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逃走、ハーミット王国へ
20.焼き菓子は最強
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「良いわよ、無駄な努力だと思うけどね。目を瞑ってて、近くまで飛ぶから」
ミリアが目を瞑ると転移の魔法陣に飲み込まれた時のようなグラグラと揺れるような感じがした。その後周りの匂いが濃厚な森の匂いに変わった。
「良いわよ、目を開けても。この先にあいつらは住み着いてる。あたしはここまで」
「分かった。行って話してみるわね」
「気をつけてね。その・・あいつらは気に入らない事があるとすぐ・・おし○こかけてくるから。爪も」
赤い顔をしたドリアードが小声で教えてくれた。
ドリアードの指差す方に歩いて行く。
背の高い木々が真っ直ぐ空に向けて伸び青々とした下草が生えている。少し青臭い草の匂いと肥えた土の匂い。
木々の間を爽やかな風が通り過ぎていく。
(同じ森でも匂いが全然違うのね)
『モンストルムの森』は湿った草の匂いや苔むした土の濃い匂いがする。
乾いた落ち葉をカサカサと踏みながら歩いて行くと大きく開けた場所に出た。
静まりかえった広場に虫の声が響き、爽やかな風にほのかに動物の糞尿の臭いが混じっている。
(ケット・シー達は出かけてる?)
陽だまりでのんびり昼寝する猫達を想像していたミリアの予想に反し猫がいない。
(いる、周りに・・七匹。ケット・シーはいなさそうだけど)
広場の真ん中にしゃがみ込んだミリアは、アイテムバックから木でできた皿と干しダラを出して草の上に置いた。
魚の匂いに釣られた猫がふんふんと鼻を鳴らしながら近付いてきた。
「駄目よ、これはあなた達の王様への貢物なんだから。
あなた達は王様の後ね。
王様より先にご馳走を食べたら叱られるわよ」
「よく知ってるじゃん」
ミリアの後ろから少しガラガラとした男の子の声が聞こえてきた。
「人間にしては知恵があるのかな。俺様に比べたらほんのちょっぴりだけどね」
ゆっくりと立ち上がり振り返ったミリアの直ぐ後ろにケット・シーが二本足で立っていた。
「そうね、ケット・シーはとても頭がいいって言うものね」
「その通りさ。俺様は海の向こうの言葉も喋れるんだぜ?」
小柄なミリアの太もも辺りくらいの背丈で、腰に手を当てて胸を張ったケット・シーはミリアを物珍しげに見ている。
「凄い、海の向こう? 私は海さえ見た事がないわ」
「人間なんてくだらないね。
馬なんかに頼らないと遠くに行けない。
馬って大馬鹿なのに」
「そうなの? 馬とは話した事がないから。でもとっても優しいし、ちゃんとお願いしたら聞いてくれるから大好きよ。
ここだけの話だけどね、お礼に時々お砂糖をあげるの」
「・・砂糖?」
「そう、あの甘いお菓子とか作る砂糖」
「・・お菓子」
ミリアはアイテムバックからコンフェッティを出した。
「これは私の大切な人が焼いてくれたんだけど、すごく甘くて中にナッツも入ってて大好物なの」
「ふっふーん。別に羨ましくもないけど? 貢物にするって言うなら貰ってやってもいいけど?」
プイッと横を向いたケット・シーが意地になって言う。
「これは貢物には出来ないわ、だってあなたの事何も知らないし。
別に何もお願いしてないしね。
