【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます

ティルスへ

12.ベレル捕獲

「リディア様、いけません。
大男のガンズは平気で腕力に訴えるような男です。
ブルック伯爵にお任せしましょう」

「だって、証拠を隠されたり口裏を合わされたりされると面倒でしょ？
無駄な時間がかかってしまうもの」

「しかし、他の貴族の領地で問題が起きたら大変なことになります。
万が一ガンズ達が罪を逃れたら、伯爵家の責任になりかねません」

「そうか、それもそうね」


　ルーカスがほっと一安心したその時、
「では、彼らに目の前で罪を白状してもらうか、罪を犯してもらうかしましょう」


「なっ！」
　ルーカスが絶句した横で、マーサは“またか”　と溜息をついている。

「おっさんのお嬢様、怖すぎ」
　アレクが顔を引き攣らせていた。



「スペンサー商会の商会長がこのようなお若い女性とは存じませんでしたな。
で、今日はどう言ったご用件で？」

「こちらの港を利用するにあたって、いくつか調べておきたいことがあって参りましたの。
この辺りは漁業が盛んでしょう？
大きな船の出入りとなると影響が出ないかと心配で」

　ベレル仲買人は新しい仕事の話にご機嫌で揉み手をしている。

「左様ですな。大きな船が川岸近くを走って土手や隔壁、柵や棚なんかに影響が出ることもありますな」

「仲買人の方ならそう言う話もよくご存知かと思いまして」

「ええ、ええ。勿論ですとも、私どもは漁師ギルドからよく聞いております」


「こちらの港で良質の魚を仕入れようと思ったら、仲買人の仲介が必要になりますでしょう？」

「勿論です。仲買人を通さない取引は禁止されておりますからな」


「ですからこちらに新たな仲買人をおきたいと思いまして」

　ベレルが顔色を変えて、
「はっ？　そのような勝手が通るとお思いですかな。
仲買人ギルドが黙っておりませんぞ」

「私共の商会が大々的にここで取引すると申せば、ギルドの参審員の方達は二つ返事で許可を下さると思いますの。

信用のおける者と取引した方が安心できますから」


「私の事が信用出来ないと仰られるのですかな？」

「街中で色々噂を聞きましたのよ。
この町では、仲買人と漁師ギルドが癒着しているのは有名だそうですわね」

「何のことを仰っているのか見当もつきませんな」

「と言うわけで、そう言う噂のある方と取引をするのは遠慮させて頂くことにしましたの」


「巫山戯るな、女だと思って優しくしてやったら。
このわしを馬鹿にして只で済むと思うなよ」

「脅しですの？　正規の仲買人が商人を恫喝するなど聞いたこともありませんわ」


「わしを追い出したら、あんたはこの港では商売できなくなると思え。
漁師ギルドはな、わしとしか商売はせんのじゃ」


「あら、何故ですの？　その様子だと仲買人と漁師ギルドの癒着の話は本当なのですね」

「癒着だと？　お飾りの商会長には分からんだろうがな、大人には大人の仕事のやり方があるんじゃ！」

「価格のコントロールをして暴利を貪るのが大人のやり方ですの？」

　ベレルは真っ赤な顔で身を乗り出し、
「それがどうした？　漁師は金が欲しけりゃもっと働けばいいだけの事よ」


「お聞きになりましたかしら？」

「は？」

　ドアがバタンと開き、ケビン漁師ギルドの長老が入ってきた。

「ベレルさん、あんたの無茶な言い分はしっかりと聞かせてもらったよ。
今まであんたとガンズの横暴の尻尾を掴めなんだが、これで漸く漁師達に顔向けが出るわい」


「きさまー、嵌めやがったな」