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王都

7.マーサのお陰

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 男は慌ててベッドから飛び降り、大きな音を立てて尻餅をついた。

「夜は一人静かに寝たいほうですの。早々にお帰りくださいな」

 音に気付いたマーサが蝋燭を持って隣の部屋からやってきた。

「お嬢様?」

 座り込んで呆然としていた男は突然立ち上がり、物凄い勢いで逃げ出してしまった。


 マーサが慌てて駆け寄ってきて、
「お嬢様、ご無事ですか? 今の者は一体・・」

「誰なのかは分からなかったけど大丈夫、ほらこれ」

 そう言ってリディアが見せたのは、ベルンへ行く時にマーサがくれたナイフだった。


「こんな場所で役に立つとは思わなかったけど、持っておいて良かったわ」

「ベッドに持ち込んでおられたんですか?」

 手にしていた蝋燭台をサイドテーブルに置くマーサの手が震えていた。

「ええ、何となくだけど」

「良かった、本当に良うございました」
 マーサが泣きながらリディアの手をナイフごと握りしめた。

「マーサのお陰ね。ありがとう」


 今夜はずっと側にいると言うマーサを、それならとベッドに無理矢理引き摺り込んだ。


「懐かしいわ。昔こうやって一緒に寝たの覚えてる?」

「はい、坊っちゃまが行方不明になられた後ですね」

「私、マーサに抱きついてすっごい泣きまくってたのよね。マーサの夜着がびしょ濡れになってた。
マーサ、泣き止まないと今度は私の夜着がびしょ濡れになるわよ」

 リディアは先程の恐怖など微塵も感じさせずにこにこと笑っている。

 マーサは夜着の袖で涙を拭い、
「申し訳ありません」

「何も起こらなかったんだもの、もう泣かないでね」

「はい、あれは誰だったんでしょうか。
まさか公爵邸にあのような不埒な行いをする者がいるなど」

「顔は見えなかったけど、マーサが想像してる人とは別人よ」

「レノン様ではなかったのですか?」

「さっきの男が何を考えていたのかは分からないけど、レノンだったらマーサが来たくらいで逃げ出したりしないと思うの」

「確かに、出て行くにしても堂々としておられるイメージですね」

「でしょ。
それにね、レノンはいつも同じ香油を使ってるんだけど、あの男からは違う香りがしたのよ」

「では使用人の誰かと言う事でしょうか」

「レノンはいつもフランキンセンス乳香を使っていて、柑橘系の爽やかな香りがするんだけど、さっきの男は甘い麝香の香りがしたわ。
使用人が使う香油としては高価すぎる気がするのよね」

「このお屋敷にレノン様以外で高価な香油を使える程の財力のある方がいらっしゃると言う事ですか?」


「それとも高価な香油をプレゼントされた誰かかも」

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感想 13

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