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アンヴィル

3.アレがない宿

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「なんで、ストライキを?」

「領主様が頑固だから、ですって」
「?」

「領主様は好い人なんだがよ、これだ! って思ったら周りが何にも見えなくなんだよな。
しかも、頭ん中には農業のことしかねえ。
農家にとっちゃありがたい話かもしんねえが、領内にゃ農家以外にもいっぱい人はいるっての。
今回ばっかりは、みんな腹に据えかねたんでストラッキって訳よ」

「領主様がね、水の大半を堰き止めてしまったの」

「はあ?」

「勿論、生活出来る程度には水はある。
でも川の水を今までの1/4くれえにしちまった。
んで、井戸の利用にも制限をつけたんだ。
飲み食いする分は減らせねえから、洗濯やら掃除やら風呂やら、そう言うとこを削るしかねえだろ?」

「今夜のお風呂は、諦めなくちゃ駄目みたい。マーサが気絶しないと良いけど」

 マーサの様子を想像してくすくす笑うリディアと、青くなるセオ。

「今度、井戸に見張りを立てるって言い出しやがってよ」

「でも、店は開けてるんですよね」

「店閉めてっと、農家の奴らが代官に文句を言いに行くんだよ。買い物ができねえって。
んで、代官がやって来て煩く騒ぐ。
だから取り敢えず開けてる。
農家の奴らが来ても“ご覧の通り、売りもんはないです” ってなるわけだ」

 亭主が嬉しそうに笑って話している。

「まあ、どっちか勝つか根比ってとこかな」

「生活に支障はないんですか?」
「まあ、あんまり長くなったらヤバいけど、このまま農家だけ贔屓が続くんなら、よその街に逃げ出すしかねえだろうな」

「領主様のとこには、お野菜以外何も届いてないんですって」

「そろそろ、塩だの何だの無くなって困ってるらしいぜ」

 亭主がケラケラと笑う。

「ここでは、3年前から輪作をはじめたそうなの。
休耕田を作らなくて良くなったせいで、農業は加速して好調。
だから、農地を一気に広げることにしたんですよね」

「そう。んで、新しい畑の為に水を確保するって言い出したんだが、訳わかんねえだろ?」

「ロレンヌ川からの水量が、減ったわけではないんですね」

「そんな話は、聞いた事ねぇな。
今の代官は、俺達とまともに話なんかしねえからよ。
んでも、ロレンヌ川を見に行った奴の話では、いつもと変わんなかったって言うから、渇水ってわけじゃなさそうだ」

「今のお話だと、代官は最近来た人なんですか?」

「おう、前の代官はかなりの爺さんだったから、去年王都から孫が帰って来て後を継いだんだ」

「何となく読めて来ましたね」
「ね」

 マーサが2階から降りて来た。

「お嬢様、簡単にですが掃除が終わりました。ご亭主、お湯を頂けますか?」

「バケツに一杯くらいしか出せないんだが、それで何とかしてくれ」

「・・はあ?」

 超綺麗好きのマーサ、大ピンチ。

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