【完結】結婚しておりませんけど?

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16.ヘタレのくせに

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「確かに、商人としては問題ない気も致します」

「でしょ? イケメンなだけでなくて話もわかるなんて超最高! イーサンはぁ行き遅れのサラを貰ってあげるの~。だけどぉ、結婚はアタシとするのぉ」

「⋯⋯意味がよく分かりかねますか? 差し支えなければお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「まあ、あれだ。『真実の愛』ってやつだな。可哀想な行き遅れに慈悲を与える代わりに俺達は『真実の愛』を手に入れる」

「⋯⋯モーガン侯爵家に請求されると言う事は、お二人の愛の巣を形作る家具をモーガン家が購入される。
なんともお心の広い方々なのですね」

「まあな、持参金の追加か前渡しみたいなもんだな。彼等は昔からサラのことを可愛がっているからな、嫁に貰ってもらえるならどんなことでもするはずなんだ」

「サラってもう24歳なのよぉ。その歳まで一度も釣書も来なかったって⋯⋯超恥ずかしい女なの。あっ、知り合いなら知ってるよね」

「確かに婚約の話は今まで聞いたことがないと仰っておられました」

「だろ? それなのに次期公爵の俺が貰ってやるんだ。ほんとアリーシャと暮らせないなら生きてる意味がないくらいのショックだよ」

 イーサンが『はぁっ』と溜め息を吐いた。

「ボクス公爵家にお支払いいただく事は可能でしょうか?」

「あー、無理だな。母上が超煩いんだ~」

 ライリーが自分達の理解者だと勘違いしたイーサンが内情をポロッと暴露し首を横に振った。

「昔も反対されてさぁ、アタシ達離れ離れになっちゃったの。だから今度こそ幸せになろうねって言ってるんだぁ」

「他人の金で?」

「はへ?」

「母親からは金が出ないから、他人から金をもぎ取って愛人と住む家を準備するって事ですよね?」

「お、おいおい。そんな⋯⋯大した事じゃないんだよ。お前らには分からんだろうが、愛人のいない貴族なんていないんだからな」

「うちはこの取引を断ります。欲しけりゃ他所で探してもらうしかありませんね」

「はあ? こんなに時間をかけて見て回ったのに今更断るだと!?」

「そうよ! あの家具はアタシに使って欲しがってるもん」

「今回の件にローゼン商会が関わった場合、愛人を囲う為だと知りつつ商品を販売したなどと言われ、モーガン侯爵家から抗議される可能性が高いですね。
真面に払うなら話を受けるつもりでしたが。温情をかけて1週間待って差し上げましょう。モーガン侯爵家の奴が金を持ってくるなら取引成立ですが、お前らとは商売の話どころか顔も見たくないですね。
お客様がお帰りだ、入り口まで案内して差し上げてくれ」

「はい、入り口までご案内いたします」

 無理矢理外に追い出されたイーサンとアリーシャは呆然としていた。

 倉庫街には人気がなく乗ってきた馬車の影も形もない。

「これ、どうやって帰るの?」

 ドンドンとドアを叩く音とイーサン達の怒鳴り声が聞こえるが、ライリーは無視したまま倉庫の裏口に向かって歩いて行った。



「あのままでよろしいのですか?」

「日が変わるまでには帰れるだろ? 念の為影もつけてあるしな」

「それはようございました。あのまま放置するおつもりかと」

「できればそうしたかったが、何かあったら寝覚が悪いだろ?」

 カチャリと裏口のドアを開けると来る時に乗っていた馬車が待機していた。

「しかし⋯⋯この歳で御者役を仰せつかるとは思いもせず、楽しませていただきました。坊ちゃんのお言葉が時々崩れていたのは気にかかりましたが」

「ケビンなら御者から護衛までなんでもこなせるからな。それと、坊ちゃんはやめてくれ」

「ヘタレのくせに」

「は?」

「存じておりますよ、一度釣り書をお送りして一度申し込みを断られて⋯⋯そのままウジウジと。ヘタレ以外のなんだと言われるのでしょうか」

「釣書は送った途端ビクトリアが纏わりついて地獄をみたし、断られたのはまあ⋯⋯チャンスを狙ってるんだよ」


『モーガン侯爵家と縁が続いている間は誰とも婚約しない方がいいって思ってる⋯⋯きっと迷惑をかけるから』


「この件が片付いたら今度こそしのごの言わせない。俺の執着から逃げられるわけないって、諦めてもらうさ」

「まあ、種族の特性ですからねえ。坊ちゃんのお子を楽しみにしております」

「気が早いな」

 苦笑いを浮かべたライリーはケビンと共に御者台に乗り込んだ。片眉を上げたケビンに向かってライリーが呟いた。

「奴らの座った後なんて絶対やだね。この馬車は⋯⋯父上専用にしてもらおう」

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