あっちのは会えてお話しできたらいいな・・の貢物よ。
じゃあ私はこれで失礼するわね」
「なっ何だよ! 俺様に会ったのにお願いもないのか?」
「そうねぇ、お願いはないけど・・質問ならあるわ」
ミリアは手に持ったコンフェッティをそのままでにっこり笑った。
ケット・シーの目はコンフェッティに釘付けになっていて涎が垂れかけている。
「言ってみろ、俺様なら何でも答えられるからな」
「どうしてトレントにおし○こをかけるの?」
「は? トレント?」
コンフェッティから目を離したケット・シーが目を丸くしてミリアを見た。
「そう、トレント。頭の良いあなたが何で態々そんなことするのかしら? って不思議だから聞きにきたの」
「お前、あのお間抜けドリアードの手先だな!」
ケット・シーが後ろに飛び退いた。
「手先じゃなくて、いつか友達になりたいなあって思ってる知り合いね」
「アイツらは大馬鹿で大間抜けなんだぞ? あんな奴と友達になりたいのかよ」
「ええ」
「・・アイツら間抜けでイライラするんだ。だからアイツらが悪い!」
「なーんだ、ただの意地悪なのね。つまんない、わざわざ来たのにガッカリだわ」
「なっな! おまっお前、俺様のことをつまんないだと?」
『はぁ』と大きな溜息をついて俯いたミリアは手に持ったコンフェッティをガブリ。
「あっ、それ」
「だって仲間に意地悪する妖精・・超ショックだわ」
「トレントは仲間なんかじゃない」
「同じ生き物でしょ? 私は薬師なの。だから意地悪する妖精とはちょっと・・遠慮したいかなって」
「意地悪で病気にはなんないだろ?」
「なるわよ、心の病気。嫌な気分になったり悲しい事が続くと心が病気になるの。
頭の良いケット・シーなら知ってるでしょ?」
「えっ、ああ知ってる」
「なのに意地悪してたのよね。そういう妖精と薬師は合わないから、帰りますね」
残りのコンフェッティをボリボリと食べ尽くしミリアは帰りかけた。
「もうやめる! 意地悪しないし、この場所も返す。だからその菓子をくれ。
んで、俺とも友達に・・その」
「約束? 絶対の絶対に破らないって誓える?」
「ああ、猫の王として宣言する。絶対に意地悪しない」
「判断は相手に任せる?」
「分かった、奴らが嫌だって言ったら絶対しない」
ケット・シーに山盛りの色々なお菓子をプレゼントした。
ミリアが目を瞑ると転移の魔法陣に飲み込まれた時のようなグラグラと揺れるような感じがした。その後周りの匂いが濃厚な森の匂いに変わった。
「良いわよ、目を開けても。この先にあいつらは住み着いてる。あたしはここまで」
「分かった。行って話してみるわね」
「気をつけてね。その・・あいつらは気に入らない事があるとすぐ・・おし○こかけてくるから。爪も」
赤い顔をしたドリアードが小声で教えてくれた。
ドリアードの指差す方に歩いて行く。
背の高い木々が真っ直ぐ空に向けて伸び青々とした下草が生えている。少し青臭い草の匂いと肥えた土の匂い。
木々の間を爽やかな風が通り過ぎていく。
(同じ森でも匂いが全然違うのね)
『モンストルムの森』は湿った草の匂いや苔むした土の濃い匂いがする。
乾いた落ち葉をカサカサと踏みながら歩いて行くと大きく開けた場所に出た。
静まりかえった広場に虫の声が響き、爽やかな風にほのかに動物の糞尿の臭いが混じっている。
(ケット・シー達は出かけてる?)
