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ティルスへ

6.爆睡中のアレクの横で

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 ルーカスがアレクを抱えて部屋に上がりベッドに寝かせた後、くすねたパンをポケットの中から取り出した。

「先程の食欲からすると一食分にも満たないでしょうが、非常食としては大量ですね」

 ルーカスは、取り出したパンを丁寧に布で包んでいる。

 不思議に思ったリディアは、
「そのパンをどうするの?」

「帰る時アレクに持たせてやろうと考えています」

「ねえ、このまま連れて帰っちゃ駄目かしら。
放っておいたらいずれまたスリを働くかもしれないでしょう?」

「恐らく明日には獲物を狙って街を彷徨いている事でしょうね」

「そんなの絶対に駄目よ。逃げ出さない様にしっかり見張っててね」

 ルーカスが首を横に振り、
「リディア様も、アレクが床に座ろうとしたのをご覧になったはずです。
これ以上関わり合うのは反対です」

「見たわ、だから明日詳しく事情を聞くのよ。
絶対に助けるって決めたんだから」


 リディアは爆睡しているアレクをじっと見つめているが、アレクはよほど疲れていたのかピクリとも動かず眠っている。


「ご主人がイスラムの人だったのかしら?」

「そうかもしれません。
そうであれば死後解放されたので問題はないですが、逃げ出した奴隷だと厄介です。
特徴のある見た目ですから、直ぐに捕まってしまうでしょう」

「明日アレク用のマントを準備しなくちゃ」


 ルーカスは溜息をつき、
「リディア様、奴隷やアレクの様な子供を全て救う事は不可能です」

「分かってる。でもね偶々にしろ出会ったのよ、だったら助けたいって思うでしょう?
この年から勉強すれば商会で働ける様になるわ」


「リディア様がそれを続けられるのであれば、商会は慈善団体になりますね。
改名されますか?」

 ルーカスの嫌味に、リディアは溜息をついた。

「そんなつもりはないわ。
あくまでも商会は営利団体としてこのまま存続させるつもり」


「逃亡奴隷でなかった場合に限られますが、修道院に併設された施療院に送り届けるのが一番妥当なのではありませんか?」

「確かに施療院に行けば衣食住には困らないかもしれない。
でもそれだけでしょう? 施療院では富裕層からの施しを受けてそれで終わり。
アレクの将来は? このままで一生を過ごす事になるわ」


「それは彼の努力次第では? どこかの親方に弟子入りするとか、何かしらの仕事を見つければ良いのではないでしょうか」


「それが難しい事はルーカスだって知っているでしょう? 身寄りのない子を雇う人は滅多にいない。
アレクがそんな幸運に会えると確約できる?」

 ルーカスは黙り込んでしまった。



「ルーカスは、商工ギルドが始めたフラタニティって聞いたことがある?」

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