8 / 149
兄妹の過去
6.ウォーカーの旅立ち
しおりを挟む
「兄ちゃん、ほんとに行っちゃうの?」
「ああ、必ず迎えに来るから。約束守って良い子にしてるんだぞ」
ミリアが八歳の時、ウォーカーが孤児院を出ると言い出した。
この国では十一歳から冒険者になれる為、ウォーカーはこれから冒険者ギルドに行き冒険者になると言う。
「兄ちゃん、私も連れてって?」
「十一歳になったらな。そん時必ず迎えに帰ってくる」
「後三年もあるし・・」
「赤ちゃんじゃあるまいし、それ位待てるだろ? シスターの言う事をちゃんと聞く事。暗くなる前に必ず孤児院に帰る事。それから「秘密は守る事」」
「そう、それが一番大事だからな。絶対忘れるなよ」
「うん、分かってる」
孤児院で暮らしたくない訳ではない。
勿論、貧乏な孤児院だから食事もしっかりと食べられる訳ではないし、仕事をしても全て孤児院に渡すので小遣いがあるわけでもない。
ウォーカーが出て行くのは冒険者として一発当てるような夢を追うのではなくミリアを守る為。
(私のせいでごめんね、兄ちゃん)
「これ、持ってって」
ミリアが布で蓋をした小さな壺をウォーカーに手渡した。
「これも作ったのか? どんどん凄くなるな」
「中の薬草はそのまま飲める。水に溶かしたら直ぐ駄目になっちゃうから粉のまま」
「苦いやつな」
「でもよく効くよ」
「ああ、知ってる。これも誰にも言うなよ、例え相手がシスターでも。
病気の子がいても駄目だ、いいな。
いつかこれをみんなに渡せるようにするから我慢だぞ」
「うん、今我慢したらみんなに渡せるようになる・・だよね」
「そうだ、絶対に忘れるな。でないと十一歳になっても連れてかない。で、お前は悪い奴に連れてかれるんだ」
「待ってる、必ず迎えに帰ってきてね」
ウォーカーが僅かな荷物を持って孤児院を出発した。肩には孤児院に来た時に持っていた鞄がかかっている。
「さて、私も仕事しなくちゃ。兄ちゃんに笑われちゃう」
ウォーカーは通い慣れた村を過ぎ、ひたすら歩き続けた。
出発前にシスターから僅かばかりのお金を貰った。
「ウォーカーが今まで働いたお金の一部を取っておいたの。
ここを出て行く子供達には同じようにしてるんだけど、少なくてごめんね」
「ありがとうございます。凄く助かります」
冒険者ギルドのある町はアッシュフォール。そこ行くには子供の足では一週間かかる。
鞄の中にはほんの少し食料が入っているだけだが、何としてでも辿り着かないと・・。
持っているパンを齧り、ただひたすら歩き続けた。夜は野宿していたが、運の良い時には納屋に泊まらせてもらう事ができた。
ありがたい事に一週間雨にならず、無事アッシュフォールの町に着く事ができた。
町は今まで見た事がないほどの人で溢れ、物売りの声や荷馬車が走る車輪の音がいくつも聞こえる。
屋台から漂う肉の焼ける匂いに、一週間碌に食べていなかったウォーカーのお腹が悲鳴を上げた。
(我慢、我慢。まずは顔を洗わないと)
今のウォーカーは、埃まみれでまるで浮浪者のようななりをしている。
町を彷徨いていると広場の中に井戸があり、順番待ちをしている女達の列が見えた。
列の後ろに並んだウォーカーを女達がチラチラと見ていた。
もう直ぐ順番が来るという頃、直ぐ前にいた年配の女性が声をかけた。
