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39.開始時間が近づいても

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 かなりの人数の卒業生達が集まりパーティーの開始時間が近づいてきた。

(ロクサーナはどうしたんだろう・・何かあった?)

 ロクサーナを見落としたのかもしれないと侍従に会場内を確認させたがまだ来ていない。心配になったリアムがロクサーナを迎えに行こうと馬車乗り場に向かった時見慣れた馬車が漸くやって来た。


 馬車の中には緊張で顔を引き攣らせているロクサーナとメイドの代わりに行くと言い出したメイリーンが乗っていた。

「・・」

「ロクサーナ、着いたわよ」

「・・」


 御者がドアが開ける前にドアが開けたリアムの声がした。

「ロクサーナ、大丈夫かい?」

「だ・・だいじょぶです」


 リアムのエスコートで会場脇の小部屋に入ったロクサーナはドレスの上に羽織っていたマントをメイリーンに脱がせてもらった。

 はっと息を飲んで言葉を失っているリアムを余所に、赤い顔をして俯いたままのロクサーナにメイリーンがラペルピンの入った箱を手渡した。

「えっと、あの・・これを準備し「凄く綺麗だ。ロクサーナありがとう!」」


 呆然としていたリアムがロクサーナに抱きつき箱ごと落ちかけたラペルピンをメイリーンがキャッチした。


「あっあの、実はそのイヤリングと合わせたネックレスがあるんだけど、つっつけさせてもらえるかな?」

 赤い顔のまま頷いたロクサーナが後ろ髪を避けリアムに背中を向けると、目の前の頸に真っ赤になったリアムがネックレスを持ったまま硬直した。

「リアム様、ファイト!」

 笑いを堪えたメイリーンの応援に我に返ったリアムが大きく深呼吸してネックレスをつけ・・ようとしたが、手が震えて留め金がはまらない。

「どっどうしよう、練習してきたのに。クソ! 手が震えて・・」

「リアム様、もう一回深呼吸しましょう。はい、吸ってー吐いてー」

 メイリーンの言葉に素直に従ったリアムは漸く留め金を留めることができた。

「よし! 出来たよロクサーナ。メイリーンありがとう」

 振り返ったロクサーナが見たのは未だに緊張で震える手にハンカチを持ち冷や汗を拭っているリアムと満面の笑みでサムズアップしているメイリーンだった。

 その後ロクサーナがリアムの襟元にラペルピンを留めている間にメイリーンがローブの裾を直し開始ギリギリの時間に会場入りした。


 騒めいていた会場が入り口近くから次第に静まりかえっていく。


 頬を少し赤らめたリアムは腕にかけられたロクサーナの手を上から軽く押さえ周りに会釈をしながら堂々と雛壇近くへと歩いて行くが、ロクサーナは誰とも目を合わせることができず笑顔を貼り付け斜め下の床を見つめながら歩いていた。

 パチパチと拍手が聞こえた直後会場中に拍手が鳴り響き、驚いたロクサーナがピョンと飛び上がり躓きかけた。


 学園長がパーティーの開催を宣言した後主賓である国王からの祝いの御言葉を頂いたが、国王は何故かその場から動かずリアムに目配せをした。


 リアムがロクサーナの前に片膝をつきポケットから出した小箱を開けた。


「ロクサーナ・モートン嬢。婚約はなしで私と結婚して欲しい」

 針が落ちても響きそうな程の静寂の中固唾を飲んで見守る人達にロクサーナの小さな声が聞こえた。


「私で宜しければ喜んで」


 リアムがロクサーナに指輪を嵌めると同時に音楽が流れはじめ参加者が会場の中央を開けた。全員が見守る中でリアムとロクサーナのファーストダンスが踊られ、次の曲から少しずつ卒業生達が踊りはじめた。

 国王と王妃の横で涙を堪えきれなくなったミリアーナの背を王妃が優しく支え、会場脇からこっそり覗いていたメイリーンも真っ赤な目でハンカチを握りしめていた。



 卒業パーティーの後そのまま王宮に連れて行かれ、翌日の朝にはロクサーナの授爵と婚姻に関する書類が全て揃えられていた。

「リアム、準備早くない?」

 書類を前に眉間に皺を寄せたロクサーナが小声で聞いた。


「間をちょっとでも開けたらロクサーナが逃げ出しそうだから」



 半年後ロクサーナとリアムの結婚式が盛大に行われた。

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