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33.己一人の才覚

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 陛下が慌てて腰を浮かせ、大広間の中が騒めいた。


「其方がアニー商会の商会長だと?」

「はい、左様でございます。証人は各ギルドのギルド長が」


「馬鹿な! 貴様はまだ子供ではないか?」


「若いからこそ柔軟な発想があるのかも知れません。

アニー商会の全資産及び権利をメルバーグ王国第二王子リアム様に贈らせていただきます」

「ふざけるな! 貴様の資産は親であるチャールズが管理するもの。何故他国のものに! チャールズ、何とか申せ!」


「ロクサーナの資産は娘が己一人の才覚で作り上げたものでございます。本人の心のままに」


「先程の資産に漏れておりましたベイワーズの山の権利と銀鉱山もリアム様にお贈り致します」

「・・我が国に銀鉱山があると申したのか?」

「はい、購入致しておりました山にたまたま」

「それを他国の者に渡すなど、この売国奴が!」


「先程までは審議もなく毒杯を賜るところでございました。
その後は奴隷制を排した国にも関わらず奴隷落ちとなりました。
奴隷はどの国にも属しておりませんので、売りたくても売る国の持ち合わせがございません。
商人としては非常に残念でございます」


「ぷっ」

「ぶはっ」

 大広間に笑いの渦が広まった。



「・・どっ奴隷落ちはなしじゃ。これからも国の為に努めよ」

「父上、ロクサーナは私の婚約者です! 商会の事も鉱山の事も私がロクサーナを手伝います」

 リチャードが叫んだ。

「行き違いはあったけれど僕達は長年の婚約者だろ? メリッサとステラに騙されていたんだ、これからも仲良くやっていこう」

「リチャード!!」


「先程婚約破棄となりましたことは、ここにおられる皆様が証人となって下さるでしょう。
陛下もリチャード王子殿下もアニー商会と銀鉱山の為に意見を翻されるのは些か体裁が悪いのではないかと具申致します」

 冷たい目で見つめながら発せられたロクサーナの言葉に国王とリチャードは何も言えなくなった。



「わたくしからも一言。
民を奴隷として売り渡すとサルバリア国と密約を交わされたことはメルバーグ王国として許し難く、離婚すると共にメルバーグ王国とポラセリア王国の同盟を撤回いたします」

 王妃はメルバーグ王国の国璽が押された書面を差し出した。


「おっお待ち下さい王妃様。そんな事になったら我が国は!」

 王妃の発言に陛下が青褪め宰相が叫んだ。

「メルバーグ王国から見捨てられたらこの国は終わってしまいます」

 メルバーグ王国は国法で奴隷制を禁止しており、盟約の一つとしてポラセリア王国も奴隷制の廃止を謳っている。

 また、ポラセリア王国は長年メルバーグ王国からの支援に頼っており、同盟が撤回されると国政が立ち行かなくなる事は必定。


「贅を極め国費を浪費し民を蔑ろにしてきた責任をとる時が来たのです」

 王妃は玉座を降りロクサーナの元に歩いてきた。

「待て! サルバリアとの密約は取りやめじゃ。この国に銀鉱山が見つかったのじゃ、もう何の問題もない。
ロクサーナの山は国営地とし、直ぐに採掘を開始する。さすれば民を売らずとも良くなるのじゃ」


「相応の支払いをしていただかない限り山をお譲りする事は出来かねます」

「何だと! 其方自身の国の窮地を救うのだぞ。其方には爵位と領地をくれてやろうではないか。これ以上の勝手は許さんぞ。
もし否と申すなら商会共々取り上げてくれる!」

「お断り致します。私が命をかけて戦ってきた4年間の成果でございます故、陛下達の利益にする事だけは致しません。
私を陥れ汚名を着せ命を奪おうとしてきた陛下・宰相閣下・リチャード王子殿下・側近候補3名・メリッサ様・ステラ様の利益になる事は全てお断り致します」


「衛兵! 国賊じゃ、其奴を捕らえよ!」

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