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9. 誰がためにざまぁする

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 ニヤリと笑ったメリッサがパチンと指を鳴らした。

「ぎゃあー、なにこれええ!!」

「痛い、痛い痛い痛い! おま、黒魔術だな。やめろおー」

 イーサンとアリーシャの髪がまるで誰かに掴まれているように引っ張り上げられ、顔を引き攣らせて叫ぶ二人が入り口に向かって歩きはじめた。

 誰も触れていない入り口のドアがバタンと大きな音を立てて開き⋯⋯。

「うぎゃ!」
「あが!」

 ドスンという音と共に入り口から放り出された。

 カランカランカラン

 ドアが静かに閉まった後の鎮まり帰った店の中にはドアベルの優しい音が鳴り響いた。



 パチ、パチパチパチ


 2階から階下の様子を伺っていた客達の拍手が聞こえてきた。

 真っ赤な顔をしたメリッサが優雅な礼をして2階を見上げた。

「お騒がせ致しました事、心よりお詫び申し上げます。お詫びにもなりませんが、お帰りの際にお声をかけていただければささやかなお品をプレゼントさせていただきます」

 店の隅に下がったサラはメリッサの周りをふわふわと飛び回る精霊の姿を目で追いかけていた。

(風の精霊ね、ありがとう)

 キャラキャラと笑った精霊達はメリッサの周りで飛び跳ねて⋯⋯ふっと姿を消した。


「メリッサ様、素敵でした!」
「あれは風の精のお力ですか?」
「権力なんかに負けない、最高のレディですわ!」

「お慕いしております!」



 その日の夕刻、談話室に集まったメンバーの中でアイスワインを抱えたライリーがギルバートから羽交締めにされていた。

「それ全部一人じゃ飲めねえよな。ほら、俺が開けてやるからよお⋯⋯みんなでパーっと飲もうぜ!?」

「くっ! ギルバートに飲まれたら俺の口に入らなくなるだろうが! これはぜーんぶ俺のものだー」

「やっぱりサラには見えるんだね」

「うん、すごく可愛かった」

「なな、何が見えるんですか?」

 部屋中を逃げ回るライリーと追いかけるギルバートを無視したまま、サラ達3人はオレンジジュースで祝杯をあげていた。

 少し吃る癖のあるタイラーはギルバートの幼馴染。

 タウンハウスが隣同士だったのが縁で結ばれた兄弟のような関係だとギルバートは言うが、『げげ、下僕かペット』とタイラーが小声で呟いたのを全員が聞き逃さなかった。

 ギルバートはタイラーが可愛くてしょうがないらしいが、脳筋すぎてタイラーを振り回している事に気付いていない。

 気の弱いいじめられっ子だったタイラーを守るのは自分しかいないと思い込んでいたギルバートがタイラーを守ると決めてから20年近く経っていると言う。

 タイラーもギルバートの優しさに気付いてはいるのだが、ギルバートの暑苦しい兄弟愛に溺れ気味でアップアップする事も多かったらしい。

 少し引きこもり体質だったタイラーを『社会勉強だ!』と言って引き摺って⋯⋯首根っこを捕まえて引き摺ってきたのがサラ達との付き合いのはじまり。

『ロロ、ローゼン商会に入ってから、すっ少しマシに⋯⋯たた、頼りにはなるけど』



 逃げ回っていたライリーがアイスワインをタイラーの膝の上に『ポン!』と投げて落とした。

「ひやぁ!! ななな、なにを」

「⋯⋯⋯⋯くそ、負けた~!」

 タイラーに甘いギルバートは彼の手からアイスワインを奪えないと知っているライリーの作戦勝ち。

「メリッサの積年の恨みも晴らせて『ダブルざまぁ』だったな」

「ええ、もーすっきり爽快って感じ~! サラにお礼をしたいくらいだわ」

「不幸中の幸いってやつだな」

 アイスワインとギルバートを交互に見ながらニヤッと笑ったライリーがメリッサに向かってサムズアップした。

「次はサラんとこかライリーのとこだよな? もっかい賭けようぜ」

「私はサラんとこに賭けるわ」

「俺もサラのとこかな」

「ぼぼ、僕もサラさんとこに」

「えー、それじゃあ賭けになんねえ。なら俺はライリーんとこだな」

「私はタイラーに賭ける」

 サラの発言で全員がキョトンと首を傾げた。

「⋯⋯えーーー! ぼぼぼ、僕ですか!?」

「なら、俺は賭けから抜けて景品を準備しとこうかなぁ」

「ライリー、せこいぞ! サラの予測ならタイラー一択じゃねえか」

「ふっふっ、言ったもん勝ち~。景品はカルディアのホールケーキ」

「あ、あの⋯⋯なな、なんで僕なんですか? まま、まだ店開いてませんけど」


「告知は済んでるから、どこかで話を聞いたら押しかけてくるんじゃないかな~って。
結婚式の料理とかなら予約だけだからお金を持ってなくてもいけるとか思いそうだし、他の人より先駆けてローゼン商会の新規事業を利用したとかって自慢しそうじゃない?」

「自慢になるか?」

「自慢になると言うより自慢できると思い込む⋯⋯かな」

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