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ティルスへ
5.乗りかかった船
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「気付いてないと思っておられたのですか?」
「誰も気付いてないといいなと思ってたんだけど。他にも気付いた人はいたかしら?」
「数名気付いている者はいましたが、あの時点で名乗りを上げなかったところをみると大丈夫ではないかと思います」
「だと助かるわ」
リディアは少年に串焼きを渡した時、大男の巾着をスリの少年のポケットから引っ張り出した。
そしてマーサ達が駆け寄ってきた時、大男の後ろに巾着を滑らせる様にして投げた。
「その子が巾着を持っている事、よく気がつかれましたね」
「ポケットが膨らんでて、この子が触られたくなさそうにしてたから」
ルーカスが眼鏡を直し、
「あんな短い時間で、よくもあれだけの事が出来たものです。
リディア様の行動力には恐れ入りました」
リディアは肩をすくめ、
「ルーカスの顔色からすると褒められてる訳ではなさそうね」
「当然でしょう? 下手すればスリの仲間だと思われていた可能性だってあったのですから」
「だって、あのままだとこの子は牢屋に入れられてたわ」
「罪を犯せば、それなりの処罰が与えられるのは当然のことだと思います」
「そうなんだけど・・もうスリなんかしちゃ駄目よ」
「・・もう降りていい? さっきは助かったけど、お礼は言わない。
あんたのせいで今日の稼ぎがパーになっちまった」
「殴られても良かったの?」
「そのくらい屁でもない。飯が食えりゃ何でもいい」
「ルーカス、この子の服を買って宿屋に行くわ。
この子に湯浴みさせなくちゃ。
側にいるとあちこちが痒くなってきたわ」
少し前から顔が真っ青になっていたので、マーサも気付いていたのだろう。
「リディア様、まだこの子に関わるおつもりですか?」
「当然でしょう? こう言うのを“乗りかかった船” って言うのよね」
リディアは逃げ出そうとする子供の手を掴み、無理矢理宿に連れて行った。
隣の部屋から、いつも沈着冷静なルーカスの怒鳴り声と嫌がる子供の声が聞こえてくる。
強制的に湯浴みさせたのだが、綺麗になるまでに何度もお湯を変えなければならないほどの汚れだったらしい。
子供の服を全て処分し、新しい服を着せると見違えるほど綺麗な顔をした少年に変身した。
「プラチナブロンドだったのね、さっきは汚れすぎて分からなかったわ。
さあ、ご飯を食べに下へ行きましょう」
腕を掴んでいるルーカスから逃れようとジタバタしていた少年は、ご飯と聞いて突然大人しくなった。
「飯? 俺も食っていいの?
金なんて持ってないよ?」
「心配しないで、料理の代金を払えなんて言わないわ」
リディア達が席に着くと、少年は床に座ろうとした。
「椅子に座ってちょうだい」
少年は座ると椅子が壊れると思っているかの様に、恐る恐る腰掛けた。
「名前を教えてくれるかしら?」
「名前なんてない。おいとか、お前とか何でもいいよ」
「それじゃあ困るの。お友達はあなたの事何て呼んでるの?」
「・・アレク」
「アレク、いい名前ね。さて好きな物を注文してね」
アレクは片っ端から料理を頼み、ものすごいスピードで食べ尽くしていく。
何枚もの空の皿が積み上がり、漸くお腹が一杯になったらしいアレクは、そのままテーブルに突っ伏して眠ってしまった。
「誰も気付いてないといいなと思ってたんだけど。他にも気付いた人はいたかしら?」
「数名気付いている者はいましたが、あの時点で名乗りを上げなかったところをみると大丈夫ではないかと思います」
「だと助かるわ」
リディアは少年に串焼きを渡した時、大男の巾着をスリの少年のポケットから引っ張り出した。
そしてマーサ達が駆け寄ってきた時、大男の後ろに巾着を滑らせる様にして投げた。
「その子が巾着を持っている事、よく気がつかれましたね」
「ポケットが膨らんでて、この子が触られたくなさそうにしてたから」
ルーカスが眼鏡を直し、
「あんな短い時間で、よくもあれだけの事が出来たものです。
リディア様の行動力には恐れ入りました」
リディアは肩をすくめ、
「ルーカスの顔色からすると褒められてる訳ではなさそうね」
「当然でしょう? 下手すればスリの仲間だと思われていた可能性だってあったのですから」
「だって、あのままだとこの子は牢屋に入れられてたわ」
「罪を犯せば、それなりの処罰が与えられるのは当然のことだと思います」
「そうなんだけど・・もうスリなんかしちゃ駄目よ」
「・・もう降りていい? さっきは助かったけど、お礼は言わない。
あんたのせいで今日の稼ぎがパーになっちまった」
「殴られても良かったの?」
「そのくらい屁でもない。飯が食えりゃ何でもいい」
「ルーカス、この子の服を買って宿屋に行くわ。
この子に湯浴みさせなくちゃ。
側にいるとあちこちが痒くなってきたわ」
少し前から顔が真っ青になっていたので、マーサも気付いていたのだろう。
「リディア様、まだこの子に関わるおつもりですか?」
「当然でしょう? こう言うのを“乗りかかった船” って言うのよね」
リディアは逃げ出そうとする子供の手を掴み、無理矢理宿に連れて行った。
隣の部屋から、いつも沈着冷静なルーカスの怒鳴り声と嫌がる子供の声が聞こえてくる。
強制的に湯浴みさせたのだが、綺麗になるまでに何度もお湯を変えなければならないほどの汚れだったらしい。
子供の服を全て処分し、新しい服を着せると見違えるほど綺麗な顔をした少年に変身した。
「プラチナブロンドだったのね、さっきは汚れすぎて分からなかったわ。
さあ、ご飯を食べに下へ行きましょう」
腕を掴んでいるルーカスから逃れようとジタバタしていた少年は、ご飯と聞いて突然大人しくなった。
「飯? 俺も食っていいの?
金なんて持ってないよ?」
「心配しないで、料理の代金を払えなんて言わないわ」
リディア達が席に着くと、少年は床に座ろうとした。
「椅子に座ってちょうだい」
少年は座ると椅子が壊れると思っているかの様に、恐る恐る腰掛けた。
「名前を教えてくれるかしら?」
「名前なんてない。おいとか、お前とか何でもいいよ」
「それじゃあ困るの。お友達はあなたの事何て呼んでるの?」
「・・アレク」
「アレク、いい名前ね。さて好きな物を注文してね」
アレクは片っ端から料理を頼み、ものすごいスピードで食べ尽くしていく。
何枚もの空の皿が積み上がり、漸くお腹が一杯になったらしいアレクは、そのままテーブルに突っ伏して眠ってしまった。
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