【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます

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イーサンを探せ

4.ワット=タイラー

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「お嬢の探し物見つけた」

「「イーサン!」」

「まずはなんか食べてからにしてくれ。
明け方漸くベッドに潜り込んだばかりなんだ」

「ご亭主、イーサンに思いっきり香辛料を利かせた食事をお願いします」

 イーサンは寝癖のついた髪をガシガシとかきながら、
「お嬢、それ酷くないか?」

「大丈夫、お話を聞いたら沢山寝かせてあげますわ」

「はぁ、まあ気持ちは分かるけどな」


 宿の亭主がパンとシチューと香辛料の効いたグリューワインを持ってきた。


 イーサンはリディアのズボン姿を見てニヤつきながらワインを飲んだ。

「この街が今どうなってるか知ってるか?」

「貨幣地代制による人手不足?」
「ご明察。その後は?」

「よくあるのは、農奴制の復活・新しい税の導入・奴隷の購入・・まさか?」

「全問正解だな。

賃金労働者は高くて雇えない。
んで奴隷を買ったが高くつきすぎて金庫が空になった。そこでだ、

・12歳以上の農民全てに人頭税を導入
・賦役労働の復活
・住居や職業の移動禁止
・農村共同体の共有地取り上げ

と、とんでもねえお布令を出しやがった」


 亭主はイーサンの説明を聞きながら、
「あいつら、農民を隷農奴隷のような農民みたいにこき使おうとしてやがるんだ」


 宿の亭主の妹は農民と結婚しており、甥が二人と姪が一人いる。
 もし今回の政策が施行されたら、妹家族は隷農の様な生活になると話した。

「そんな家族がごまんといるんだ」

 真剣に話している亭主を他所に、イーサンはリディアの後ろ姿を覗こうとして、マーサに睨まれていた。

「マーサ、そんなに睨むなって。
で、農民達が抗議したら、“領主には賦役を要求する権利がある” とか言い出した。
で、みんなブチ切れてる。当然だがな」

「殆どの農民は今でも地代・結婚税・死亡税・教会への十分の一税を払ってるんだ。
その上人頭税まで増えたらやってけねぇ。
金持ちは金を払って自由民になって、地代だけ払えば良くなった。

でも、貧乏人は貧乏なままだ」


「領主が大量購入した奴隷はな、一部がムスリムで殆どがスラブ人だった」

「その中の一人が?」

「丁度馬車で奴隷達が輸送されてくとこに遭遇したんだが、そいつらが歌ってた歌の歌詞がな、

“アダムが耕しイブが紡いでいた時、だれが領主だったか”

このフレーズ、聞き覚えがないか?」

「平等を説いた僧侶ジョン=ボール、1381年6月ワット=タイラーの乱」

「流石だな。
昔、お嬢の屋敷に監禁された時読んだ本の中にあった。
奴隷が知ってる事もびっくりだが、偶然で片付けていいとも思えなくてな。
後をつけて、領主の館に忍び込んだんだ」

 リディアは両手を握りしめて瞬きもせずイーサンを見つめていた。


「あんたのその目とそっくりだったよ」

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