陽だまりでのんびり昼寝する猫達を想像していたミリアの予想に反し猫がいない。
(いる、周りに・・七匹。ケット・シーはいなさそうだけど)
広場の真ん中にしゃがみ込んだミリアは、アイテムバックから木でできた皿と干しダラを出して草の上に置いた。
魚の匂いに釣られた猫がふんふんと鼻を鳴らしながら近付いてきた。
「駄目よ、これはあなた達の王様への貢物なんだから。
あなた達は王様の後ね。
王様より先にご馳走を食べたら叱られるわよ」
「よく知ってるじゃん」
ミリアの後ろから少しガラガラとした男の子の声が聞こえてきた。
「人間にしては知恵があるのかな。俺様に比べたらほんのちょっぴりだけどね」
ゆっくりと立ち上がり振り返ったミリアの直ぐ後ろにケット・シーが二本足で立っていた。
「そうね、ケット・シーはとても頭がいいって言うものね」
「その通りさ。俺様は海の向こうの言葉も喋れるんだぜ?」
小柄なミリアの太もも辺りくらいの背丈で、腰に手を当てて胸を張ったケット・シーはミリアを物珍しげに見ている。
「凄い、海の向こう? 私は海さえ見た事がないわ」
「人間なんてくだらないね。
馬なんかに頼らないと遠くに行けない。
馬って大馬鹿なのに」
「そうなの? 馬とは話した事がないから。でもとっても優しいし、ちゃんとお願いしたら聞いてくれるから大好きよ。
ここだけの話だけどね、お礼に時々お砂糖をあげるの」
「・・砂糖?」
「そう、あの甘いお菓子とか作る砂糖」
「・・お菓子」
ミリアはアイテムバックからコンフェッティを出した。
「これは私の大切な人が焼いてくれたんだけど、すごく甘くて中にナッツも入ってて大好物なの」
「ふっふーん。別に羨ましくもないけど? 貢物にするって言うなら貰ってやってもいいけど?」
プイッと横を向いたケット・シーが意地になって言う。
「これは貢物には出来ないわ、だってあなたの事何も知らないし。
別に何もお願いしてないしね。
あっちのは会えてお話しできたらいいな・・の貢物よ。
じゃあ私はこれで失礼するわね」
「なっ何だよ! 俺様に会ったのにお願いもないのか?」
「そうねぇ、お願いはないけど・・質問ならあるわ」
ミリアは手に持ったコンフェッティをそのままでにっこり笑った。
ケット・シーの目はコンフェッティに釘付けになっていて涎が垂れかけている。
「言ってみろ、俺様なら何でも答えられるからな」
「どうしてトレントにおし○こをかけるの?」
「は? トレント?」
コンフェッティから目を離したケット・シーが目を丸くしてミリアを見た。
「そう、トレント。頭の良いあなたが何で態々そんなことするのかしら? って不思議だから聞きにきたの」
「お前、あのお間抜けドリアードの手先だな!」
ケット・シーが後ろに飛び退いた。
「手先じゃなくて、いつか友達になりたいなあって思ってる知り合いね」
「アイツらは大馬鹿で大間抜けなんだぞ? あんな奴と友達になりたいのかよ」
「ええ」
「・・アイツら間抜けでイライラするんだ。だからアイツらが悪い!」
「なーんだ、ただの意地悪なのね。つまんない、わざわざ来たのにガッカリだわ」
「なっな! おまっお前、俺様のことをつまんないだと?」
『はぁ』と大きな溜息をついて俯いたミリアは手に持ったコンフェッティをガブリ。
「あっ、それ」
「だって仲間に意地悪する妖精・・超ショックだわ」
「トレントは仲間なんかじゃない」
「同じ生き物でしょ? 私は薬師なの。だから意地悪する妖精とはちょっと・・遠慮したいかなって」
「意地悪で病気にはなんないだろ?」
「なるわよ、心の病気。嫌な気分になったり悲しい事が続くと心が病気になるの。
頭の良いケット・シーなら知ってるでしょ?」
「えっ、ああ知ってる」
「なのに意地悪してたのよね。そういう妖精と薬師は合わないから、帰りますね」
残りのコンフェッティをボリボリと食べ尽くしミリアは帰りかけた。
「もうやめる! 意地悪しないし、この場所も返す。だからその菓子をくれ。
んで、俺とも友達に・・その」
「約束? 絶対の絶対に破らないって誓える?」
「ああ、猫の王として宣言する。絶対に意地悪しない」
「判断は相手に任せる?」
「分かった、奴らが嫌だって言ったら絶対しない」
ケット・シーに山盛りの色々なお菓子をプレゼントした。
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