみる分には損はねえしよ」


 ノッカーは鉱山に棲み鉱夫と同じ服装をしている悪戯好きな妖精。

 ドワーフ達が穴を掘っている時、「コンコン」と岩肌を叩き、ドワーフ達に良質の鉱脈や危険を知らせてくれるのでノッカー叩く者と名前がついた。

 採掘した鉱石の「10分の1」を分け前として渡し、機嫌のいい時や気前の良い者の前には顔を見せてくれることもある。


 ノッカーとの約束は、
 ・家を探さない
 ・坑道の中では怒鳴り声を上げない
 ・口笛を吹かない
 ・十字を切らない


 質の良い鉱脈を教えてくれる彼らに対し敬意を表して、ドワーフは小休止の際には彼らのために席を開けていた。


「ところがこのルールを破った馬鹿野郎がいてよ、鉱山の中で喧嘩をおっぱじめやがった。
それ以来ノッカーの気配がしなくなっちまった。
お陰でクズ鉱石しか見つけられやしねえ。
ドワーフが石を手に入れられなきゃ生きてけねえ」

「その鉱山ってここから近いんですか?」

「いや、ドワーフの里だから結構距離がある。ドワーフ以外の奴には行き着けねえしな」


「ではガンツさんも同行して下さるのですか?」

「おう、それしかねえな」



 それから準備をはじめた。ミリアは殆どの荷物(野営の道具)を持っていたが、足りない食料や防寒着の準備を行った。

 何でも途中雪山を通過するらしい。



 二日後、約束の時間にガンツの工房を訪ねると玄関に巨大なリュックが置いてあり、斧を持ったガンツと剣を下げたマックスが待っていた。

「荷物はこれだけですか?」

「おう、あんたの荷物は外か?」

「いえ、アイテムバックがあるので。このリックも入れちゃって良いですか?」

「マジか! そりゃ助かる。あんたの武器もバックの中か?」

「武器・・は持ってないんで。でも大丈夫ですから」


 ガンツが青筋を立て怒鳴り始めた。


「はあ? お前巫山戯てんのか? 武器なしでどうやって戦うんだよ!
そういやあ、あんたの職業聞いてなかったな」

「薬師です」


「・・使えねえな。ただのお荷物じゃねえか」

「あっ、戦えます。一応魔法使えるんで足手纏いにはなりませんから」


「貧乏で武器が買えなかったって事か? ちょっと待ってな」


 ガンツは奥の部屋にドタドタと走って行った。

「ミリア、魔法使いなんだ」

「そんな立派なもんじゃないわ。ただの薬師なだけ」

(だからいつまで経っても兄さん達のパーティーには参加できないの)


 奥からガタガタと金属の触れ合う音がして、
「おっかしいなあ、どこやったんだ? くそ!」
と、苛立ったガンツの声が聞こえてきた。


「おやっさんはあれが通常運転だから」

 マックスが苦笑いを浮かべている。


「大丈夫、もうだいぶ慣れたかも」


「おー!」と言う叫び声が聞こえてきたかと思うと、ガンツが一本の杖を持って走り出してきた。

「ちびっこ用の杖を探してた。ちっこいが俺っちの作った武器だからな」


 ガンツは自慢げな顔でミリアに杖を渡してくれた。

「お借りします」



 ガンツとマックス、ミリア(とこっそりついて来たディー)はドワーフの里へ向けて出発した。


 駅馬車に乗り森を抜け、最初の二日は宿に泊まることができた。

「あのおっちゃん、ミリアの事ちびっこって言うからなんか笑っちゃった」

「ドワーフって初めて会ったの。みんなあんな感じなのか、里に着くのがすっごく楽しみ」


 夜は女子トークに花を咲かせ、着々と里に近づいている・・と、思っていた。


「こっからはずっと野宿が続くからよ。足りないもんがあったらここで買っとけよ。
マックスは食料買ってきな」

「何日くらいかかるか分からないのでアレなんですけど、食料結構準備してきたんで」

「? もしかしてあんたのアイテムバックなら腐らねえ? よっしゃあ、なら飯の心配はねえな。買うもん買ったらとっとと出発するぜ」




「なあ、これがメシか?」

「お口にあいませんか?」

「いや、焼きたての串焼きだよな。こっちは鍋ごと出てきたスープだな。
パンもホカホカで」

「おやっさん、細かい事はいいじゃないですか。ラッキーって事で」


「なんか納得いかねえ。こういう時は干し肉齧ってだな・・男のロマンが」

 ガンツが一人でぶつぶつと呟いている。慣れっこになっている二人は呑気に話をはじめた。


「いつハーミットに来たの?」

「一週間くらい前かな。マックスは?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

もう我慢する気はないので出て行きます〜陰から私が国を支えていた事実を彼らは知らない〜

おしゃれスナイプ
恋愛
公爵令嬢として生を受けたセフィリア・アインベルクは己の前世の記憶を持った稀有な存在であった。 それは『精霊姫』と呼ばれた前世の記憶。 精霊と意思疎通の出来る唯一の存在であったが故に、かつての私は精霊の力を借りて国を加護する役目を負っていた。 だからこそ、人知れず私は精霊の力を借りて今生も『精霊姫』としての役目を果たしていたのだが————

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。

もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」 隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。 「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」 三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。 ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。 妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。 本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。 随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。 拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。

妹の事が好きだと冗談を言った王太子殿下。妹は王太子殿下が欲しいと言っていたし、本当に冗談なの?

田太 優
恋愛
婚約者である王太子殿下から妹のことが好きだったと言われ、婚約破棄を告げられた。 受け入れた私に焦ったのか、王太子殿下は冗談だと言った。 妹は昔から王太子殿下の婚約者になりたいと望んでいた。 今でもまだその気持ちがあるようだし、王太子殿下の言葉を信じていいのだろうか。 …そもそも冗談でも言って良いことと悪いことがある。 だから私は婚約破棄を受け入れた。 それなのに必死になる王太子殿下。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

処理中です...