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兄妹の過去

10.帰って来たウォーカー

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 ミリアの十一歳の誕生日。

 ミリアはいつものように商店で働いているものの、外の様子が気になって仕方がない。

 仕事の合間に外を覗きに行っては溜息を吐いていた。

(兄ちゃんまだかなぁ)

(もしかして、もう孤児院に行ってる?)


「今日は一体どうしたって言うんだい? ソワソワと落ち着きのない」

「すみません」

「もういいよ、今日は帰りな」

「ありがとうございます」

 バレリーに頭を下げ脱兎の如く駆け出したミリアの後ろ姿を見ながら、

(そういやあ、今日はミリアの誕生日だったねえ。給金も持たずに帰って・・)

と、気づいたバレリーだった。




「シスター、兄ちゃん帰ってますか?」

 孤児院に駆け込んだミリアは大声で叫んだ。

「ミリア、大声を出したらみんなが吃驚しますよ」

「ごめんなさい、兄ちゃんは帰ってませんか?」

「まだみたい。手を洗ってご飯の準備を手伝ってくれる?」

「・・はい」

(まだ夕方だもんね)



 全員で食堂の席に着き食事前の祈りの時も、
(兄ちゃんが帰ってきますように)

 食事が済んで小さい子供達を寝かしつける時も、
(兄ちゃん・・)



 子供達が寝静まった頃、そっと寝室のドアが開き、
「誕生日おめでとう。遅くなってごめん」

 ドアの隙間から兄が顔を覗かせていた。


「兄ちゃん!」

 飛び上がって駆け出したミリアを部屋の外で待ち構えていたウォーカーが抱きしめる。

「兄ちゃん、お帰り」

「ただ今、ミリア」


 二人は手を繋いでシスターの部屋に行った。


「シスター、ただ今帰りました」

「まあ、ウォーカー。お帰りなさい、待ってましたよ。ちゃんと帰ってくるって信じていました」


 書き物机に向かっていたシスターは立ち上がり、ウォーカーをぎゅっと抱きしめた。

「色々話がしたいけど今日はもう遅いから、私のベッドで休みなさい。
ちょっと狭いけど、二人なら何とかなるでしょ?
私はミリアのベッドを借りるわね」

 シスターが部屋を出て行き兄妹二人きりになった。


「兄ちゃん、お腹空いてない? パンとスープが残ってるよ」

「大丈夫、ちょっと座ろうか」

「うん」

 マントを脱いだウォーカーと寝巻きのミリアは並んでベッドに腰掛けた。

「本当は昼には着く予定だったんだけど、乗ってた駅馬車が途中で故障して。
そこから歩いて帰ってきたんだ」

「怪我はない?」


 それから二人は夜が明ける頃まで話し込んだ。
 ウォーカーは一年前にAランク冒険者になった事やそれまでに出会った親切な人達の話。
 その後の一年間どこで何をしていたのかも。

 ミリアは今までの暮らしの事や薬草作りの事。


「兄ちゃんは、錬金術師になったの?」

「うん、お前は覚えてないけど俺達の父さんは錬金術師だったんだ」

「調香師じゃなくて?」

「錬金術の延長で調香師もしてたって感じかな。俺の鞄の中に父さんの手帳が入っててそれを読んではじめて知ったんだ。
知ってるか? お前が薬草作るのも錬金術に含まれる。
錬金術師が一番最初に覚える仕事なんだ」


「じゃあ、兄ちゃんと一緒って事ね?」


「作る物の方向性は随分違うけどね、一緒と言えば一緒かな?」



 ミリアは一番聞きたかったことを言い出せず、チラチラとウォーカーを上目遣いで見ていた。

「ん? 何?」

「・・こっこれから・・どう」

「これから? うちに帰ろうな。ちっちゃい家だけどお前の部屋もある」


 驚いたミリアは聞いた話が信じられず小声で呟いた。

「うち・・部屋? だって兄ちゃん冒険者になってたったの三年なのに?」



「カランカムの町に家を買ったんだ。古くて結構ボロい」


 ウォーカーは苦笑いしながら、買った後の大掃除がいかに大変だったか話しはじめた。

「でっかい蜘蛛が出るわ出るわ、もー凄かった」

 蜘蛛はミリアの天敵。野生動物に遭遇しても平気だが蜘蛛を見ると固まってしまう。

 蜘蛛の魔物がいると聞いた時は『兄ちゃんと一緒にいたいけど冒険者は無理かも』と真剣に悩んだ程。


「もう出ないから安心して引っ越しておいで」

「良かったー、掃除とか洗濯とか上手になったよ」

「料理は?」

「うっ!」

「黒焦げパンか?」

「まっまあ、偶にはそう言うことも・・」

「料理は俺担当の方が良さそうだな。家を燃やされたら困るし。
俺はいまだに掃除は苦手」



 朝、ウォーカーの事を覚えていた子供達は大喜びで朝食の時間になっても隣に座りたいと騒ぎまくっていた。

 そんな最中さなか、マックスは部屋の反対側からウォーカーを睨みつけていた。

「さあ、食事にしましょう。ウォーカーの右隣はミリアで左隣は私。
みんなも座りなさい」

 席順はシスターの一言で決定した。


「冒険者って『モンストルムの森』に入るんでしょ?」

「武器は何?」

「どこに住んでるの?」


 矢継ぎ早の質問に丁寧に答えていくウォーカー。


「冒険者って危ないっしょ? 怪我で働けなくなったり死んだり」

 部屋中が静まりかえった。

「君は誰? マックスって言うのか。
マックスの言う通りだよ。
僕が知ってる人の中にもそういう人は何人かいる。
凄く危険な仕事だからね、簡単に冒険者になるとかはやめたほうがいいと思ってる。
僕は偶々運が良かっただけなんだ」


「なら、ミリアを連れてくべきじゃない」

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