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兄妹の過去
5.ミリアの特技
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ガルゥ・・。
ウォーカーが木に覆われた杣道を急ぎ足で歩いている時、獣の唸り声が聞こえて来た。
孤児院のある村は『モンストルムの森』から大人の足で一日程度の所にある。
滅多にある事ではないがごく稀に魔物が現れる事があり、子供達は皆木の棒を持ちバシバシと音を立てながら歩くようにしている。
(けっこう大きいのかな? 音で逃げないなんて)
ガルゥ・グオッ・・。
複数の魔物の気配がする。
(ミリア、ごめん。兄ちゃんヤバいかも)
覚悟を決めて走り出したウォーカーの後ろから、ガサガサと言う音と共に獣の足音が聞こえて来た。
(やめろ! 来るな!)
木の棒を捨てて必死に走るウォーカーの前から、ミリアの声が聞こえて来た。
「にーちゃーん」
(ミリア! ダメだ、来るな!)
「にーちゃんをいじめりゅなー! おいたしたらめーすゆよー!」
「ミリアー! こっちに来るな!」
夢中になって走るウォーカーは気付かなかったが、魔物の足が少し遅くなってきている。
ミリアは木の棒を振り上げ、
「めー!」
バシュンと音がして水の玉が物凄い勢いでウォーカーの後ろに飛んでいった。
「キャイン・・」
まるで犬のような鳴き声が聞こえてきたがミリアは何度も、
「めー!」「らめー!」
と、木の棒を振り回す。その度に
「バシュン」「バシュン」
「にーちゃーん、おかえりー」
満面の笑みを浮かべたミリアがウォーカーに飛びついた。
後ろを振り返ると大きな水溜りがいくつも出来ていて、魔物の姿はなくなっていた。
「ミリア、お前今の・・」
「ん? みじゅあしょび? たのちーよ」
ミリア三歳、ウォーカー六歳だった。
週に一度の休みの日、ウォーカーはミリアを連れて近くの山にやって来た。
「ミリア、もう一回この間のアレをやってみて」
「なに?」
「ほら、バシュンって水が出るやつ」
キョトンと首を傾げていたミリアはにっこり笑って、
「みじゅあしょび?」
「そう、それ。出来る?」
「できゆよ」
ミリアが持っていた木の棒を振り下ろすと水の玉が飛んでいった。
(言葉はいらないのか? 魔法を使うのには決まった呪文みたいなのがあるって聞いてたんだけど)
「他にも出来る?」
「うーんとね、ぼーってしがでりゅ」
「まっまじか、もしかしてだけど火が出る?」
「うん。でもちょっとこあいの」
ミリアがしょぼんとして言う。
「兄ちゃんが側にいるからな」
「うん」
元気に首を縦に振って木の棒を前に向け、
「ぼー!」
「ミリア、すぐ水だ。水をかけて!」
想像より強力な火に驚いたウォーカーは慌てて水で火を消させた。
「まさかだけど他にもある?」
「はっぱ、みちゅけゆ? こないだ、まちゅぼっくいみちゅけた」
(やばいな、見つかったら大変な事になる)
「ミリア、兄ちゃんと約束して欲しいんだ。水とか火とか二人だけの時しかやらないって」
「なんで?」
「なんでも、兄ちゃんと二人だけの秘密だ」
「まちゅぼっくいも?」
「そう、そういうのも全部」
ミリアは首を傾げ悩んでいたが、
「にいちゃんとふたりだけのひみちゅ。ふふ」
「兄ちゃんと二人だけの時なら、今日みたいに出来るから我慢な」
「うん。がっまんー、がっまんー。みいあ、がまんでちる!」
「うん、ミリアは良い子だな」
「へへ」
デレっと嬉しそうに笑いながら『がっまん~』とおかしな節をつけて歌っているミリアを見ながら、ウォーカーはこれから先のことを考えて頭を抱えていた。
ウォーカーが木に覆われた杣道を急ぎ足で歩いている時、獣の唸り声が聞こえて来た。
孤児院のある村は『モンストルムの森』から大人の足で一日程度の所にある。
滅多にある事ではないがごく稀に魔物が現れる事があり、子供達は皆木の棒を持ちバシバシと音を立てながら歩くようにしている。
(けっこう大きいのかな? 音で逃げないなんて)
ガルゥ・グオッ・・。
複数の魔物の気配がする。
(ミリア、ごめん。兄ちゃんヤバいかも)
覚悟を決めて走り出したウォーカーの後ろから、ガサガサと言う音と共に獣の足音が聞こえて来た。
(やめろ! 来るな!)
木の棒を捨てて必死に走るウォーカーの前から、ミリアの声が聞こえて来た。
「にーちゃーん」
(ミリア! ダメだ、来るな!)
「にーちゃんをいじめりゅなー! おいたしたらめーすゆよー!」
「ミリアー! こっちに来るな!」
夢中になって走るウォーカーは気付かなかったが、魔物の足が少し遅くなってきている。
ミリアは木の棒を振り上げ、
「めー!」
バシュンと音がして水の玉が物凄い勢いでウォーカーの後ろに飛んでいった。
「キャイン・・」
まるで犬のような鳴き声が聞こえてきたがミリアは何度も、
「めー!」「らめー!」
と、木の棒を振り回す。その度に
「バシュン」「バシュン」
「にーちゃーん、おかえりー」
満面の笑みを浮かべたミリアがウォーカーに飛びついた。
後ろを振り返ると大きな水溜りがいくつも出来ていて、魔物の姿はなくなっていた。
「ミリア、お前今の・・」
「ん? みじゅあしょび? たのちーよ」
ミリア三歳、ウォーカー六歳だった。
週に一度の休みの日、ウォーカーはミリアを連れて近くの山にやって来た。
「ミリア、もう一回この間のアレをやってみて」
「なに?」
「ほら、バシュンって水が出るやつ」
キョトンと首を傾げていたミリアはにっこり笑って、
「みじゅあしょび?」
「そう、それ。出来る?」
「できゆよ」
ミリアが持っていた木の棒を振り下ろすと水の玉が飛んでいった。
(言葉はいらないのか? 魔法を使うのには決まった呪文みたいなのがあるって聞いてたんだけど)
「他にも出来る?」
「うーんとね、ぼーってしがでりゅ」
「まっまじか、もしかしてだけど火が出る?」
「うん。でもちょっとこあいの」
ミリアがしょぼんとして言う。
「兄ちゃんが側にいるからな」
「うん」
元気に首を縦に振って木の棒を前に向け、
「ぼー!」
「ミリア、すぐ水だ。水をかけて!」
想像より強力な火に驚いたウォーカーは慌てて水で火を消させた。
「まさかだけど他にもある?」
「はっぱ、みちゅけゆ? こないだ、まちゅぼっくいみちゅけた」
(やばいな、見つかったら大変な事になる)
「ミリア、兄ちゃんと約束して欲しいんだ。水とか火とか二人だけの時しかやらないって」
「なんで?」
「なんでも、兄ちゃんと二人だけの秘密だ」
「まちゅぼっくいも?」
「そう、そういうのも全部」
ミリアは首を傾げ悩んでいたが、
「にいちゃんとふたりだけのひみちゅ。ふふ」
「兄ちゃんと二人だけの時なら、今日みたいに出来るから我慢な」
「うん。がっまんー、がっまんー。みいあ、がまんでちる!」
「うん、ミリアは良い子だな」
「へへ」
デレっと嬉しそうに笑いながら『がっまん~』とおかしな節をつけて歌っているミリアを見ながら、ウォーカーはこれから先のことを考えて頭を抱えていた。
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