【完結】婚約者取り替えっこしてあげる。子爵令息より王太子の方がいいでしょ?

との

文字の大きさ
上 下
23 / 48

23.エリーの夢

しおりを挟む
「エリーの叶えたい夢って?」

「叔母様は船に乗った事はおありですか?」

 突然のエリーの質問にマイラはキョトンと首を傾げた。

「え? ええ、何度か」

「マイケルはガレオン船の事とても詳しくて船には普通女の人は乗れないけど、いつか船に乗せてくれるって言ってくれたんです。だから私はそれまでに船の事を一杯勉強しておくねって約束したんです」

 エリーはあの時見た巨大なガレオン船や朝日に照らされて時折キラッと光った灯台を思い出し目を細めて空を見上げた。


『帆を一杯に張った船が疾走する時、波をかき分けて水飛沫が上がって迫力満点なんだ』


「確かに普通は船に乗れないわね。でも私やお母様が船に乗ったことがあるように方法がないわけじゃないの」

 商船であれば船の所有者である父親や夫に同行する方法。海軍の戦艦であれば士官が妻を同行させたケースと船乗りとして船に乗ったケースがある。その他には航海術を知らず船の運行に貢献しない売春婦がいる。

「タウンハウスにあった本で調べたんですけど、紀元前480年にハリカルナッソス現トルコ共和国の女王アルテミシアと、5世紀半ばに活躍したゴート族の王娘アルヴィルダ。16世紀にはウール族の王娘グラニュウェールがいました」

「エリーは海賊になるの?」

「とんでもないです。船の持ち主になるかその家族なら女性でも船に乗れるってわかっただけです」

「ほう、家族ねぇ。マイケルと?」

「え? あっ! いえ、あの」

 マイラが揶揄うと真っ赤になってしどろもどろのエリーはパタパタと手を振り回した。

「ふふっ、お母様が貿易会社に利権を持ってるのは知ってる? お母様もエリーと同じ事を考えたから自身の船もお持ちなの」

 エリーが目を丸くするとマイラが吹き出した。

「エリーはお母様と血が繋がってないはずなのに本当に良く似てるわ。大人しそうに見えて心の強いとこや既成概念に囚われないとことか」

「私は地味で目立たない方だと・・」

「11歳で家出して教会に保護を求めるとか。しかもメソメソ泣いたりしないで私達が迎えに行くまで冒険を楽しんでたんでしょう?」

 マイラにそう言われると『確かに』とエリーは納得した。宿を出る時も教会でも不安はあったが泣いたり落ち込んだりはしていなかったと思い出した。
 アリシアとマイラは必ず迎えにきてくれると信じていたからと言うのはあったが、もし兄のフレディやミリーだったら自分ほど元気に楽しんではいなかっただろう。

「お祖母様に似ているところがあるならとても嬉しいです。それどころか最高の気分」



 夕方日が陰り始める前にタウンハウスに戻ったがお昼に食べすぎたせいで夕食が入らないと困っているとアリシアから伝言が届いた。

「大奥様は夕食にお出かけになられるそうなのでお茶だけでもと仰られておられますが?」

 エリーが昼間に描いたデッサンを持ち大急ぎで2階の居間に行くとアリシアと手紙を読んでいるマイラがソファに腰掛けていた。


「ガーデン・スクエアは楽しかった?」

「はい、とっても楽しかったです」

 エリーがその時描いたデッサンだと言いながら手渡すとじっくりと時間をかけて細部まで見ているアリシアに胸がドキドキしてきた。

「よく描けていますよ。木々の間から覗いている窓は多分エリーの部屋の窓ね」

「はい、叔母様がとてもいい場所を教えてくださったんです」

 頬を赤らめながらガーデン・スクエアで見つけた物や気付いた事を勢い込んで話すエリーをアリシアが優しい笑顔で見つめていた。

「試験は大事だけど偶には出かけるのも気分転換になっていいわね。聞いている話では十分な学力はありそうだし少し肩の力を抜いてサロニカの街を楽しんでらっしゃいな」

「試験が終わったら一杯お出かけとかしたいと思います。あと少ししか時間はないし、少しでもいい成績で試験に合格したいんです」

 後先考えず家を飛び出したエリーを快く受け入れた上にサロニカにタウンハウスを購入してまでパドラス附属学園への入学試験に間に合わせてくれようとしたアリシアとマイラの為にエリーはなるべく良い成績をとりたいと思っていた。

(試験が受けられるだけの学力があるのもお祖母様達が準備してくださった教材のお陰だし)

 アリシアの屋敷に引き取られていた間エリーにつけてくれた家庭教師だけでなく伯爵家に戻ってからも参考書や教材を度々送ってくれた。それがなければパドラスの受験など到底叶わなかっただろう。

(試験の成績順でクラス分けされるんだもの、頑張って出来るだけいい成績で入学するわ!)


「今日、サイラスから手紙が届いたの。と言うかリューゼルに届いた手紙をこちらに転送してもらったの」

しおりを挟む
感想 75

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたにすべて差し上げます

野村にれ
恋愛
コンクラート王国。王宮には国王と、二人の王女がいた。 王太子の第一王女・アウラージュと、第二王女・シュアリー。 しかし、アウラージュはシュアリーに王配になるはずだった婚約者を奪われることになった。 女王になるべくして育てられた第一王女は、今までの努力をあっさりと手放し、 すべてを清算して、いなくなってしまった。 残されたのは国王と、第二王女と婚約者。これからどうするのか。

妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。

バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。 瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。 そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。 その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。 そして……。 本編全79話 番外編全34話 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜

ゆうき
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。 エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。 地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。 しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。 突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。 社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。 そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。 喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。 それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……? ⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎

元カレの今カノは聖女様

abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」 公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。 婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。 極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。 社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。 けれども当の本人は… 「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」 と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。 それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。 そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で… 更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。 「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話

彩伊 
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。 しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。 彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。 ............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。 招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。 送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。 そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。 『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』 一日一話 14話完結

お金に目の眩んだ最低な婚約者サマ。次は50年後にお会いしましょう

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
《魔法を使う》と言われる商会の一人娘アイラは幼馴染の婚約者エイデンの裏切りを知る。 それをエイデンの父母も認めていることも。 許せるはずはない!頭にきたアイラのとった行動は? ざまあが書きたかったので書いてみたお話です。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

処理中です...