【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます

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第一章 はじまり

6.商人ギルド

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 夏が近づき空には大きな入道雲が出ている。

(珍しいわ。雨になるのかしら?)

 城壁に囲まれているこの町エバンズは、潮風から守られている。
 台風の時にはかなり助かるが、逆に夏の暑さを凌ぐのは難しい。

 窓辺で育てているシクラメンも、最近少し元気がなくなっている。


 リディアは朝の涼しい内に本店に出勤した。
 店の前に植えたレモンタイムが、紅紫色の小さな花を咲かせている。
 近くに寄って深呼吸すると少し厚みのある葉から、レモンの清々しい香りがした。

(少しお店の中に飾ろうかしら)

 8月辺りまで、もう暫く可憐な花を楽しめそう。

 反対側にはサフランが植えてある。
 旧約聖書に“芳香を放つハーブ” と書かれているほど有名で、10月過ぎに薄紫色の花が開く。
 鎮静・鎮痛効果があるからお父様に送ってあげようかしら? と、真剣に眺めているとセオ達が出勤してきた。

「おはようございます。今日は暑くなりそうですね」
「珍しくひと雨来そう」
「こんな時期は城壁が恨めしいです」

 そんな事を言いながら皆、手にした書類でパタパタと扇いでいる。

「レモンタイム、店に飾りますか?」
 セオがリディアに聞いてきた。

「お客様は嫌がるかしら? 匂いって好き嫌いがあるでしょう?」

「いやー、レモンタイムの香りなら大丈夫でしょう」
「嫌いな人って聞いた事ないと思います」

「じゃあ、後で鋏を持ってくるわね」


 店舗奥にある、応接室兼用の会議室に4人全員が集まった。

 イーサンが最初に口を開いた。

「川下に行くほど、商人ギルドと同職ギルドの対立がヤバそう」

「そんなに?」

「川上の方は市井参加なんて気にしてなかったり、相変わらずギルドそのものが無かったりなんだけど。
商業ギルドは結構強気だから。今後はもっと揉めるかも」
 交渉事を担当しているイーサンは、かなり心配そうにしている。

「ギルドのない領地については、領主か代官にお願いするしかないですね。元々領主の在地剰余から始まった話ですから」
 ルーカスが、理路整然と話す。

「帰りの積荷に関しては、同職ギルドにも声をかけるって言うのもありね」

「特殊な素材とかも、物によったら手に入る可能性がありますし」

「その時は、商人ギルドに早めに伝えた方が良いかもな」

「結構ピリピリしてるなら用心しないと面倒な事になりそうね」

「商人ギルドの長老や参審員はどんな感じでしたか?」

「もう、興味津々。下手したらここまでついてきそうな勢い」

 イーサンがうんざりした顔をしている。

「ヴェンナの支店に誰も来ない事を祈ろう」
「騒がれたら面倒だよな」
「一番騒ぎそうなのは都市商人ですね」

 いつも通り、前向きな思考のセオと危険察知能力に長けたイーサン。ルーカスは情報分析専門だ。


「みんなでやる分には構わないんだけど。利権がどうのって、揉めるのが苦手なのよね」

 リディアは商会設立時の、商人ギルドの大騒ぎを思い出して青褪めた。
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