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逃走、ハーミット王国へ

13.モンストルムの森

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 転移してきた森の中はまだ充分に明るかった。木々の間からは日差しが差し込み、風にそよぐ葉をキラキラと輝かせている。
 人の手の入っていない森は湿った落ち葉とよく肥えた土の匂いがした。


 慣れた森でも魔獣の彷徨く中で一人野宿は出来ない。
 ミリアは周りに人がいないのを良い事に、アイテムバックから冒険者用の着替えを出して着替えはじめた。

 麻のシャツとズボンに胸当てをつけてハイブーツを履いた。
 上着を羽織って腰にポーションの入った小さなバックをつける。


 記憶を辿りながら森の中をなるべく音を立てないよう用心しながら進んでいった。

 ミリアは魔力がかなり多いので弱い魔物は逃げて行く。
 魔物の気配がしたらBランク以上だと思って間違いない。


 夕闇が迫る頃漸く目的の洞穴を見つけた。思ったより時間がかかったので方向を間違えているのかと不安になっていた。

(良かった、何とか辿り着けた)


 洞穴の入り口は人が一人通れるくらいの大きさだが、中はかなり広い。

 ここは『モンストルムの森』の中に作った拠点の一つで、入り口には隠蔽の魔法が掛けられている。

 魔物や野生動物が侵入していないか用心しながら中に進んで行った。

(隠蔽の魔法も魔物除けもまだちゃんと効いてるみたい)


 念の為空気穴を残して入り口を中から塞ぎ魔物除けと鳴子を置き、洞穴の奥に戻って寝床と夕食の準備をはじめた。


 毛布を出して広げ魔導ランプの灯りでパンと干し肉を齧る。
 今夜はコップに入れた水で終わり。

(あったかいシチューとかも入れておけば良かった。明日の朝は絶対あったかいお茶を入れるわ!)

 ミリアは火の加減が未だに苦手なので洞穴の中では危なすぎて使えない。


(もっと練習したほうがいいわよね)


 火以外の魔法ならコントロールに自信があるが何故か火だけは上手くいかず、大暴走することがある。

 薬草作りの際にもコンロの火を見ているだけで突然その火が大きくなり、鍋を焦がしてしまうことも。


(その所為で料理が焦げちゃうんだもの)


 クリーンの魔法をかけた後毛布にくるまりランプを消した。

 夜行性の動物の咆哮や木々の騒めき、虫の鳴き声が聞こえてくる。

(一人って凄く静か。周りの空気が何だか違うみたいな)


 明日からの強行軍に備えて目を閉じた。



 
 目覚めは早く、うっすらと洞穴の中が明るくなっていた。

 荷物を片付けて顔を洗い洞穴の外に出た。隠蔽魔法をかけなおした後、暫く歩いてから焚き火の準備をはじめた。


 石を組み小枝を中に入れて準備完了。

 大きく深呼吸してから焚き火に火をつける。予定よりは大き目だが何とか焚火らしくなったので、ポットを置いて朝食の準備をはじめた。

 パンにチーズを挟んで食べながらお湯が沸くのを待っていると、ポットからグツグツと音がしはじめた。

(よし! 今日は大成功)

 温かいお茶を飲みながら、ポットを冷まし火の始末。
 最後に石や燃えた枝にもう一度水をかけて出発した。


 ミリアは指南魚方位磁石で時々方向を確認しながらただひたすら森の中を歩いた。

 この辺りは『モンストルムの森』の中でも強い魔物現れる地域の為安心は出来ない。
 魔物の気配がする度に歩く速度を緩め攻撃体制をとる。

 魔物に動きがないときは風下から大きく迂回して戦いを避けた。


 神経が張り詰め疲れが溜まりはじめたが休んでいる時間がない。回復ポーションを飲んで身体強化をかけなおした。


 ローデリアの王国騎士団が総動員されている可能性もあり、時間がかかればかかるほど関所の警備が強化され国から出られなくなる可能性が高くなるはず。


 転移の魔法陣で飛べるのはここまでが限界だった。

 ただ、まさか『モンストルムの森』に転移したとは思わない筈なので、別の方向を探してくれるのではないかと期待している。


 昼食の時に少しだけ休みまた歩きはじめた。

(もう一回転移出来たら楽だったんだけどなぁ)


 足が棒のようになり速度が落ちてくるとついつい愚痴が出てしまった。
 今日二回目の回復ポーションを飲んで速度を早める。


 転移の魔法陣は着地点を細かく設定できないので、二回目の転移を行って着いた場所が人の住む町だったり関所の近くだったりすると騎士団に情報が漏れる可能性が高まる。


 あともう少し・・と言い続けて夕方日差しが少し弱くなりはじめる頃まで歩き続けることができた。

(方向が合っていればこの先にも拠点がある筈なんだけど)


 何度か魔物から逃れるために迂回したことで少し東寄りの位置にいたらしい。
 拠点を見つけた頃にはすっかり日が暮れていた。

 大きく張り出した岩を目印に近づくと、洞穴の前の隠蔽魔法が破壊され中は野生の小動物の住処になっていた。

(こんな時間に追い出すなんて、本当にごめんね)

 右手に長めの木の枝、左手にライトを持ちバシバシと音をさせながらゆっくりと洞穴に入って行くと、キーキーと鳴き声を上げながらイタチらしき動物が一斉に逃げて行った。


 念の為洞穴の中を水で洗い流し、風魔法で乾かして漸く安心した。
 入り口の下半分を塞ぎ魔物除けと鳴子をセットして洞穴の奥の壁にもたれて座りこんだ。


 毛布を出してパンと干し肉を食べているうちに限界が来た。

(もう無理かも、眠くて・・)

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