【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます

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イーサンを探せ

2.パルミラへ

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「反対です。絶対に駄目です」

「マーサ、イーサンが巻き込まれているのよ。放ってなんておけないわ」

「本当にパルミラにいるのかも分からないんですよ。
イーサンが一揆に巻き込まれていて連絡が取れないのだったら、パルミラに行っても会えるかどうか分からないじゃありませんか。
危険すぎます」

「だったら一人で行くわ。
イーサンが行った頃と状況が変わってないなら入る事は出来るから。
大丈夫、また男の格好で行くわ」

「そのおかしな癖はやめて下さい。
この間はセオが一緒でしたし、よく知っている傭兵も一緒でした。
もしイーサンに会えても喜ばれるどころか怒られるだけですよ」

「お願いマーサ。どうしてもパルミラに行きたいの」

 両手を握りしめて必死に頼むリディアに、頑として首を縦に振らないマーサ。

「その手は私には通用しませんから」


 二人の戦いは翌朝まで続いた。



「約束は覚えてらっしゃいますね」

「覚えてるわ。
着いた日にイーサンに会えなかったら諦める。
スペンサー商会の名前は出さない。
少しでも危険だと思ったら領主に助けを求めてでも街を出る」

「絶対に守って下さいね。絶対ですよ」

「分かってる。ねえ、マーサはここで待っててくれた方が良いと思うんだけど」

「ではお嬢様も行くのを止めると?」

「・・やめない」

「では、参りましょう」


 リディアとマーサはズボンを履きマントを被って宿を出発した。

 今はパルミラへ向かう荷馬車に便乗させてもらっているが、揺れと埃がひどく顔を上げていられない。

「普段使ってる馬車のありがたみが初めて分かった気がするわ」

 マーサは舌を噛むのが怖いのか、俯いたまま黙ってこくこくと頷いている。


 パルミラはランカスター伯爵の領地。山が少なく平坦な土地が多い為広大な農地を所有している。
 主な農産物は小麦と燕麦。

 その他に羊の放牧も盛んだが、早くから貨幣地代制を取り入れた事で一躍有名になった。

 街はロレンヌ河の支流にあたるモール河沿いにあり、荷馬車は街の入り口から少し入った所にある市場で止まった。


「まずは酒場で情報収集しましょう。
この街にギルドがあるのかどうかもわかるはず」

「酒場・・危険な予感しかしません」

 マーサが溜息をついた。


 リディア達はフードを被って街中を歩いているが、周りの店には沢山の商品が並び物売りが声を上げている。

 籠を抱えた女達が足早に通り過ぎ、子供達がその後を追いかけている。

「本当に農民一揆が起きるのかしら。
カルムの港町は危険な状態だってはっきり分かったけど、ここは凄く長閑だと思わない?」

「ギルドの長老の情報が間違っていたのではありませんか?」

「それはないと思うわ。
イーサンの報告では、パルミラの農産物はグリューニーで全て取引されていて、貨幣地代制を取り入れた話もグリューニーのギルドで聞いたって言ってたもの」

「貨幣地代制って、領主の畑を耕す賦役ふえき・労働の代わりに貨幣で払うって言う制度ですよね」

「そうよ、それまで現物で納税されてたのが貨幣に変わるから、その後の手間もいらないし何より貨幣は腐らないでしょ?」

「農民もたくさん作ればそれだけお金が貯められる訳ですね」

「この方法って領主は楽に貨幣を手に出来るけど、その分自分の畑を手伝ってくれる人がいなくなる。
それで揉めている領地が結構あるの」

「もしかしてその辺が今回の一揆の原因ですか?」

「かもしれないって思ってるわ。
黒死病でたくさんの人が死んだから、未だに人手不足の領地は多いの」


 酒場の看板を見つけたリディア達は恐る恐る中に入って行ったが、店の中は閑散としていて酒場の亭主が呑気にテーブルを拭いていた。

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