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はじまりの時

1.断罪されたけど、特に問題ないです

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「ミリア・フォルス女伯爵、婚約破棄・褫爵した上で国家反逆罪で逮捕する」


 王宮の謁見の間。玉座の前に立ったローデリア王国のネイサン第二王子が大声で宣言した。
 王子の周りには宰相・各大臣・王宮医師団・仲間の筈の薬師達等が列をなし、壁際には王宮騎士団が整列している。


「婚約破棄は了承致しますが、国家反逆罪とはどう言う事でしょうか?」

「お前は王宮の専属薬師である事を利用して、第二王子である私に毒を盛ろうとした」

「身に覚えがございません」


 ネイサンは少し態とらしい仕草で手に持っていた物を周りの者にもよく見えるように高く掲げた。


「この容器に見覚えはあるか?」

「ございます。それは王子殿下からの依頼で私が調合致しました、み「それだ! その薬の中に毒が仕込まれていた。未然に気付いたから良かったものの、もしそのまま口にしていたら」」

 ネイサンの話を聞いたミリアは首を傾げた。

「あの、お言葉を返すようですがその薬はぬ「見苦しいぞ。素直に罪を認めれば温情をかけても良いのに」」

「因みに、温情とはどのようなものでございましょうか?」

「見窄らしい地下牢ではなく、貴族用の北の塔への幽閉で許してやる」

「左様ですか。ですが毒殺を企んだ覚えはございませんし、その薬はみ「黙れ! もうよい、この者を牢につなげ」」


 広場の端に控えていた王宮騎士団員がバラバラと走って来て、ミリアを拘束した。


「皆の者、私はライラ・ブレイクス子爵令嬢に伯爵位を与え、婚約した事を発表する。
ライラは毒の存在に気付き、私の命を救ってくれた。
ミリア、残念だったな。貴様の思い通りにならず」


(あーあ、殿下またやっちゃった)

(周りは何故止めないんだろ?)


 仮に本当の国王代理であったとしても、貴族の身分に関すること、褫爵や陞爵などは行ってはならないと国法で定められている。

(法律なんて当てになんないけどね)


 褫爵・婚約破棄されたかったミリアは黙っていることにした。




 ローデリア王国の南側には『モンストルムの森』と呼ばれる魔獣の住む深い森があり、猟師が魔物や動物を狩って生計を立てていた。
 そのほかの地域では細々と農業を営んでいたが、度々森からやって来る魔物に襲われる村々は貧困に喘いでいた。


 七年前にアスカリオル帝国の属国となったローデリア王国は、帝国から灌漑・三圃さんぽせいによる農地改革・重量有輪犂  じゅうりょうゆうりんすきなどの技術が伝えられ収穫量が飛躍的に伸びた。

 現在のローデリア王国は帝国の食糧庫とまで言われるようになっている。


 国が発展すると同時に商人ギルドと冒険者ギルドの支部が立ち上げられた。

 各地からやって来た冒険者達は皆『モンストルムの森』に挑んでいるが、強力な魔物が多く深部まで到達できた者はいない。

 この国では子供を叱る時、『悪い事をするとモンストルムの森に捨てるよ』と言うのが一般的になっているほど。




 ネイサンは正妃の一人息子で、側妃が産んだ兄と妹がいるが兄とはあまり仲が良くない。
 妹は二人の兄から溺愛されている。


 国王は王妃・側妃、第一王子と妹を連れ、宗主国のアスカリオル帝国で行われる定例会議に出席している。

 国王の代理を自認している第二王子の愚行はその隙をついて行われた。




 謁見室から連れ出されたミリアは延々と歩き続け、北の塔に連行された。

(見窄らしい地下牢じゃなかったっけ?)


 王宮の外れに位置する北の塔は外から見てもわかる程の魔法結界が張られていた。


 魔導士が先導しドアを開け、騎士団とミリアが中に入る。
 そこから長い階段を登り続け塔の一番上まで辿り着いた。

(魔導士の人、ヨレヨレになってる。運動不足かしら? 身体強化使えばいいのに)


 ドアを開け中に入ると高い位置に明かり取りの窓が一つあるだけの少し薄暗い部屋だった。
 漸く拘束が解かれたミリアはロープで擦れて赤くなった手首をさすりながら部屋を見回した。


(意外・・思ったより広いんだ)

 小さな机と椅子が置かれその上にはオイルランプが置かれている。
 壁際には小ぶりのチェストが一つ。

 部屋の奥の方にある衝立の向こうにはベッドが置かれているらしい。



「今日からここが貴方の部屋になります。
ここでは魔法は一切使えないので愚かな事は考えないように。まあ、考えても無駄ですが。
この後王子殿下がおいでになられるので、その時に今後の事など聞かれると宜しいかと」


 魔導士は護衛を連れて出て行った。鍵のかかる大きな音が響いて来た後、コツコツと階段を降りる足音が聞こえて来た。

(人が来れば分かるってことね)





 外が暗くなったので机の上のランプに火を灯した後、ミリアは暇を持て余していた。

(そうだ! チェストの中って・・)

と動き始めた時、コツコツと近づいて来る足音が聞こえてきた。

 王子殿下がやって来たらしい。



(いったい何の用事かしら?)

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