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オークリー&カルム
1.気合と忍耐
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ロレンヌ川の様子を確かめたかったリディア達だが、川沿いには道がなくアンヴィルからオークリーへの移動には、山越えの陸路を使わざるを得なかった。
途中の山ではナラやクヌギの落葉広葉樹が緑豊かに生い茂り、キラキラと輝く木漏れ日と優しく吹く風の騒めきが初夏の暑さを和らげていた。
二つ目の目的地、オークリーにあるダーリントン侯爵のマナーハウス近くまでやってきた。
町には多くの人が行き交い、行商人や花売りの呼び声が聞こえて来る。
店には様々な商品が並び、買い物客と店員の楽しげなやり取りが見受けられた。
大通りは広く、石で舗装されていてとても走りやすい。
「凄い賑わってるわ。セオ? 後で覗きに行っても良い?」
「リディア様、観光に来たのではありませんよ」
「そう、勿論よ。でもちょっとだけ、ね?」
可愛く首を傾げておねだりするリディア。
リディアとセオの掛け合いを横で見ていたマーサが、
「お嬢様、その手を使うのは禁止ですよ。私は責任持ちませんからね。
セオ、気合と忍耐です」
「?」
キョトンとしているリディアと、顔を引き攣らせているセオ。
馬車は大通りをゆっくりと走って行った。
大通りを暫く走り、大きな公園の前にある二階建ての大きな宿屋を見つけたリディア一行は、一先ず部屋で休憩を取り今後の予定を確認する事にした。
部屋に入る前、不安そうにしていたマーサだが、
「良かったです。今日はお部屋も清潔ですしちゃんとお湯も頼めました」
今日一番の笑顔を見せていた。
ダーリントン侯爵への手紙を届けに行ったセオが暗い顔で帰ってきた。
「どうしたの? 何かあった?」
「侯爵様は急な用件でご不在でした。
放牧地の奥で大規模な崖崩れが起きて、侯爵様ご自身が調査に向かわれたそうです」
「まあ、大変だわ。被害があまり出てないと良いわね」
「これからどうしますか? 時間が余ってしまいました」
にっこり笑うリディア。
「じゃあ、今日は町を見て回って明日は港町に行きましょう」
「「・・やっぱり」」
宿から徒歩で出かけたリディアとセオは公園の脇を通り過ぎ、馬車で通り抜けた道を戻って行く。
マーサは慣れない馬車で疲れたからと、宿で休憩している。
リディアが鼻をヒクヒクさせて指を刺した。
「良い匂いがするわ。多分あっちの方ね」
駆け出そうとするリディアをセオが引き止めた。
「リディア様、人混みは危険です。俺の側から離れないで」
リディアは仕方なくゆっくり歩き始めたが、何か見つける度にあちこちふらついている。
「リディア様、本当に迷子になりますって。大人しくして下さい」
セオが眉間に皺を寄せ顳顬をピクピクさせると、
「では、こうしましょう。ね?」
リディアはセオの手を捕まえた。
途中の山ではナラやクヌギの落葉広葉樹が緑豊かに生い茂り、キラキラと輝く木漏れ日と優しく吹く風の騒めきが初夏の暑さを和らげていた。
二つ目の目的地、オークリーにあるダーリントン侯爵のマナーハウス近くまでやってきた。
町には多くの人が行き交い、行商人や花売りの呼び声が聞こえて来る。
店には様々な商品が並び、買い物客と店員の楽しげなやり取りが見受けられた。
大通りは広く、石で舗装されていてとても走りやすい。
「凄い賑わってるわ。セオ? 後で覗きに行っても良い?」
「リディア様、観光に来たのではありませんよ」
「そう、勿論よ。でもちょっとだけ、ね?」
可愛く首を傾げておねだりするリディア。
リディアとセオの掛け合いを横で見ていたマーサが、
「お嬢様、その手を使うのは禁止ですよ。私は責任持ちませんからね。
セオ、気合と忍耐です」
「?」
キョトンとしているリディアと、顔を引き攣らせているセオ。
馬車は大通りをゆっくりと走って行った。
大通りを暫く走り、大きな公園の前にある二階建ての大きな宿屋を見つけたリディア一行は、一先ず部屋で休憩を取り今後の予定を確認する事にした。
部屋に入る前、不安そうにしていたマーサだが、
「良かったです。今日はお部屋も清潔ですしちゃんとお湯も頼めました」
今日一番の笑顔を見せていた。
ダーリントン侯爵への手紙を届けに行ったセオが暗い顔で帰ってきた。
「どうしたの? 何かあった?」
「侯爵様は急な用件でご不在でした。
放牧地の奥で大規模な崖崩れが起きて、侯爵様ご自身が調査に向かわれたそうです」
「まあ、大変だわ。被害があまり出てないと良いわね」
「これからどうしますか? 時間が余ってしまいました」
にっこり笑うリディア。
「じゃあ、今日は町を見て回って明日は港町に行きましょう」
「「・・やっぱり」」
宿から徒歩で出かけたリディアとセオは公園の脇を通り過ぎ、馬車で通り抜けた道を戻って行く。
マーサは慣れない馬車で疲れたからと、宿で休憩している。
リディアが鼻をヒクヒクさせて指を刺した。
「良い匂いがするわ。多分あっちの方ね」
駆け出そうとするリディアをセオが引き止めた。
「リディア様、人混みは危険です。俺の側から離れないで」
リディアは仕方なくゆっくり歩き始めたが、何か見つける度にあちこちふらついている。
「リディア様、本当に迷子になりますって。大人しくして下さい」
セオが眉間に皺を寄せ顳顬をピクピクさせると、
「では、こうしましょう。ね?」
リディアはセオの手を捕まえた。
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