「あんた、どうやって水を汲むつもりだい?」
「あっどうしよう、顔を洗いたかったんだけど」
「しょうがないねぇ、なんとかしたげるよ。しかしまあ、まるでスラムから来たみたいな臭いだね」
女性はウォーカーを上から下までジロジロと見て、眉間に皺を寄せた。
「一週間歩いて町まで来たんです。体を洗って服を着替えたいけど、宿屋に泊まるお金はないから顔だけでも洗えたらって」
心配顔なその女性が桶を使わせてくれたので何とか顔を洗う事ができた。
「あんた、ギルドに行くんだろ?」
「はい、この後どっかの陰で着替えたら冒険者ギルドに行きます」
「はぁ、ついといで。そんなに臭くっちゃギルドで直ぐに絡まれちまう。それでなくても可愛い顔してるから気を付けないと」
女性は町の裏にある川のそばに連れて行ってくれた。川の一部が小屋で隠れている。
「ほら、男の子ならそのまんま裸になって川で洗えばいい。恥ずかしけりゃその小屋の中で洗えるけど銅貨一枚かかる。
ここはね、町の住人しか使えないんだ。
今日はあたしと一緒だから良いけど一人の時に使ったのがバレたら捕まるからね」
ウォーカーは躊躇わず裸になってじゃぶじゃぶと川に飛び込んで頭から水をかぶった。
「ひやぁ、冷たい!」
「はっはっは、豪快な子だねぇ。しっかり洗いな、あの臭いは少々じゃ消えないだろうさ」
親切な女性が見守る中できる限り急いでウォーカーは全身を洗った。
鞄の中からこの時のために取っておいた清潔な服を着て、女性にお礼を言った。
「じゃあ、どっかで会ったら声掛けな。元気でね」
「ありがとうございましたぁ!」
幸先の良い出だしに感謝で一杯のウォーカーだった。
(さぁ、ギルドに行くぞ!)
「ああ、必ず迎えに来るから。約束守って良い子にしてるんだぞ」
ミリアが八歳の時、ウォーカーが孤児院を出ると言い出した。
この国では十一歳から冒険者になれる為、ウォーカーはこれから冒険者ギルドに行き冒険者になると言う。
「兄ちゃん、私も連れてって?」
「十一歳になったらな。そん時必ず迎えに帰ってくる」
「後三年もあるし・・」
「赤ちゃんじゃあるまいし、それ位待てるだろ? シスターの言う事をちゃんと聞く事。暗くなる前に必ず孤児院に帰る事。それから「秘密は守る事」」
「そう、それが一番大事だからな。絶対忘れるなよ」
「うん、分かってる」
孤児院で暮らしたくない訳ではない。
勿論、貧乏な孤児院だから食事もしっかりと食べられる訳ではないし、仕事をしても全て孤児院に渡すので小遣いがあるわけでもない。
ウォーカーが出て行くのは冒険者として一発当てるような夢を追うのではなくミリアを守る為。
(私のせいでごめんね、兄ちゃん)
「これ、持ってって」
ミリアが布で蓋をした小さな壺をウォーカーに手渡した。
「これも作ったのか? どんどん凄くなるな」
「中の薬草はそのまま飲める。水に溶かしたら直ぐ駄目になっちゃうから粉のまま」
「苦いやつな」
「でもよく効くよ」
「ああ、知ってる。これも誰にも言うなよ、例え相手がシスターでも。
病気の子がいても駄目だ、いいな。
いつかこれをみんなに渡せるようにするから我慢だぞ」
「うん、今我慢したらみんなに渡せるようになる・・だよね」
「そうだ、絶対に忘れるな。でないと十一歳になっても連れてかない。で、お前は悪い奴に連れてかれるんだ」
