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ティルスへ

3.ティルス

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「で、イーサンも言いたい事がありそうだね」

「俺がいない間にルーカスもセオも面白そうな事やりやがって。
帰ったらセオのケツ蹴り上げてやる」


「私は何もしていない。セオと一緒にしないでもらえるかな?
リディア様の同行をしているだけで、マーサもいるし別室に部屋を取っている」


「イーサンはここに縛り付けられているのがお気に召さない様だね。
なんならリディア達に同行しても良いんだけど?」

「そう言う訳じゃない。何となくイラッとしただけで、ここでの仕事は楽しんでる」

「そう言ってもらえると助かるよ。
今イーサンに捨てられると、ランカスター伯爵が変な勘ぐりを入れてきそうだからね」


「ランカスター伯爵はその後問題ないかしら?」

「取り敢えず何とかなってる」

「と言うことは、イーサンに対してかなり不快な態度をとっていると言う事ですね」


 イーサンはランカスター伯爵のことを思い出したようでうんざりした顔になり、

「ルーカスの情報分析は流石だな。
まあ、大したことはないから」


「もしかして「あの時はあれが最善だったんだから、お嬢が気にすることはないから」」


「この後はティルスに行くんだね」

「ええ、あそこはブルック伯爵の領地だから河川交易の話をしやすいと思うの。
割とすんなり話が纏まるんじゃないかしら」

「ブルック伯爵とは在地剰余の話をした事があるって事?」

「河川交易を思いついたきっかけが、ブルック伯爵とダーリントン侯爵から聞いた話だったの。
そう言えば、ジョンバーグ伯爵やダーリントン侯爵との話も中途半端なままなんだわ」


 リディアはティルスの後で、ダーリントン侯爵のところだけでも寄って帰ろうかと思案を始めた。


「リディア、このメモを父上に渡してもらえるかな?
一応ランカスター伯爵にはイーサンから俺への善意? のプレゼントと言うことにするつもりなんだけど」

 メモを見たリディアは、
「農機具ね。お父様が喜ぶわ」

「愛の証とか言って揶揄いやがったくせに」

 イーサンがスペンサーのいない方に向かって、小声でぶつぶつ言っている。



 ティルスは東のアルザスと南西のチュニスを結ぶ宿場町として、また道と川を繋ぐ河岸都市としての機能を持っている。

 ロレンヌ河沿いの大きな港には、大きな船が泊まっているのが見える。

「あれはコグ船?」
「少し旧型のコグ船ですね」

 街は港に向かってやや下り坂になっており、港で荷物の積み下ろしをしている様子が遠くからでもよく見えた。

「後で港を覗いてみたいわ」
「畏まりました。あまり遅くない時間に参りましょう」

 ティルスの街は碁盤の目の様に整備されており、緩やかな傾斜地に明るい色を塗った家が立ち並んでいる。

 酒場や宿屋も多く、賑やかな声があちらこちらから聞こえてくる。

「どのお店かしら? 何だか美味しそうな匂いがするわ」
「川魚の焼ける匂いのようですね」

 店先でカマスや白子鰻の塩焼きを売っていた。

「美味しそう。おじさんこっちを3つ頂戴」
「あいよ、こいつは今朝捕れたばかりの新鮮なやつだぜ」
「いい匂いがするもの」
「だろう? へいお待ち、嬢ちゃん熱いから気をつけなよ」

 マーサが2つリディアが1つ受け取りルーカスがお金を取り出した時、後ろで大きな怒鳴り声が聞こえて来た。

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