「待ってる、必ず迎えに帰ってきてね」
ウォーカーが僅かな荷物を持って孤児院を出発した。肩には孤児院に来た時に持っていた鞄がかかっている。
「さて、私も仕事しなくちゃ。兄ちゃんに笑われちゃう」
ウォーカーは通い慣れた村を過ぎ、ひたすら歩き続けた。
出発前にシスターから僅かばかりのお金を貰った。
「ウォーカーが今まで働いたお金の一部を取っておいたの。
ここを出て行く子供達には同じようにしてるんだけど、少なくてごめんね」
「ありがとうございます。凄く助かります」
冒険者ギルドのある町はアッシュフォール。そこ行くには子供の足では一週間かかる。
鞄の中にはほんの少し食料が入っているだけだが、何としてでも辿り着かないと・・。
持っているパンを齧り、ただひたすら歩き続けた。夜は野宿していたが、運の良い時には納屋に泊まらせてもらう事ができた。
ありがたい事に一週間雨にならず、無事アッシュフォールの町に着く事ができた。
町は今まで見た事がないほどの人で溢れ、物売りの声や荷馬車が走る車輪の音がいくつも聞こえる。
屋台から漂う肉の焼ける匂いに、一週間碌に食べていなかったウォーカーのお腹が悲鳴を上げた。
(我慢、我慢。まずは顔を洗わないと)
今のウォーカーは、埃まみれでまるで浮浪者のようななりをしている。
町を彷徨いていると広場の中に井戸があり、順番待ちをしている女達の列が見えた。
列の後ろに並んだウォーカーを女達がチラチラと見ていた。
もう直ぐ順番が来るという頃、直ぐ前にいた年配の女性が声をかけた。
「あんた、どうやって水を汲むつもりだい?」
「あっどうしよう、顔を洗いたかったんだけど」
「しょうがないねぇ、なんとかしたげるよ。しかしまあ、まるでスラムから来たみたいな臭いだね」
女性はウォーカーを上から下までジロジロと見て、眉間に皺を寄せた。
「一週間歩いて町まで来たんです。体を洗って服を着替えたいけど、宿屋に泊まるお金はないから顔だけでも洗えたらって」
心配顔なその女性が桶を使わせてくれたので何とか顔を洗う事ができた。
「あんた、ギルドに行くんだろ?」
「はい、この後どっかの陰で着替えたら冒険者ギルドに行きます」
「はぁ、ついといで。そんなに臭くっちゃギルドで直ぐに絡まれちまう。それでなくても可愛い顔してるから気を付けないと」
女性は町の裏にある川のそばに連れて行ってくれた。川の一部が小屋で隠れている。
「ほら、男の子ならそのまんま裸になって川で洗えばいい。恥ずかしけりゃその小屋の中で洗えるけど銅貨一枚かかる。
ここはね、町の住人しか使えないんだ。
今日はあたしと一緒だから良いけど一人の時に使ったのがバレたら捕まるからね」
ウォーカーは躊躇わず裸になってじゃぶじゃぶと川に飛び込んで頭から水をかぶった。
「ひやぁ、冷たい!」
「はっはっは、豪快な子だねぇ。しっかり洗いな、あの臭いは少々じゃ消えないだろうさ」
親切な女性が見守る中できる限り急いでウォーカーは全身を洗った。
鞄の中からこの時のために取っておいた清潔な服を着て、女性にお礼を言った。
「じゃあ、どっかで会ったら声掛けな。元気でね」
「ありがとうございましたぁ!」
幸先の良い出だしに感謝で一杯のウォーカーだった。
(さぁ、ギルドに行くぞ!)
0
お気に入りに追加
960
あなたにおすすめの小説
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
無実の罪で聖女を追放した、王太子と国民のその後
柚木ゆず
恋愛
※6月30日本編完結いたしました。7月1日より番外編を投稿させていただきます。
聖女の祈りによって1000年以上豊作が続き、豊穣の国と呼ばれているザネラスエアル。そんなザネラスエアルは突如不作に襲われ、王太子グスターヴや国民たちは現聖女ビアンカが祈りを怠けたせいだと憤慨します。
ビアンカは否定したものの訴えが聞き入れられることはなく、聖女の資格剥奪と国外への追放が決定。彼女はまるで見世物のように大勢の前で連行され、国民から沢山の暴言と石をぶつけられながら、隣国に追放されてしまいました。
そうしてその後ザネラスエアルでは新たな聖女が誕生し、グスターヴや国民たちは『これで豊作が戻ってくる!』と喜んでいました。
ですが、これからやって来るのはそういったものではなく――
呪いをかけられ婚約破棄をされた伯爵令嬢は仕事に生きます!なのに運命がグイグイ来る。
音無野ウサギ
恋愛
社交界デビューの園遊会から妖精に攫われ姿を消した伯爵令嬢リリー。
婚約者をわがままな妹に奪われ、伯爵家から追い出されるはずが妖精にかけられた呪いを利用して王宮で仕事をすることに。
真面目なリリーは仕事にやる気を燃やすのだが、名前も知らない男性に『運命』だと抱きつかれる。
リリーを運命だといいはる男のことをリリーは頭のおかしい「お気の毒な方」だと思っているのだがどうやら彼にも秘密があるようで……
この作品は小説家になろうでも掲載しています。
冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで
一本橋
恋愛
ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。
その犯人は俺だったらしい。
見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。
罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。
噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。
その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。
慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──
もう我慢する気はないので出て行きます〜陰から私が国を支えていた事実を彼らは知らない〜
おしゃれスナイプ
恋愛
公爵令嬢として生を受けたセフィリア・アインベルクは己の前世の記憶を持った稀有な存在であった。
それは『精霊姫』と呼ばれた前世の記憶。
精霊と意思疎通の出来る唯一の存在であったが故に、かつての私は精霊の力を借りて国を加護する役目を負っていた。
だからこそ、人知れず私は精霊の力を借りて今生も『精霊姫』としての役目を果たしていたのだが————
捨てられ聖女の私が本当の幸せに気付くまで
海空里和
恋愛
ラヴァル王国、王太子に婚約破棄されたアデリーナ。
さらに、大聖女として国のために瘴気を浄化してきたのに、見えない功績から偽りだと言われ、国外追放になる。
従者のオーウェンと一緒に隣国、オルレアンを目指すことになったアデリーナ。しかし途中でラヴァルの騎士に追われる妊婦・ミアと出会う。
目の前の困っている人を放っておけないアデリーナは、ミアを連れて隣国へ逃げる。
そのまた途中でフェンリルの呼びかけにより、負傷したイケメン騎士を拾う。その騎士はなんと、隣国オルレアンの皇弟、エクトルで!?
素性を隠そうとオーウェンはミアの夫、アデリーナはオーウェンの愛人、とおかしな状況に。
しかし聖女を求めるオルレアン皇帝の命令でアデリーナはエクトルと契約結婚をすることに。
未来を諦めていたエクトルは、アデリーナに助けられ、彼女との未来を望むようになる。幼い頃からアデリーナの側にいたオーウェンは、それが面白くないようで。
アデリーナの本当に大切なものは何なのか。
捨てられ聖女×拗らせ従者×訳アリ皇弟のトライアングルラブ!
※こちら性描写はございませんが、きわどい表現がございます。ご了承の上お読みくださいませ。
長編版 王太子に婚約破棄されましたが幼馴染からの愛に気付いたので問題ありません
天田れおぽん
恋愛
頑張れば愛されると、いつから錯覚していた?
18歳のアリシア・ダナン侯爵令嬢は、長年婚約関係にあった王太子ペドロに婚約破棄を宣言される。
今までの努力は一体何のためだったの?
燃え尽きたようなアリシアの元に幼馴染の青年レアンが現れ、彼女の知らなかった事実と共にふたりの愛が動き出す。
私は私のまま、アナタに愛されたい ――――――。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
他サイトでも掲載中
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
HOTランキング入りできました。
ありがとうございます。m(_ _)m
★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★
初書籍
「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」
が、レジーナブックスさまより発売中です。
よろしくお願いいたします。m(_ _)m
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる